白いロッキーロード。
ホワイトデーのためにマカロンに専念していたはずの陽菜が提案してきた。
「お返し用にお手頃なもの用意しましょう。ほら、ホワイトデーはマシュマロも使うからちょうど良いし。」
陽菜が提案してきたのは、ブラウニーとロッキーロードの小さな袋入りのもの。小さいサイズのものを二切れずつ入れて、お手頃でカジュアルなお返しパックにしては?ということだった。しかもロッキーロードはホワイトチョコで作るつもりだと言う。確かにブラウニーとの組み合わせなら、色合いとしてはその方が良いだろう。
「まさかまた対決しようといているわけ?」
「そうじゃなくって、ホワイトデーの出費が痛いという声があったからですよ。」
「なるほど。それは良いけど、マカロンの準備は大丈夫か?」
対決をするつもりではないと聞いてほっとしたのも本音だが、陽菜の体力のほうが心配だな。
「じゃあOKってことですね?マカロンのほうは大丈夫です。」
マカロンの二個入りのパックを思えば、箱代も要らない分、コストは安い。同じ値段にすればこちらのほうが包みとしては大きいので見栄えもするだろう。マカロンを好まない相手からはこちらのほうが喜ばれるかもしれない。なかなか良いところを突いて来たな。
「ところで、ホワイトのロッキーロードというのは、その…。」
「わかっていますよ。どうぞ。」
さすが陽菜だ。ニヤリとして試食用のそれを乗せた皿を差し出した。お願いや提案をするときには必ずといっていいほどこうして俺の言いそうなことを把握している。俺は試食が大好きなんだ。どれ、と一切れ取ってかじってみる。
「ホワイトも美味いな。じゃあ、無理のない程度にやってくれよ。」
言いながら二切れ目を手に取ると陽菜が元気よく答えた。
「もちろん!」
マシュマロやアーモンドはホワイトチョコレートにもよく合う。かじった瞬間の、このマシュマロとチョコの食感がたまらない。もちろんアーモンドの食感も一役買っている。モグモグやっていると陽菜が得意げに微笑んだ。
「お供えも用意しましたから。」
さすがだ。ぬかりがない。新商品やを試作品は必ずお袋にお供えをするのが暗黙のルールである。よく売れますように、という願いをこめて、などというと、お袋を神社のように扱っていると思われるかもしれないが、それだけではなく、こうしてお供えをすることがお袋への恩返しであり、近況報告なのだ。そしてそれは一人暮らしをしている親父の様子を見に行くきっかけにもなっている。俺も陽菜もそれぞれ一人暮らしをしているのだ。俺たちが普通に会社勤めをしていたら、こんな風に様子を見に行くこともそんなにないかもしれない。お客様の笑顔もありがたいが、こうして親父に会うきっかけがあるのは実にありがたいことである。