【79】聖女様の初めて(1)
結婚式に関連するその日のイベントを終えた時には、もう空は黒く染まっていた。
披露宴は晩餐会も兼ねていたから、貴族達はもう退出していない。この[青い水晶宮]には治安の関係で私達と国王夫妻、そしてオルフェルの生母オーフィリアだけが滞在している。もちろん護衛騎士団の警護は厳重!
用が有るからと、わたしはオルフェル様と離されて、新しい部屋へ向かう。豪華な装飾に呆けていると侍女がふたり、わたしの側へ来た
「あの……ラフィーネ様。
ラフィーネ様の人格が戻られたと聞きました。
記憶も思い出したのですか?」
パラナは銀髪で青い瞳。綺麗なお姉様。
こんな素敵な方がわたしの専属侍女だなんて、
「いいえ。自分の名前すら憶えて居ません。家族も何処に住んで居たのかも分かりません。でも日常会話や生活に困らない知識はあるようです」
「あっ申し遅れました。わたしはパラナと申します。
メソート子爵家の者です。ラフィーネ様の専属侍女を任されております。あの……わたしを憶えておりますか?」
恐る恐る聞くパラナに、ラフィーネは変な期待を持たせてはいけないと思い正直に答えた
「いいえ。存じません。ですがパラナさんの名前は憶えました」
「わたしはお仕えする身ですので、これからは呼び捨てでお願いします。それと……敬語もお止めください」
平民らしいわたしからすると、貴族のお嬢様にかしずかれると困ってしまう。でも……
「分かったわ。全然慣れないけど、よろしくねパラナ」
「ハイ!宜しく御願いします」
「ところでそちらの方は?」
もう一人の侍女に声をかける
「はい!わたしはキャロルと申します。スーザ男爵家の者です」
橙色の髪色でピンクの瞳。可愛い御令嬢。
何だかウサギみたい。
それにまだ成人して間もない気もする。
この世界では侍女には、成人しなければ成れない決まりがあるの。それまでは侍女見習いね。
侍女は主に女主人や御令嬢の世話をするけど、未婚の高貴な男性に付けられる時は、伴侶や側室の候補にもなるわね。
わたしは平民からバレンシア男爵に養女に貰われて、それからルシアン伯爵令嬢になったのね。王族の侍女は上級貴族しか成れない決まりだから、その為の措置ね。
パラナやキャロルは上級貴族ではないから王族の侍女には成れないけど、準王族のわたしはセーフみたい。
誰かが王様に成ったらオルフェル様は公爵様になるから、パラナもキャロルもそのままの身分でわたしの専属侍女をしてくれるみたい。
本来なら平民のわたしなんて、逆立ちしてもオルフェル殿下の妻には成れない筈だけど……そこは裏道入学みたいなもので、何処にでも抜け道はあるみたいね。
オルフェル殿下はわたしを世間的には侍女にして、見初めた事にして電撃結婚の腹積もりだったよう。けれど国王陛下に許可を得なければ王族の婚姻は出来ないから、知らせたら物の見事に裏をかかれて今回の結婚式の運びと成った訳ね。
ところでわたしの専属侍女のキャロル。
歳が気になるわ
「キャロル……歳はいくつなの?」
「15に成ります」
やっぱ。タメだわ!
仲良くなれそう!
ちなみにパラナは17歳。クールなお姉さんのような感じがする。そのパラナ
「妃殿下。本日最後のお色直しになります。
その前にお風呂が用意してありますので、お召しになって下さい」
──妃殿下!
そうか……。
わたし……。
王子殿下のお妃様になったから、妃殿下なのね。
ところで……お色直しって……
「これから、また何かイベントがあるの?」
すると、パラナとキャロル。
見詰め合って顔を赤らめてる
「さっ!ラフィーネ様!こうしてはいられません!
準備はいくらあっても足りませんからね」
「そうです!さっ!こちらですよ」
このわたし用の寝室に廊下へ出なくて、室内から入れるもう一つの部屋があるの。そこにはバスタブが用意してあった。
わたしはパラナとキャロルにあっという間に裸にされて、バスタブに身を沈められる。バスタブには一面薔薇の花びらが浮かんでいる
「いつもこうして花びらを浮かべるの?」
「いいえ。今日は特別です!」
「毎日浮かべますが、これだけ浮かべるのは今日が特別な日だからです」
ふたりに体を隅々まで念入りに洗われて、髪にも香油を塗られて丁寧に濯がれる。そしてお風呂が終わると、何だかシルクの薄手のヒラヒラした衣裳を着せられた
「随分と薄手ね。何だか体が透けて見えそう。
これは下着なの?」
「いえ。これで正装です」
「取って置きの勝負服になりますよ!」
──こんなのが勝負服?
とてもじゃ無いけど……
「恥ずかしくて人前では見せられないわ」
「何を仰いますか?」
「見せるのは旦那様だけですよ。奥様!」
旦那様!奥様!って!
本当に夫婦になったのね!
夫婦といえば、これからはずっと一緒に暮らす事になるし、食事をして、散歩したり、会話したり、同じベッドで寝たり……
──同じベッドで寝る!
っっっって
もしかして……
パラナとキャロルは顔を見合わせて
「「本日は……初夜になります!」」
想像してしまった単語を、ハモられてしまった!




