【60】聖女様の初恋(8)
アーサーが我が家を訪問してから10日が過ぎた。
いつものように学校へ向かう。
あのアーサーが学校を訪れた次の日も学校へ行ったけど、シェリーちゃんからの質問攻勢が凄かった。
プロポーズ(仮)はジャンには絶対秘密だから
「何にもないよ!ただ訪問してくれただけ。赤ちゃんを撫でてくれたよ」
なんて誤魔化した。
疑り深い眼差しを向けて来たけど、シラを貫き通したよ。
そうそうその間、ジャンの姿は学校に居なかったわ。
そして今日!十日目にしてジャンが登校したの!
顔中アザだらけ!みんなから質問攻めに合っていたけど、詳しい内容は答えなかった。
ただ
「馬鹿な事を仕出かしたので、親父にしこたま殴られた」
とだけ言った。
まあね。あれは殴られても仕方ないね。
暴力賛成!っていう訳ではなくて、マジで他の貴族に対してあんな不敬な真似したら、ただじゃ済まないから!
ましてや今回の相手は王族でしょ?
──普通は殺されるわね!
やらかした自分だけが死ねば御の字で、下手しなくても家族も巻き添え食っちゃうよ!
アーサー殿下の懐の深さに救われたね。
そして下校時
何時ものメンバーのシェリーちゃんとソフィちゃんと先に別れて、わたしとジャンが二人きりになる時間帯があるの。
そこでジャンはわたしにだけ話してくれた。
王族用ではない普通の馬車で、ジャンの自宅まで強制送還された。
女騎士のメリアベルさんは終始厳しい顔でジャンを睨んでいたという。明らかに激怒している風だった模様。
そして家にはたまたま親父さんのゴメスさんと母親、そして少し歳の離れた二人の小さな妹もいたらしいけど、騎士に連れられたジャンを見て嫌な予感がしたのか、姉妹を近所に預かって貰ったらしい。
そしてジャンと両親にメリアベルさんが、事の顛末を伝えたらしい。
低い声で無表情で淡々と、ジャンがやらかした事態の推移を話す度、両親の顔は真っ青になっていったという。
初めは椅子に腰掛けて話を聞いていたけど、ジャンが御領主様に決闘を告げる場面になると両親は床に膝と両手を付いた。
そして決闘で負けたのに悪態を付く場面になると、両親とも顔をあげられず地面に土下座していたという。
母親は涙に暮れて、父の体はずっと小刻みに震えていたらしい。
とにかくジャンはメリアベルさんの、終始ジャンと視線を合わせぬ無表情で綺麗な顔が恐ろしくて仕方無かったという。
メリアベルさんが
「わたしが騎士の名誉に懸けて誓った決闘を反古にし、あまつさえ御領主様……いや決闘を受けて正々堂々と闘ってくださった王子殿下へ土くれを投げようとした。
あの時……アイラ殿が身を持って止めてくれなければ、わたしは間違いなくその者の首を切り落としていた!」
初めて視線を合わせたその目は、ジャンに対する怒りと侮蔑にまみれていたという
「アイラ殿に感謝せよ!
我等もお前達家族を斬らずに済んだ事、アイラ殿には感謝せねばなるまい。
もし温厚な王子殿下でなければ、貴方方の大変に優秀な御子息は命が幾つ有っても足りないほど、何度も殺されていただろう」
最後には
「殿下はこう仰せられた
『二度とこのような事が無いように、親父殿に殴らせろ』と……。
わたしからも言おう。
御子息は男として恥ずべき姿を晒した。
性根を叩き直していただきたい。
以上!
わたしは非常に不快である。
護衛騎士一同も同じ思いである。
これにて失礼する」
メリアベルさんは止める間もなく、足早にジャンの家を出て行ったという。
そして……顔をあげた両親のジャンに向ける眼差し……生涯『二度と忘れられない』とジャンは言った。
それからは……いうまでもない
わたしはジャンの顔を撫でて
「随分と殴られたね。
お父さん手加減してくれなかったの?」
「手加減されなきゃ死んでるよ」
ジャンはうつむき
「父ちゃんに言われたよ
『お前のは蛮勇だ!正義も何もない己だけの剣だ!』
ってさ。殴れて顔中晴れ上がった俺よりも派手に大声で泣いてさ
『俺は育て方を間違った』
父ちゃんはそう言ったんだ。
オレは……其が一番痛かった。
殴られるよりもね……」
ジャンは其を口にして、しばらく黙って立ち尽くしていた。そしてわたしの手を取り
「ごめんなさいアイラ。
そして……オレ達家族を救ってくれて有り難う」
深々と頭を下げた。
これで[初恋]パート終わりました。
アイラ(レイア時代も含めて)とアーサー、そしてジャン。
それぞれの初恋を絡めた物語でした
☆★☆
次は運命が急変する[二つの国]パートが始まります!
果たしてそれぞれの初恋は実るのか?
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