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「では言わせていただきますが、そもそもなぜあなたが怒っているのですか? 怒るならわたくしの方だと思いますが」
お父様方はともかく、私自身はあまりこの件に興味がないので怒ったりしませんけれど。
「だから、」
「それから、わたくしがレイモンド様を放置していたわけではありません。嫌われていたようなのでお互いの精神衛生上距離を取っていただけです。婚約解消しなかったのは貴族同士の婚約だからです。貴族同士の政略結婚、それも王家が決めた公爵家の婚約を勝手な理由で解消できるはずがないでしょう。あなたは貴族というものを理解していますか? いえ、理解できていないから今回のような騒動に発展したのでしたね」
「でも愛し合っている人同士で結婚するべきでしょ! カティア様がもっと早く婚約を解消していれば私のせいにされることもなかったはずじゃない! だから愛し合う私達を邪魔したあなたが全部悪いわ!」
彼女の言うこともある意味正しいのかもしれません。ですが少なくともこのような場で口にするべきことではありません。『愛し合う私達を邪魔したあなたが全部悪い』。その言葉を口にした瞬間、ただでさえ冷え切っていた空気が絶対零度になったのを感じました。あの穏やかな皇帝陛下が本気でお怒りのご様子。こんなにお怒りの陛下は初めて見たかもしれません。私は伯父様に大事にされている自覚がありますがここまでとは……
彼女のご両親は今にも失神しそうで、レモーネ家も……特にレイモンド様は倒れてしまいそうなほど顔色が悪いです。お父様やお兄様方も顔を逸らしていますね……お母様だけは実の兄であまり怖くないのか、むしろもっと怒れと言わんばかりのお顔。周りの様子にはかなり鈍感らしい彼女も、ようやく異変を感じ始めたのでしょうか? 少し怯えているみたいですね。
冷静に周囲を観察しているようですが、当然私も怖いと思っていますよ? だって皇帝陛下、これだけお怒りでも笑顔を崩しませんから。目だけが笑っていないので恐ろしさも増しています。
「お兄様、愛しのカティアが怯えていますよ。今は大人しく見守っていましょう。その怒りは後から思いっきりぶつけてくださいな」
「ああ……悪かったね、カティア。私が怒っているのはそこの阿婆擦れに対してだから怯えないで」
「は、はい」
阿婆擦れって……視線だけ彼女に向けると、さすがに自分のことだと分かったのか、羞恥と怒りで顔を真っ赤にして震えていました。皇帝陛下に直接文句を言うほど馬鹿ではないようで安心です。罪人の立場でそんなことをすればすぐにでも首が飛びますから。
伯父様は味方にするならこの上なく心強いお方ですが、お母様のような一時的にでも怒りを鎮めてくださる方がいないと大変そうですね……
「本題に戻りますが、婚約解消を求めるのならレイモンド様にお願いすれば良かったでしょう。それをわたくしに言うということは、できないと断られたからなのでは? 愛し合っているあなた達の邪魔をしたわたくしが悪いという話については、あなたにも同じことが言えますよ。あなたが割り込んでこなければ愛し合っていたかもしれませんから」
なんて、レイモンド様がお母君に洗脳されていた時点でそのような未来はなかったでしょうけど。
「それと……先程から同じようなことばかり言っている自覚、あります? 最初に言いましたよね。これらは事前にこちらで話し合って決まったことだと。話し合ったのはアーリスティンの皇帝皇后両陛下を含む、わたくし達皇族です。本来なら一介の男爵令嬢が直接話すことのできる相手ではありません。身分剥奪された元男爵令嬢、つまりただの平民であり今は罪人でもあるあなたなら尚更。皇族の一員であるわたくしが決めたことにこうして反論している時点で不敬になると分からないのですか? それから、あなたは敬語やマナーというものをご存知? わたくし、あなたのような最低限の礼儀もなっていない相手にこれ以上無駄な時間を使う暇はなくてよ」
「…………」
「わたくしからは以上です。他に何か言いたいことはありますか?」
「……私の、幸せになるはずだった私の人生はあなたに壊されたわ。どうして私ばかりこんな想いをしなきゃいけないのよ……! あんたなんていなければ良かったのにっ! そうすれば私は幸せになれた! レイモンド様と結婚できなくなったのも、汚い牢獄に閉じ込められたのも、全部あんたのせいよ!」
……彼女はもう駄目ですね。救いようがありません。
幸せというのは自分の手で掴み取るものです。その過程で何かを犠牲にすることになっても最後まで諦めなかった人が勝ちます。手に入れたいものがあるのなら、時に全てを捨てる覚悟で努力しなければなりません。
本当にレイモンド様と結婚したかったのなら、まずは彼の性格を何とかしなければなりませんでした。公の場で冤罪で婚約破棄するような方と幸せになれるはずもありません。それから、切り捨てられる覚悟で私達を説得するか、王家が私との婚約を解消させてでも二人に婚姻を結ばせるだけの『何か』を持っていれば。そして自身の悪いところを客観的に見て矯正できたのなら、彼女の言う『幸せ』を手に入れることができたのかもしれません。
私は恋愛感情はなくても僅かな『友愛』は残っていましたから、レイモンド様の洗脳を解くことをずっと諦めませんでした。その結果大事に思っていた友人は返ってきましたし、これは関係ありませんが他の幸せも手に入れました。何もかも他人のせいにする人間が幸せになれるはずもないのです。それが分かっていれば今頃何かが変わっていたかもしれませんね。
このような偉そうなことを言っている私だってたくさん失敗してきましたし、これからも失敗してしまうことはあるでしょう。それでも結局、大切なのは諦めない心と物事を客観的に見ること。この辺りでしょうね。
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