『みどり包み』〜抹茶あれこれ
俺と陽菜とお袋が文句無しに好きなのが、いわゆる「抹茶モノ」。ケーキに限らず、スーパーやコンビニでドーナツ、チョコレート類、アイス、焼き菓子なども抹茶モノを見かけると三人ともスルーできない。
小学校の修学旅行で行った京都では、俺も陽菜もお土産のお菓子は、生八つ橋に至るまで抹茶モノばかり買ってきたくらいだ。陽菜に至っては買い物中に友人から「抹茶モノばかりだけど、いいの?」などと心配をされたらしい。
つい数ヶ月前には、近所のコンビニで「抹茶わらび餅」などという、なんとも魅力的なシロモノが売っていて、思わず大人買いをして、実家の親父にも無理矢理すすめたくらいだ。まあ、俺の勢いに圧倒されたのと、甘さ控え目だったから食べていたが、半ば呆れていた気がするが。もちろん、お袋にもお供えしたさ。これを供えなければバチ、いや、祟られそうなくらい美味かったから。
そんな俺たちの店だから、もちろん抹茶モノは揃えている。もちろん使う抹茶にはこだわりを持っている。
抹茶ムース、抹茶ロールケーキ、焼き菓子では抹茶フィナンシェ、クッキーも時々。陽菜の担当のマカロンにも抹茶味がある。そして実は抹茶バターサンドというのもある。抹茶のクッキーに抹茶を効かせたバタークリームと、小豆をサンドしている。これもなかなかの人気商品だ。
抹茶モノは年配の常連さんを中心に人気だが、若い年代から小さな子供までと年齢層が広い。
そして忘れちゃならないのが『みどり包み』。抹茶スポンジと抹茶わらび餅と生クリームを薄い求肥の生地で四角く包んで金箔をパラリと散らしてある、ちょっとだけ高級感を出した一品だ。
実は今日の午後の休憩に一個だけいただくことにしていて、厨房の冷蔵庫に一個だけ待機させている。うっかりすると三個くらい食っちまうからな。
…と、陽菜が冷蔵庫を開けている。やべー…。
「店長、これはなんですか?」
陽菜が『みどり包み』の乗った皿を持って立っている。
「いや、その、ちょっと失敗しまして…。だから俺が…。」
あーあ。見つかっちまった。しどろもどろに答えながら目が泳ぐ。
「どうして一個だけ失敗できるんですか?先週も先々週も一個だけ失敗してましたよね?しかも『みどり包み』だけ。」
副店長陽菜の追求が続く。時々こっそり食ってんの、バレてたのかよ。
「気、気のせいです。」
「気のせい、ねー。」
陽菜がニヤニヤと詰め寄ってくる。俺が甘かった。昔からカンの鋭いヤツで、何度こいつに弱みを握られたか。
「も、もう一個、バイトが箱詰めに失敗した、みたい…です。」
「そうですか。」
慌てて店頭に行き、バイトの売り子がレジを打っている隙にこそっと一個運んできて陽菜に渡す。
「こ、ここが角が、ほら少し、ね?」
「そうこなくっちゃ!」
『みどり包み』の皿をニヤリとして受け取った陽菜だった。