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【61】聖女様と二つの国(1)


フードを被って顔を隠した男が、ローレンの教会を見上げた


「へぇ。凄いや。ここにもホーリーフィールドを掛けている。これはオババ様よりスゴいかもね!

間違いない。この街に聖女がいる。

みんな場違いに国中を血眼になって探していんのにさ、隣国に紛れて居るなんて!ボクの勘は冴えてるね」


そしてヒュッっとジャンプすると、フワーと10m以上ある教会の屋根の上に降り立った


「南街でしょ。東街でしょ。最後にこの中街。どこも街の中心にある教会に目星を付けてホーリーフィールドを掛けるなんて、冴えてるじゃん。

この展開の方法!ずいぶん手慣れているね!

でも可笑しいな?

こんなにも痕跡残しているのに……なんで魔力感知できないの?オババ様なら丸分かりなのに?

何処に居んのさ」


男は屋根の上から手で(ひさし)を作って、ぐるーっと見舞わす


「やっぱり何処にもいない?

なんで?なんで感知出来ないわけ?

こりゃ。少し手こずるかもね」


男は屋根から飛び降りる。

着地の瞬間、体が一瞬停止しゆっくりと地に降り立った


「見つけたモノ勝ち!

聖女を早く手にした者が、王様に成れるゲーム。

今はボクが王手の筈だけど……」


そう呟くと男は人混みに紛れて消えた。





☆☆☆




ジャンと再会してから二週間が過ぎた。

アーサーの家庭訪問から三週間を越え、再会の日まで後一週間を切った。


その間。


アイラはいつもと変わらぬ日常を送った。

ただ。


一回だけギルドの依頼で、遭難した冒険者の救助に当たった。


これはゴメスパーティーを救出してから七回目の救助活動になる。ギルドからはアイラを隠し、ガイ宛にポーターとしての依頼に偽装してある。メンバーはギルドが厳選した者達……つまりは初めの救出でアイラの[魔払い人]の能力を知ったメンバー内の誰かしらが救助隊になるということ。それはアイラの秘密を共有する者達で救助を行い、秘密の拡散を防ぐ意味合いもある。


今回の依頼も教官としてギルドに詰めているガイには断る術はない。アイラを隠し通すのは無理だから、能力だけを隠蔽してガイの助手として付いて行くことになった。


幸い遭難した冒険者は見つかり、足を挫いて動けなかっただけで他には怪我もなく、体力の低下だけで済んだ。

同行した治癒魔法士のパンナが怪我を治し、アイラの出番はなかった。

もう対外的にはあの苦い[幻のポーション]の在庫は切れてしまったから、偽ってキュールを唱えて治せないものね。


もちろん自分に施したホーリーフィールドの効果で、道中に魔物は出ていない。


アイラはその報酬の受け取りも兼ねてギルドへガイに連れられて遊びにきていた。

遊びと言っても爺が、アイラに会って癒されたかったらしい。


アイラはギルドマスターの部屋に呼ばれて、お茶を楽しんだ。ノーフィスに聖女の秘密は知られているし、爺にだけは隠しだてはしないと約束してある。

ノーフィスが云うには


「いいか?アイラ。俺たちには秘密は無しだ。

勘違いしないでくれ。別にお前さんをどうこうしようという魂胆じゃない。その逆だ。

俺達はお前さんを守らなきゃならねぇ。いざ聖女絡みの犯罪に捲き込まれて『知りませんでした』じゃ、済まされねぇからな」


もし何らかの形でアイラの能力が漏れたら、平民のアイラをターゲットに誘拐等の犯罪を犯すのに躊躇はない筈だ。その抑止や対応の為にも、秘密を共有するのは必要な措置だと思う。


その一環として、改めて御領主様のアーサーの屋敷に招かれた話をした。爺は感心しながら


「ていうことはアレかぁ?

街でたまたま出会って案内したガキが王子様で、御領主様だってことか?

しかもアイラに惚れちまったと?

おまけに国王様や王太子殿下にも了承を取って、後はアイラの返事次第で二年後には何番目かの御領主夫人ってか?

まあ。これは偶然っつうのを通り越しているぜ。

こういうのを何というかしってるか?」


「……運命……かな?」

「それよ!いやぁ俺様の予想を遥かに越えた早さだ!

で、どうするよアイラ。

結婚しちまうのか?」


「えっっと。実はまだ決めていないの。

あの御屋敷に帰ったら、答えが出るかなって?」

「ふーん」


爺はにやけて


「もう答えは出ちまってるんじゃねぇか?

でよ。おめぇさん。

ずっと隠すつもりかい?」


きっとアイラの正体。レイアの事を言っている


「分からない。それも含めて侯爵邸で答えを出すつもり。ただ……この頃は思うんだ。結婚するとね。この街にずっと居られるし、わたしにも『ローレンの人々の、お役に立つことが出来るかな?』って思ってる」

「なんだ?もう答えが出ちまって要るんじゃねぇか!

いいねぇ~青春だねぇ~爺もあやかりたいねぇ~」


「もう!知らない!」


爺に茶化されてアイラは真っ赤になった。

ガイは間にはいり


「マスター。あまりからかわないでくれっか?

アイラさ。これでも(うぶ)でね。

この頃は御屋敷のある方向を見ながら、ため息ばかり付いているのさ」

「それは『恋』っていうんだぞ!

お嬢ちゃん?知ってたか?」


「バカ!嫌い!知らない!放っておいて!」


爺に悪態を付くアイラ。

それからしばらくバカ話をして、アイラとガイはノーフィスと別れ、ギルドを後にした。


その後ろ姿を怪しく見詰める、二人の冒険者がいた。









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