りんご飴
テーマ「赤」より
学校が終わり、いつもの近所の公園に駆けてゆくと、なおちゃんがいた。彼女は何故かいつもこの公園で遊んでいた。私は学校いかないの? と聞いた時も、なおちゃんは悲しそうな表情ひとつ見せずに、うん、だってここの方が楽しいでしょ、と言ってにこにこ笑っては公園を駆けずり回っていた。
時折眼帯を付けては、ぼさぼさ頭でお世辞にも綺麗とは言えない薄汚れた洋服、微かに体に残る斑点がなおちゃんの生活の厳しさを物語っていたけれど、当時の私は彼女がそんな厳しい状況にあるなんて、露とも思わずにいた。
衣服や体以外にも、なおちゃんには気になることがあった。いつも口に何かを含ませていたのだ。あの日も口の中で飴玉を転がすように、ころころと何かを移動させながら、遊ぶ事に夢中だった。なおちゃんの後をついて歩くといつもりんごの香りがついていた。
だから私は、なおちゃんが誰かから貰ったりんごの飴を舐めてるんだと思って、あの日「私にも頂戴」と頼んでしまった。
なおちゃんは欲しいの? と、少し寂しそうな顔を見せてから口を開いてみせた。なおちゃんの真っ赤な口の中には何にもない。するとなおちゃんは開いた口を再び結んで「空気飴」と小さな声で私の耳元に口を近づけ、言った。「おばあちゃんに貰ったの、○○ちゃんにもあげるね」なおちゃんは口を開けてと続けたけれど、私はそんななおちゃんが気味が悪くて、いらない、そう一言告げると帰ってしまった。
私は驚いて冷たくしてしまった事を気にして、次の日にすぐ、なおちゃんに謝りたくて会いに行く。その日のなおちゃんは公園の木の下でうずくまり、いつもと違い、どこか元気がなさそうだった。けれど、私の姿が目に入るなり駆けてきて、「ごめんね」と一言伝え、滑り台の裏に消えてしまった。私の手のひらの中には、真っ赤な飴玉がいつの間にか入っていた。
なんの包装もされていない飴玉、私はそれを怖くて捨てた。
それきりなおちゃんは二度と公園に姿を見せなくなってしまった。
私が中学校を卒業する頃、公園の横を通ると、ふと、母親が思い出したように呟いた。
「あなたが仲良くしてたあの子、あの頃言えなかったんだけど、虐待で死んじゃったのよ」と。
私の洋服や鞄の中には、未だに赤い飴がどこからか紛れ込む事がある。「ごめんね」そう言葉にすると飴玉は消えて、変わりに薄いりんごの味が口の中に広がる。
その度に寂しそうに駆けてゆくなおちゃんの後ろ姿を思い出す。




