【34】聖女様と救出劇(3)
アイラを含んだ救出部隊一行の7人は、秘密裏にギルド……そしてカムスの街を出たの。
そのダンジョンまでは直線距離で15㎞くらい。
もしそこまで直線道路が通っていて平坦だったら、大人の足で4時間くらいかな?
慣れた冒険者ならもっと早く進めるけど、休み無しってとうのは現実的でないから、やっぱり4時間以上は掛かると思う。1.5倍から2倍の時間は見ていた方が良いかも!
そしてそのダンジョンまではご丁寧に直線道路なんてない。川や谷、沼地や密林地帯もある。だから結構時間が掛かるんだ。ノルンさんはこんな危険な道を、大怪我を負いながらほとんど不眠不休でカムスまでたどり着いたと云うから驚き!
わたし先頭を行くノルンさんを想像しながら、感心している。
というのもわたし。ガイの背中に椅子ごと背負われているから、ずっと後ろ向きなの。
カムスの街を出るまで布で覆われていたけど、今は自由の身?ガイの背負うザックの上半分が背もたれ付きの椅子になっていて、わたしはちょこんと座っている。
ここで良かったこと
──スカート履いてなくて良かった!
ちゃんとズボン履いてたから、恥ずかしいけど……恥ずかしくない。ガイが家を出るときにズボンに履き替えさせたのは、意味があったのね。
パーティーは今。道なき道を進んでいるの。
本来なら冒険者達が利用する比較的安全な道があるから、そこを通るのが正道だけど、結構迂回するみたい。
今回は急いでいるからより直線距離に近いルートを選んでいるけど、難題は道の悪いのはもちろん、凶悪な魔物と遭遇する可能性が高い。狩猟目的の冒険者以外は殆んど立ち寄らない道!
けれどわたしの能力ありきで進んでいるから、道は確かに悪いけど!
わたしは紐でしっかりと固定されなきゃ、転げ落ちるけど!
時々酔って吐きそうになるくらいグラグラ揺れるけど!
すこぶる快調にすすんではいるみたい!
だって……
「ノルン!どうだ?異変はあるか?」
先頭で道案内と偵察も兼ねるノルン。本来なら斥候としてもっと先を一人で偵察するけど、今はお互いが見える範囲で先行している。
彼女の次……パッと見には一塊のグループの先頭を進むように見える剣士のターインが、パーティーから先行するノルンに聞いたのだ。
ノルン。少し立ち止まって
「異変?有りまくりだよ!何なのコレ?可笑しいよ!
魔物の気配全然無いよ!
わたし敏感だからさ、魔物がいれば百メートル先から気配を感じることができんの!でも、全然ひっかからない!何で居ないの?アイラの能力なの?凄いよ!」
帰り道。この辺りを進んだノルン。
ダンジョンで魔物の群れに襲われてからは、帰りの道中は魔物の気配を察知して避けて戦闘せずに、無事カムスへとたどり着いた。あの重傷で逃げられたのはそんな理由があった。
そのノルンがいくら耳をそばだてても、魔物の気配がない。本来なら、気配だけならここまて道中に数百匹、遭遇も数回に及ぶ筈だけど見事にスカッてる。
幾ら百m先から気配が分かっても、逃げ足の早くて自身の気配も消せるノルンだから逃げ切れたけど、足の遅いパーティーでは魔物との遭遇は免れない。
それがもう5㎞も進んで居るのに魔物一匹いない!
ノルンにはそれこそが異常であり得ないのだ。
パーティーはノルンを先頭に、ターイン、ドゥオン、ガイ&アイラ、シャナ、殿にノーフィスの順に進んでいる。
だからわたしはずっとシャナさんとノーフィスの厳つい顔を見ている。
ここから更に2㎞ほど進んで、昼食となった。
丁度お昼位ね。
お昼ご飯はパンとスープ。スープはあらかじめ作ってあって、それを暖めるだけ。
おかずは薫製肉ね。火で炙っているの。
火はガイが魔法で起こしたの。ガイは簡単な魔法なら使える。指の先から火を出して固形燃料に着火するくらいは出来るの。
時間に余裕があれば木の枝を集めたりするけど、今は任務中だからちょっと高価な固形燃料で時短しているらしい。
これらの費用は救助されてもされなくても、遭難したパーティーが半額負担するみたい。残りの半額はもしもの時の為の保険みたいな互助制度があって、毎月一定額積み立てたらこんな遭難した時に、救助隊等の費用にも宛がわれているの。
全額にしないのは、積み立て金を払っているからと無茶をしてダンジョンに挑む者が多いから。
それに一年間に一度だけ半額負担で、2回目は7割負担、3回目は9割……4回目からは適用されない。
1月1日にリセットされるけど、救助費用は安くないから、無理をしがちな初級から中級へ移行しだしたパーティーの抑止力になっているの。
冒険者なんて結構イケイケドンドンなタガが外れた輩が多いから、ギルドも大変だと思うわ!