【72】聖女様の結婚式(3)
「オルフェルが良き人を見つけたようだ。
お主はどう思う。
むろん。オフィーリアの承認は取っているようだ」
「この時期に婚姻?何処の家門の者なのかしら?」
ファルシア王国国王。
ガルシア・ハイエルフル・ファルシアは、王妃シンシア・マナエルフ・ファルシアへ尋ね、王妃は疑問を投げ掛けた。
オルフェル第三王子の婚姻。その母たるオフィーリア・エルフィア・ファルシア第一側妃の了承も得ているという。
オルフェルは王族の中でも眉目秀麗で国民や貴族達の人気も高い。オルフェルは天然の人滴しで、誰もが皆、会った時に好意を持つ稀有な存在だ。
それ故に王妃シンシアは、自身の息子……第一王子のエリック・クエルフ・ファルシアと第二王子リチャード・エルフス・ファルシアの後継者争いの最大の障害だと思い警戒していた。
しかし本音のところでは
『何故オルフェルが我が子として生まれなかったのだろう?』
そう思っていた。
正直自分の息子ながら20歳のエリックは粗暴で人の意見を聞かない危うい性格をしていて、17歳のリチャードは反面大人しく覇気に乏しい。
エリックは自分が後継者だと公言して憚らないが、その為の自身の教育は疎かにしていて、母の贔屓目にしても王にはとても向かない男だった。
そして第二側妃の第四王子は飄々として捉え処が無く、総じて貴族達からもそっぽを向かれた存在だから、放って置いても支障は無いだろう。
だが、神託が全てのスタートラインを一緒にした。
この目の前の王の宣言
[聖女と番と成った者を国王とする]
この一言を持って、王子達の運命は聖女に委ねられた。つまりは聖女を妻に迎えたものを、この国の後継者とするということ。
スタートが一緒だからと言って、シンシア王妃の王子達が優位なのは疑いようもない。
財力。人力。全てに置いて他の候補を圧倒している。
それにどういう訳か、ライバルの筈の第三王子はこの後継者を巡る競争に色気が無く、静観を決め込んでいる。調べたところ、親子揃って聖女探しに何ら手を打っていない。
客観的に次期国王競争から脱落しているとも、見られなくも無い。
だからと言って安心は出来ない。何処から聖女が降って湧いて出て来るのか分からないからだ。
[聖女を見つけた者が、国王になるゲーム]
それが本質である限り、油断は出来ない。
王妃は警戒しながら国王に再度問うた
「オルフェル王子には浮いた話、何一つ無かったものと心得ておりますが?気に入った者を側室になさるのですか?」
「気になるか?」
国王は悪戯っぽく、流し目を送った
「それはもう!気に成らないといえば嘘になります。
あの誰もが羨む良縁を手繰り寄せた幸運な御令嬢は、一体何処のどなたかしら?」
王国一と言っても過言ではないオルフェルを……あの女嫌いで名高い貴公子の心を物にした女に興味は湧く。
一女性としても気になるところだ。
「家門はルシアン伯爵家だ」
「ルシアン?あの家門の当主夫妻はまだ若く、子も小さかった筈よ!あり得ないわ」
「その娘の前の親がバレンシア男爵だ」
男爵?バレンシア男爵家には二人の息子と既に嫁に行った姉妹がふたり居たような……。出戻りさせて王族の妻に迎える訳がないから、わざわざ養女に迎えたの?
となれば……身分洗浄?もしや!
「平民ですか?」
「ご名答!流石はシンシア」
「からかわないで下さい。
それで……平民を見受けしてわざわざ側室に迎えると?
妾でも愛人でもなく?」
「いやあ~。そのどれでもない」
側室でも、妾でも、愛人でもない……。
他には一体……まさか!
「正妻に迎えるのですか?!」
「そうらしい。あやつも思いきったことをする」
──何を考えているの?オルフェルは?
王子自体は然程価値が有るわけではない。他より抜きん出るには、有力貴族を妻に迎えその力も借り勢力を伸ばすしかない。
この時期に最大の支援先となりうる正妻の地位を、何の後ろ楯もない平民から選ぶなどあり得ない。
ルシアン伯爵家は財源豊かな強力な家門とはいえ元々第三王子派だから、今さら何の足しにもならない。つまりは正に後継者レースから逸脱を宣言したようなもの。
けれどこの時期にわざわざ許可を求めるということは?
「その娘が聖女という可能性は?」
「ない。髪の色が焦げ茶色で瞳も茶色らしい。神託の聖女の髪色や瞳は紺だからな……。
しかもオルフェルの鑑定では魔力が平民としては高いが、500だそうだ。なんなら宝玉の検査を受けても良いそうだ。宝玉は聖女にも反応するという話だし、義母の聖女が触れたら王国中が光に包まれたのは有名な話だ。
あやつは、疑われるのも前提で話を持って来ているな」
聖女シャリーアンは王妃と成ったが、残念ながら後継者の男子には恵まれず三女を儲けた。
現国王ガルシアの母は元々聖女が現れなければ王妃となった公爵家の御令嬢で、前王の婚約者として王妃教育も受けいた。王妃の座は聖女に譲ったが、第一妃として夫と聖女を支えた。
だから第一妃の長男ガルシアが国王に成るにあたり、何処からも反対意見は出ず、血みどろの後継者争いとは無縁だった。
シンシアは少し俯き加減に考えていたが、ハッと瞳を輝かせた
「それなら、折角ですからわたくしが参りましょう!
あの女性に対して、木で鼻を括るような態度を取り続けた坊やの、選んだ御令嬢に興味が有りますもの!」
こうして聖女の判別を行うという[聖なる宝玉]を持って、王妃自ら足を運ぶことになった。
ついでに国王も巻き込み、どうせなら結婚式に出席すると返事をしたためた。
☆☆
王家の紋章で蝋封された手紙を受け取り内容をあらためたオルフェルは、一瞬で顔が青ざめ、頭を抱えたまま一時間ほどそのままの姿勢で固まっていたという。




