【80】聖女様の初めて(2)
『しょ……しょ……初夜……』
わたしは固まった。
今日は結婚式……。
披露宴も終わり後は寝るだけ……。
そう……寝るだけ……。
何時もと違うのはきっと……。
初めてオルフェルと褥を共にするから……。
それはつまり……
「初夜って……その……オルフェル様と一緒に寝るのよね……」
「はい。当たり前です。その為に本日は腕によりをかけて磨きに磨いたのですから」
「きっと旦那様も奥様の美しさに目も眩むことでしょう!」
美しさに目も眩む……って
──この少女体型に?
わたしはジト目でキャロルの胸元をみる。
服の上からでも分かるくらいちゃんとした膨らみがある。
対してわたしは薄手のシルクの夜着で、胸元はレースとヒラヒラで装飾されているけど、哀しい程に自己主張が足りない。
ええ。まあ。女性と分かるくらいには膨らんでおりますが……。
いかんせん……。
全体的に子供っぽさがにじみ出ているというか……。
13歳くらいに間違われても仕方無いというか……。
こればかりは……残念としか言い様が無く……。
とても旦那様が満足するとは思えないのです……はい。
ええ!そうですとも!
──見るからにガキですよ!
「さあ。こちらになります!」
わたしの寝室には別のドアがあって、ふたりに誘導される
「この奥が旦那様の寝室になります。
それはもう奥様の初めてに相応しい、豪華なベッドが準備してありました」
「きっと良い思い出になります。
ではお幸せに……」
ドアを開けられ、容赦無く隣の部屋へ送り出された
「あっあの……心の準備が……」
引き返そうと取っ手に手を掛けるも、開かない。
カギを掛けられたみたい。
室内を見れば、真ん中に大人五人は並んでも余裕がありそうな、立派なベッドが置いてある。
流石に屋敷の主の寝室だけあってとても洗練されて豪華な室内。
でも肝心の旦那様が居ない。
わたしはホッとしてベッドの縁に腰を下ろす。
恐ろしい程に柔らかく沈み込んでいく。
──ここで……わたしの初めてを……
考えただけで顔がどうしようも無く赤く染まる。
わたしは身動ぎも出来ず、その場で彫像と化している。
そこへガチャリと音がすると、この部屋の主が現れた。
わたしは立ち上がっておずおずと挨拶する。
オルフェルの息を飲む音が夜の静寂に響いた。
オルフェルを見れば湯上がりと一目瞭然。
綺麗な顔に、さらに磨きが掛かっている。
ガウンの会わせ目から覗く胸元は筋肉質で、鍛えているのが丸わかりだ。
高身長で格好良くて……。
わたしは彼の胸辺りまでしか身長がない。
とてもじゃ無いけど……釣り合わない
「ふつつか者ですが……どうぞよろしくお願いいたします」
庶民だから、こんなありきたりな言葉を吐くのが精一杯。
オルフェルは
「ラフィーネ。綺麗……だね。さあ。こちらへおいで……」
オルフェルはベッドに腰掛けるとわたしを隣に座らせる。
恥ずかしくてとても目を会わせられない。
──だって!今日!初対面だよ!
わたし的にはね!
いきなり会ったばかりの人と、こういう行為をするのは気が引けるというか……。なんというか……。
もうどうしていいのか分からない。
だから俯いて……じっとしているしか無いのです。
「ラフィーネ」
オルフェルの逞しくも美しい手が、緊張して固く握られているわたしの手の上に置かれた
「はい。旦那様」
「オルフェルと呼んでくれ」
「はい。オルフェル様」
「様は抜きで……お願いできるかな?」
「はい。……オルフェル」
うわ!王子様を呼び捨てしちゃったよ!
この平民庶民のわたしに!きっとバチがあたるよ!
「ラフィーネ」
「はい……オルフェル」
「心配しないで……今日は何もしないから……」
…………
──えっ?
何もしないとは?
「ぼくはあのソファーに寝るから、君はベッドを使って」
わたしは手を握られて、ベッドの上に誘導される。
それから布団を掛けられてポスポスと、優しくトントンされて
「疲れただろう……ゆっくりお休み」
わたしは広いベッドの上に一人置いてけぼりにされる。
ソファーの方で気配がする。
きっとオルフェルは初夜に花嫁を放って置いて、一人で寝るつもりらしい。
わたしは涙が出てきた。
悲しくて悲しくてどうしようもなかった……。
初夜と分かってから、恥ずかしいけど、ずっと……ときめいていた。
なのに……。
わたしは……。
いらないみたい……。




