アップルパイ
どこの店にもたいてい置いていて、そこそこ人気のスイーツ、アップルパイ。リンゴは生もいいが、火の通ったリンゴも好きだ。お袋がアップルパイがあまり好きじゃなかったので滅多に作ってもらえなかったが煮リンゴはよく作ってくれた。砂糖で煮たものをバターと一緒に耐熱皿に並べて、シナモンシュガーをかけて焼いてくれたのだ。焼くのは最後のわずかな時間だけだが、我が家では焼きリンゴと呼んでいた。このリンゴ、煮た段階でパイ生地で包んでしまえばアップルパイになるということを知った中学生の頃。このまますぐにアップルパイが食べられるなんて、と、お小遣いで冷凍パイシートを買ってきてワクワクと包んで焼いてみた時の感動は今も忘れられない。
リンゴはそのまま食べるのもいいが、先述のシナモンシュガーをかけて焼いたものもまたいい。リンゴがお買い得だった時や、大量にいただいた時によく作ってくれた。祖母宅から箱ごとリンゴが送られて来たときには、焼きリンゴを何回作ってもらえるだろうと、大量のリンゴを前に唾を飲み込んだものだ。
また、遠足や運動会などの弁当持ちの時のデザートとしてもよく登場して、時には羨ましがる友達に少し得意げな気分で分けてやることもあった。
焼きリンゴといえば親父の迷作を思い出す。まだ低学年の頃だったか、ある休日にお袋がいないときに友達が遊びに来たときのこと。
「お。いらっしゃい。おやつに焼きリンゴ作ってやろっか?」
「やったあ〜!」
珍しく家にいた親父の提案に友達も妹も俺も喜んだ。しかし、数分後に出されたのは、熱くなっただけで、火の通っていないリンゴにシナモンだけがかかったもので、親父に悪いから食べたけど、えらく口に合わなかった。後でお袋と話しているのを聞いていたら、くし切りにしたリンゴを、ただそのままオーブントースターで焼き、シナモンをかけたらしい。親父は簡単な調理はできるが、スイーツには疎いので、今思えば仕方ないミスだろう。当然、話を聞いたお袋が唖然としたのは言うまでもない。
リンゴを煮ていると時々、その時の親父のバツの悪そうな表情を思い出す。そしてあの粉っぽい『焼きリンゴ』の食感も。そしてそんな粉っぽい思い出と、初めて冷凍パイシートを買ってきた時のワクワクや子供の頃の弁当の思い出を包み込むようにリンゴを並べて、上には格子状に生地を乗せると、そっとオーブンへと運ぶ。懐かしい思い出がパイの網目からこぼれ落ちないように。