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彼者誰記  作者: 黒漆
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おとしもの

頂きましたお題「落し物」より

 この間ね、落とし物を見かけたんです。公園のベンチの上で街灯の灯りに照らされていたんですよ。一応ブランドもの、古くさい年代物のカバンで随分と草臥くたびれていました。私もその日は残業が込んでいて疲れていたものですから、無視してやり過ごしたんですよ。中に何が入っているにしろ、それを持って交番まで行ったら数十分の手続きは確実でしょう? まあそれに見合うだけの中身なら報われるのでしょうが、兎に角ね、私は眠かったんです。

 だから見向きもしないで横を通り過ぎました。そうしたらね、いつの間にか私の後ろに居た人が同じ事に気がついたのか、「拾わないんですか」なんて私に声をかけてね、ベンチに向かうとカバンに触れたんですよ。正直面倒だなあ位にしか思わなかったんですけど、そうだな、紙の手提げ袋を持った四十代くらいのおじさんでしたね。正義感とかそういうものからじゃなくて、単純に中身が気になったんでしょう。結構膨らみがありましたから。

 私はそれじゃ予定がありますからってその場を去ろうとしたんですけど、その人が鞄に触れた瞬間、茂みから男が五、六人飛び出してきたんです。あっという間に囲まれてね、何盗もうとしてんだ何て因縁付けられて。誰もが顔を隠しているような物騒な格好で、拳をこれみよがしに見せながら凄むものだから萎縮してしまって、結局手持ちの金を持っていかれてしまいましたよ、おじさんも随分抵抗してね、最後には公園の奥につれていかれてしまいました。その後のことは詳しくは知りません。ニュースにもならなかったですし、死んだなんて事は無いと思うんですけどね。散々な夜でした。

 それからもうその公園は通らないようにして生活を続けていたんですけど、ある日仕事終わりの飲み会の帰りについ、失念していたのか通ってしまったんですよ。するとね、またあのベンチの上に同じ鞄がある訳です。こりゃあまずいと思いましてね、足早に通り過ぎようとした。そしたらまたあの男達が物陰から現れましてね、私を追いかけてきたんです、けれど少し飲みすぎたせいか足が覚束なくて、こりゃあダメだと。そう諦めて財布の位置を探っていると、彼らが開口一番に金は返すから許してくれって、こう謝るんですよ。なんでもあの夜から彼ら、ろくなことになっていないらしくて。もう一人のおじさんの連絡先を教えてくれなんて言われても、私も知りませんし。

 どうもね、おじさん、神主さんだったらしいです。格好はサラリーマン然としていたんですが、紙袋の中身を見せてね、なんでも見たことのない漢字のような字の書かれた紙の束だったらしいですけど、落とした厄を神様の元へ運ぶ途中だからこんな事をしてどうなっても知らんぞと脅されたらしいんですよね。でもそんなの信じられるかって紙袋ごと破り散らして、その上おじさんの事、リンチに合わせてしまったみたいで。

 自業自得ですけどね、よく見たら全員指が欠けてたり、歩き方がおかしかったりしているんですよ。

 何にしても、落としものを拾う際には気を付けなければな、そう思いました。

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