【59】聖女様と初恋(7)
思いがけない家庭訪問は終わった。
あれから、アーサーは突然泣き出したわたしを、泣き止むまでずっとハグしてくれた。
一月後また会う約束……今度はわたしがあの実家だった侯爵邸へ向かう事になった。当日早めに馬車で迎えに来てくれるという。
それから五日後、お父さんか帰ってきた。
アマンダ母さんが連絡をしてくれて、ガイ父さんは仕事のケリと段取りを付けて帰ってきてくれたの。
そして領主様であるアーサーからの婚姻話を伝えた。
アーサーは権力のゴリ押しで有無をいわせずに、平民のわたしなんかモノにすることは簡単だけど、わたしの意思を尊重してくれた。
もしわたしが了承を伝えれば、正式に使者も来ると思う。
ただ、そうなればわたしは平民ではなくて貴族になるから、もうこの家には今までのようには居られないと思う。
父さんは機密性が高い案件だとして、ギルドの個室を借りてそこでアマンダ母さんと三人で話し合う事になったの。
ノルン母さんには全て決まってから、お話することになるよ。
ギルドの借りた個室は殺風景だけど、魔道具で防音効果も高くここでの話は他の人に聞かれることはないわ。
個室には予めお茶とお菓子を用意してあって、話が終わるまでこの部屋は出ないの。
久しぶりにあった……というけど半月振りだけど……父さんは穏やかになっていた。危険と隣り合わせの冒険をすることがなくなったので、険が取れたのかも知れない。
それに……赤ちゃんも産まれたしね。
降って湧いたようなわたしではなくて、本当の血を分けた子供だしね、可愛さも一入だと思う
「此度の話はまあ、粗方わかった。
手紙は燃やして処分したから、バレる心配はないだろう。だが、アイラ。1つどうしても聞きたい事がある。
お前。俺達に変な気を使っていないだろうな?」
──変な気?何の気かな?
わたしが首を傾げると、父さんは続けた
「いやな。アイラ。
俺にその……子供が出来たから……そのな……何と言うか……」
「アイラちゃん。お父さんはね。こう思っていると思うの。ルイが産まれて、アイラちゃんが私達に遠慮して、不本意ながら泣く泣く御領主様の元へ行くつもりなんじゃないかって?心配しているの」
なるほど。そういうことか?
「お父さん。わたし……そんな事は全然考えなかったよ。だってもお父さん。あの御屋敷を逃げ出した骨と皮だけのわたしを、助けてくれたでしょう?
そんなお父さんが、赤ちゃんが産まれたからと言って、今さらわたしを捨てないと信じているもの。
だから、出来ればずっと家族でいたいよ」
ホントそう!
もしわたしを見捨てるような人なら、遠の昔に捨てられていたと思う。ずっと家族として、娘として育ててくれたこと、感謝しても仕切れないもの。
だから父さんが言いたかったこと、全然思い付きもしなかった
「お父さん。お母さん。わたしね。二人に巡り会えて凄く幸せなの。わたしの本当の両親はわたしを愛してくれたけど、後から入り込んできた家族はわたしだけ除け者にしたの。使用人にも毎日ぶたれて、毎日毒を盛られて、足音立てるだけでも怒鳴られて……わたしはあの三年間は生きながら死んでいたと思う。
でもそんな地獄から連れ出して、わたしを助けてくれたガイ父さん。わたしに嫌な顔ひとつしないで、美味しいご飯を作ってくれたアマンダ母さん。
二人のお陰で『生きるのっていいな!』って初めて思えた……」
アマンダ母さんには、ガイ父さんが泥棒がてらわたしを拐ってくれたことは秘密にしてある。わたしが逃げ出したことにすれば、きっとわたしの正体がバレても両親には危害が及ばないと思う。だから心を込めて……想いを込めて言うよ
「ありがとう。わたしを愛してくれて……わたしも愛してます」
「……お前なぁ。当ったりめぇだろ!
俺の娘だかんな」
「わたし達の……でしょう?
母さんはもあなたが来てくれて本当に嬉しい。
体も治してくれたしね。
アイラ。これから先も……ずっと家にいても良いのよ」
二人はテーブル越しにわたしの手を握ってくれた
二人とも涙ぐんでいる
「ここのギルドマスターの爺がね。わたしに言ってくれたんだ」
アイラは爺に聖女ってバレた日の事を思い出していた。
別れ際、爺はわたしの両肩に手をのせ、目をそらさずに……でも厳つい顔に笑顔浮かべて言ってくれた言葉があった
「アイラが本当に聖女ならば、世界はお前さんを放っておかねぇ。避けて通れねぇ強い出会いがあるぜ。
そしておめぇさんの意思に関係なく世の中に引き摺り出されるだろう。
あとはお前さんの覚悟次第だ。
世にでちまったらさ。どうせ聖女ってやらを、やらなきゃならんだろう?逃げんのもいいが、いっそ立ち向かってみんのも乙なもんだぜぇ!」
アイラは爺のその言葉をかいつまんで話して聞かせた。
そして
「わたし。あの御屋敷に……屋根裏部屋のある場所に……行ってみようと思います。
まだ、どんな返事をするのか決めて居ませんが、あの場所から逃げずに立てたら、きっと答えが出ると思うから!」
そう、わたしは決めた……。




