【67】聖女様と二つの国(7)
アイラが目覚めた時、どういう状況なのか掴めなかった。目隠しされ口にも紐で猿轡をされ、身体中身動きが取れないように縄で縛られ、袋に入れられ、おまけに狭い箱か何かの中に閉じ込められているようだった
──やっぱり……誘拐だよね?
身体に異変は無いようだけど、変な悪戯とかされていないか心配だ。それにトイレにも行きたい。
耳を潜めて気配を探って見ると、何やら話し声が聞こえる。荷物がどうの……。入国税がどうの……。と聞こえる
──もしかして!国境かも?
国境なら警備の人がいる筈だ。誘拐なんて許されないだろう
──何かしら方法はないかな?
完全に身動き取れないので、暴れることもままならない。
でもここを抜けたら、どんな運命を辿るか分からないけど、きっとマトモな人生は歩めないと思う。
今はどこの国でも奴隷制度は撤廃されているから、表向きはその心配はない筈だけど、裏では奴隷売買されているという噂も聞く。
性奴隷や、こんなわたしのような子供をいたぶって傷付ける変態もいるというから、そんなところに売られたら二度とお日様は拝めないらしい。
違法がバレたら厳しい処罰が待っているらしいから……。
だから今!この時!助けられるしかないのだ!
わたしは考えた。
そして速攻に自分の力の無さに幻滅した。
だって聖女の筈なのに、ここから抜け出す魔法ひとつ唱えられない!
攻撃魔法なんて使えないし!
──どうすりゃいいの?
頭を抱えた。……縛られて抱えられないけどね。
「良し!問題無いようだ!通ってよろしい!」
兵士の声に超絶焦る!
馬車がゴトゴト動きだし、このままでは無事に国境を抜けてしまう!
──もう!一か八か!
『ピュアラ!』
アイラは無詠唱で浄化魔法のピュアラを唱えた。
病の人ならもしかしたら光ってくれるかもしれない。
少なくとも周囲が青白く光るのは確認済みだ。
この魔法で何とかわたしの存在に気付いてほしい!
そして馬車が止まり、急に辺りが騒がしくなり、直ぐ近くでガタガタ音がする
「魔道具の違法輸入だ!魔道具がある筈だ!探せ!」
魔道具も発動する時、青白く発光する。
きっと誤解されたのだろう。
そしてザッ!ガサガサ!上の方で音がして、わたしは渾身の力を込めて身を捩ってみた
ガン!
頭が箱にぶつかって、大きな音が鳴った!
「何か隠している!この樽を開けろ!」
ガシッ!バキッ!
「なんだ?動いている!袋をほどけ!」
直ぐ近く、わたしの頭の辺りで誰かが強引に手を動かしている。きっと袋をほどいているのだと思う。
そして……パアッと明るくなり
「誰かいるぞ!女……いや子供だ!」
──はて?
わたし女ですけど?
成人女性で17歳ですけど?
目隠しがとられ、視界が更に広がり、目の前に30歳位のツルッとした兜を被った兵士の顔があった
「直ぐにその男達を拘束しろ!逃がすな!」
逃走を図ったのだろうか、目に見えないところで罵声や怒鳴り声!そして「拘束した!」ホッとする一言が聞こえた。
落ち着いたところで、わたしは樽から出された。
その兵士に抱えられて、わたしは門近くの兵舎に連れていかれた。ベッドのある殺風景な個室に案内され、そこで身体の縄を全てほどかれ、手足の自由が利くようになった。
兵士はわたしに
「わたしはここの守備隊長のレイモンドだ。
お腹空いたろう?今暖かい食事を持ってくる。
その後に事情聴取することになるが、その前に……」
レイモンドさんはわたしの胸元を指差した
「そこに隠しているものを見せてくれないか?」
──隠しているもの?何もないよ!
でも……胸元といえば……。
わたしは頷くと、ボタンを取って首に掛けていた御守り袋を取り出す。別に胸元が露になっているのではなくて、ちゃんと首元まで布地があるしね。
御守り袋を見たレイモンドは
「その袋を開けても良いかな?」
わたしは「はい」と返事をし、首から紐も外して御守り袋ごと手渡す。レイモンドさんは袋の中からネックレスを取り出すと、そのペンダントヘッドに描かれた文様を見て驚きの声を上げた!
「これは?!
お嬢さん。このネックレスを何処で手に入れた?いや、待て、ちょっと行ってくる!
このネックレスを借りていいか?」
嫌だけど、ここで断る術はない
「はい。どうぞ」
「少し時間が掛かる!いや10日ほど必要だな。
ちゃんとそれまで食事も用意するから、暫くこの部屋にいるように!
カギも掛けるからそのつもりで、だが、決してお嬢さんを傷付けるような真似はしない。
あと君の身元は上司が調べるから、他の者とはなるべく話さぬように……。いいね?」
10日もここに置かれたら家族が心配すると思う
「あの……家族に連絡してくれませんか?」
「いや。それは出来ない。
済まない今は事情は話せない。
君は軟禁状態でこの部屋からも出すわけにはいかないのだ。
それとこのネックレスのことは秘密だ。
誰かに話したら君の命の保証は出来ない」
貴族の身元がバレたのかな?
「では、わたしは拐われて助け出されたけど帰ることはおろか、ここから暫く動くことも叶わないってことですか?」
レイモンドは申し訳なさそうな顔をして
「ああ。そうなるな。
ともかく俺の上司の判断を仰ぐまで、君のことは秘密にしなければならない。
詳しいことはその上司が話してくれるだろう。
少し我慢してくれないか?」
ここはわたしの意見なんて通りそうにない。
わたしは頷いた
「悪いなお嬢さん。
迷惑掛けてしまって。
大人の事情に巻き込んでしまった。
後でその理由も分かると思う」
仕方ないね。
貴族の身元がバレて誘拐絡みならば、色々と手続きがあるのかもしれない。
それに上司の判断を仰がなければ決められないのは、中間管理職の相。ここでいくら騒いでも無駄だと思う
「分かりました。
でも家族が本当に心配していると思うので、後で必ずフォローしてください」
「ああ。出きるだけの事はする。
俺の上司はしっかりとしたお方だ。
君の事はきっと責任持って対処してくれるだろう。
君には暫く不自由かけるが許してくれ。
それと……何か必要な物はあるか?」
わたしはモジモジしながら言った
「トイレに行きたいです」
お花を摘みに……なんて上品に言いたいけど、まだ貴族とバレた訳じゃないと思うからね。ここは単刀直入に御願いするよ
「ああ……」
レイモンドさんは少し顔を赤らめ、衝立がある部屋の角を見た。わたしは察して頷く。
そしてわたしを部屋に残して、レイモンドさんは消えた。




