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彼者誰記  作者: 黒漆
7/20

漂流石

 へえ、あんたまた随分と遠方から来たんだねえ。おや、これこれ、あんたこれ見てくれよ。浜辺にさ、偶に落ちてるんだよ。縁起が良いって言われててね。

 なんでもさ、布袋様に似てるから布袋石とも呼ばれてるらしいんだわ。難しい事は知りゃあしないんだけど、どうもイルカの耳骨の化石なんだってさあ、何百年も前のイルカの特に堅い部分の骨が削られずに残ってね、浜辺に打ち上げられるみたいなのさ。

 幸運のお守りねえ。へえ、あんたもこれを拾いに来たのかい。うん、珍しいもんではあるよ。それじゃあ一緒に探すかね。でもねえ、何年か前この石がごそっと大量に流れ着いた頃が有るんだわ。当時は随分話題にもなってねえ、この浜も賑やかになったもんだけど、ああ、そりゃ良い事だよ確かにねえ。随分と店やらなにやらで地元も稼がせてもらったからさあ。でもねえ、代りに随分と水難事故も多かったのさ。波に流されてねえ、帰れない人間が大勢出た。それも石拾い目的で周りを気にしてか、単独で来る人間ばかりが溺れてねえ。だから、事故にはせずに理由もないのに自殺ってところで決着をつけて、話を大きくする事を避けてたらしいけれどもさあ。地方ってのは余所者には冷たいもんさね。

 訪れる人間が増えたから事故が増えるのは当たり前だって? まあ、そう思うわなあ。でもねえ、考えてみなよ、この浜は遊泳禁止区域さ。泳ぎもしないのに波に攫われるなんておかしいじゃないさ。それに、この布袋石ってのは海から戻れるって意味をかけてダイバーやサーファーっていうの、へえ、あんたもなのかい、そんな連中に人気があるみたいでねえ、よく拾いに来るんだけれど、普段海に慣れてる人間が何故だか波にのまれて沈んじまう、全く不思議じゃあないか。海に沈まないためのお守り探しに来て海に沈んじまうんだから皮肉なもんさ。潮に流されてねえ、未だに海から陸に上がれない仏さんも多いみたいだよ、あんたも気をつけな。

 あんた達みたいな人間はなんで根無し草みたいなのが多いのかね。偉丈夫で体力に自信があるから身一つでもなんとかなるって、そうだねえ。うん、がたいも良いし骨も申し分なさそうだもんねえ。あんたも一人旅なんだろう、そうかい、そりゃあ良かった。あたしにはいつでも拾えるもんだから、これはあんたにあげるよ。これであんたは沈まなくて済むねえ。

 どうしたんだい、ああ、周りの人間が皆あんたを見ている気がするって、そりゃ気にしすぎだよ。安心しな、あたしの知り合いばかりさ。おやあんた、あそこにも一つ、布袋石が落ちてるじゃないか。見えないかい、ほらそこ、あの波の先さ。

 磨きあげられたばかりみたいで、やけに白くて目立っているだろう。

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