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【69】聖女様と二つの国(9)


「それで容態は?」


青い髪でサファイアのような蒼い瞳の青年は、レイモンドに声を掛ける。


「目が覚めました。けれど……」

「どうした?」


「後頭部が傷付いた影響でしょうか?その……記憶を無くしているようで……自分の名前すら憶えていません」

「自作自演の可能性は?」


「ありません。目が……虚ろで……ボーッとしています。言葉も上手く出ないようで……」


──リガットの馬鹿野郎!


レイモンドはリガットのアホ面を思い出す。伯爵家の六男で初めはコネで王宮の騎士になったが、何処でも問題を起こして行き場を無くし、流れに流れて押し付けられるようにここの上等兵に成った。

貴族の兵士の最低職がこの上等兵だ。


つまりクズ中のクズってヤツだ。


暴力をアイラに振るった理由も馬鹿げている。

レアスキル持ちらしいので

『その力を自分の為に振るうのが平民の義務なのに、歯向かった』から。

訳が分からない。


わざわざ守備隊長権限で見張りを二名も付けて保護しているのに、何故自分の思い通りに出来ると思っているのだろうか?


しかも見張りの兵を殴って意識を奪い、ボフイという平民出身のもう一人の兵士を脅して共犯者に仕立てて、ことに及んだ。

アイラがリガットに忠誠を誓えば

『自分の物に出来る筈』というこれも理解不能な理屈で、アイラを自分の所有物にするつもりだったらしい。

レアスキル持ちのアイラを手にすれば、それだけで自分の復権が叶うと本気で思っていた。


リガットはバカを通り越して、生きているだけでトラブルを呼ぶ、ろくでもない男だ。


レイモンドの目の前で青い髪の上司は頭を抱えていた


「リガットはもう庇いきれないな、いや、もはや庇う価値もない。

早急に実家の伯爵家へ送り返せ。二度とこの地を踏ませるな」

「はっ!殿下!だだいま!迅速にそのように致します!」


守備隊長レイモンドは部屋を出ていった。


殿下と呼ばれた上司は、ファルシア王国の第三王子。


オルフェル・エルフリン・ファルシア。


青い髪と瞳の20歳の若者だ。

フリーデン王国との国境の、方面軍を任されている。


あのアイラと呼ばれた少女が襲われた当日の深夜に着いたばかりで、その日の朝一にアイラと面会する予定だった。

面会当日の早朝。リガットによる事件が起きたのだ。

レイモンド達がこの国境に辿り着いて、3時間も経っていなかった。


巻き込まれた兵士のボフイが守備隊長レイモンドの元へ息急き切って駆けてきて、リガットの凶行を知らせた。強烈な目覚ましにレイモンドは跳ね起き、兵士を複数人叩き起こして現場に駆けつけた。

少女は無残な有り様だった。鼻の骨は折れ壁に叩き付けられた後頭部も頭蓋骨が砕け口と鼻からおびただしい血を流し、耳からも変な液体が流れていた。


体が激しく痙攣し、アイラの意識はもう無かった。


少し遅れて到着した神官による治癒魔法で懸命な治療が行われ鼻と後頭部の骨折は治ったが、後遺症が残ったようだ。だがもう少し治療が遅れれば、命が危ない状態だったのは間違いない。


オルフェル王子がわざわざこの僻地に足を運んだのは、レイモンドからもたらされたアイラという少女が持っていたネックレスが原因だった。


誘拐犯の馬車が青白く光った時、レイモンドは魔道具の発動と目星をつけ、魔道具の密輸入を疑った。

そして最後まで光の痕跡を追って樽を開けた時、アイラを発見した。

その胸元が助け出された時には、確かに光っていた。


レイモンドはアイラの胸元に魔道具を隠していると思い、少女の首から下げていた御守り袋からネックレスを預かった。少女はシラを切るかと思っていたが、素直に差し出したのが意外だった。


そしてそのネックレスのペンダントヘッドを見て驚いた。

そこには百合と鳩を組み合わせた紋章が彫刻してあった。それは聖女とその直系の子供にだけ許された紋様であり、こんな平民が持っていて良いものでは無かった。


ロケットになっていて、中には現聖女のシァリーアン・ミエルファル・ファルシア王太后の若かりし姿が彫ってあった。この若い似姿は有名な肖像画にもなっていて、一目でそれと知れた。


二年前にファルシア王国の大神殿で新しい聖女の誕生を告げる神託が突然降り、それ以来国中で聖女の探索が行われた。

誕生と言っても、赤ん坊として生まれるとは限らず、少女や成人の場合が殆んどである。

現聖女のシァリーアン王太后も13歳でその力に目覚めたという。


生まれた時から金髪の現聖女が、覚醒時には美しい紺色の髪と瞳に成ったという。


[聖女の髪や瞳は海のように深い紺色]


新たな神託でもその容姿が語られた。

きっと現聖女と同じ紺色の髪と瞳の少女だろうと噂された。

だが、同時に意味不明な事も語られた。



[聖女は偽りに満ちている]



そして



[隠れている]



更に



[聖霊の如き膨大な魔力を持つ不死の者]



その御告げを聞いた王は


「その聖女と(つがい)となった王子を、この国の王太子にする!」


そう宣言した。


だがそれから二年。

聖女の行方はようとして知れなかった。


そしてこの時期に現れた、聖女の紋様の刻まれたネックレスを持った少女アイラ。

髪は焦げ茶色で瞳も茶色の少女が聖女とは思わないが、聖女と何かしら繋がりが有るのかもしれない。でなければこんな平民の少女が、あのネックレスを持っている筈がないから……。


第三王子の忠実な部下であるレイモンドは、これぞ天啓と思い、急ぎ第三王子へと伝えるべく自ら足を運んだのだ。


レイモンドの知らせより、その重要性を感じたオルフェル王子も少女アイラへ会うべく、軍の駐屯地から即日出立したのだ。



そして会える目前であったアイラという手掛かりは、記憶を失ってしまった。




☆★☆





そして……そのアイラ襲撃の日から、一年と半年が過ぎた……。






これで[二つの国]パートが終わりました!

思いがけぬ展開に作者みなみも驚きです( ゜д゜)

そしていよいよ第二部へ突入します!


あれから一年半が過ぎアイラとして成人の15歳(実年齢19歳)を迎えた新パートはズバリ[結婚式]!

果たしてアイラは誰と結婚するのでしょうか?


まあ。ジャンは論外だと思いますが……。



もし面白いと思ったり続きが気になったら

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― 新着の感想 ―
[一言] >思いがけぬ展開に作者みなみも驚きです( ゜д゜) 「お前が書いてるんとちゃうんかい!(フジモン風ツッコミ)」(笑)
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