【51】聖女様と領主様(3)
わたしはドギマギしながら
「わたしが……ぼ……ボクのって……どういう?」
「ん?どういうって?」
これは一筋縄ではいかない。
何か……からかわれている予感がする
「いえ……何でもない……です」
ここは、清く正しく無視をしよう!
いや……いなして時間を稼ごう
それからアーサーの問いに、ありきたりな答えを返す。
すると15分くらいして殿下が騎士の一人を呼び寄せ何やら耳打ちをして、その騎士が見学している校長先生に耳打ちをして、校長先生が授業を中断して担任の先生に耳打ちをして、わたしが担任の先生に呼ばれた。
回りくどい。
わたしは女性の担任の先生に耳打ちされた
「領主様が学校を案内して欲しいそうなの。
たまたま隣になったアイラさんを案内役に頼みたいそうなの。受けて下さる?
というよりも受けてくだされば、この学校に寄付を下さるそうで、是非とも必ず受けて下さる?
下さりますよね?アイラさん」
「はい……案内致します」
非常に回りくどく効果的な方法で、わたしはアーサーと共に教室を追い出された。
アーサーは廊下に出るなり、右手を差し出す
「握手?……ですか?」
「いや。道案内の時……してくれたこと」
──?!
手を繋げっててか?
この人目のある学校で?
「…………手を繋ぐの」
「ご名答!」
「恥ずかしい」
「拒否権はないよ」
「命令しない約束」
「露店街ではね。でもこれはお願い」
「…………拒否権のないお願いですか?」
仕方ない。手を繋いであげますよ
──きっとまだお子様なんでしょうから!
わたしが手を繋ぐと、教室から黄色い声が上がった。
チラリと横目で見ると、シェリーちゃんが口元を押さえて感動している。彼女の中では禁断の恋物語が幕を上げたに違いない。
わたしは諦めてグイグイ手を引っ張って、案内する。
これは一刻も早く終わらす案件だ
「君は相変わらず強引だね!」
駆け足と早口で学校案内を済ますと
「予定より大分早かったから、特別に馬車に乗せてあげるよ」
──そうきたか!
この実年齢17歳の小娘より、権力を持つ13歳の王子様の方が遥かに上手だった。
わたしは嫌とも言えず……嫌だけどね。
ここは相手が悪すぎて『嫌なものは嫌!』を貫けない
「ではこちらへお姫様」
わたしをエスコートして馬車に乗せてくれた。
ある意味拉致に近いね。
あの女性騎士も同乗した。
そして馬車は動きだした。
何処へ向かうのだろう?
「コレから君の家に向かおうと思うんだ」
「えっ!なぜですか?」
「ちょっと頼みたいことがあってね」
「どう云った……頼み事ですか?」
「うーん。敬語禁止。これも拒否権ないお願いの部類に入るね」
「……不敬罪にしないと約束できる?」
「もちろん……ボクのアイラ」
「だから!その紛らわしい表現は止めて!
何なの気持ち悪い!ボクのアイラって!
わたし!アーサーの物になったつもりはないわ!」
アーサーは膝をパシパシ叩いて
「これだ!これ!これが欲しかったんだ」
なんてニタニタしながら喜んでいる。
女性騎士もクスって笑っている
「いや……ちょっと『ボクの』と『アイラ』の間の単語を抜かしてみたんだ」
「何よその単語って」
「一番大好きな友達」
アーサーは突然真剣な眼差しでわたしを見る。
わたしも言葉に詰まって顔を赤らめる。
こうしてハッキリと言われると照れを通り越してしまう
「ねぇアイラ。嬉しいね」
「……なにが?」
「その髪飾り」
「あっ…… 」
そういえば今日!アーサーから貰った髪飾りしていたんだった!
よりによって今日だなんて……
「ずっと大切にしまっていたけど……このワンピースに合うと思って……付けてみたの」
「似合うよ。この前のアイラにもピッタリだったけど、今日のアイラには尚更だね。きっとその髪飾りは君の為に生まれて来たと思うよ」
「ありがと……でもちょっと褒めすぎかな?」
どうしていいのか分からない。
ただ顔が物凄く熱い。
アーサーはそんなアイラをポーっと見ていた
「君を誰にも盗られたくないな」
「……どういう意味……なの?」
これが成人した男性の言葉なら、まあ。婚姻のプロポーズのひとつに数えられるかもしれないけど、まだお子様だからね。きっと[気に入った!]ってことだと思うよ。
──うん!きっとそう!
「気付いていた?アイラとボクが話していた時、ボクの斜め前の男の子が、ボクを凄い形相で睨んでいたこと?」
知らなかった。
でも……斜め前って言ったら
「ジャン君?」
「ジャンっていうのか?あの精悍な顔の緑の瞳が印象的な少年は……」
「ちょっと!ジャン君を不敬罪とかで、処刑しないよね!」
「するわけ無いだろ?ボクを何だと思っているんだい?
それよりも。ジャンと君はどういう関係?」
どういうって……。
「ただの幼馴染?かな」
「ただの幼馴染には思えないね。
少なくともジャン君だっけ?彼はアイラをそう思ってはいないようだけど?」
鋭い
「まあ。いろいろあって、わたしの事を好きになったのだと思う。それくらい鈍感なわたしでも分かるわ」
「アイラはどう思っているの?そのジャン君とやらを……」
「ガキよね。……わたしは歳上が好みなの」
「せめて同年代まで範囲を広げなよ」
「何故?わたしの好みはそう易々と変えられないわ」
だってわたし!実年齢17歳だもの!
12~3歳の男の子なんて、ガキにしか見えないもの!
「アイラ。ボクはどうなの?
やっぱり好みから外れるの?
君のお眼鏡には敵わないの?
どうなの?」
──どうなの?
って
「アーサーって王子様なんでしょう?
平民庶民のわたしには……そういう対象外っていうか……畏れ多いっていうか……雲の上の存在よね」
「好みではあるのかな?」
そりゃ。格好いいしね。露店巡りの時のガキ臭さは消えているしね
「まあまあ。イケてるんじゃない?」
「最高の褒め言葉だ!
それを聞いて勇気が湧いたよ」
アーサーはヤケに嬉しそうに笑った。




