6.あるテストパイロットの選択 というか発案 の結末
空間跳躍の実験機の中でワタシはラプラスの魔女に出遭えた。
「さあっ! 皆様っ! これから人類初の有人空間跳躍が始まろうとしています」
アナウンサーの後ろのモニターで空間跳躍実験機がラグランジェ・ステーションから離れ、ゆっくりとメインエンジンに火が入り、速度を上げていく様子が映し出されている。
「5、4、3、2、1……空間跳躍開始っ!」
一瞬、宇宙船が虹色の光に包まれ……直後に消え去った。
歓声と響めきが響き渡り……拍手が鳴り響く。
「見事っ! 実験機は空間跳躍を始めましたっ! 出現予定箇所は木星軌道上っ! 出現予定時間は今から約91時間後……って? あれ?」
アナウンサーが驚いたのも無理はない。
虹色の光が再び出現し、その中から……先程消え去った、実験機が出現した故に。
実験機は……メインエンジンが暴走してはいたが、直ぐにエンジンを停止させ、スラスターで挙動を修正しラグランジェ・ステーションに接続した。
人々が見守る中……ハッチが開き、中から現れたのは……
「皆様っ! ワタシはこのとおり無事に空間跳躍を果たして帰って参りましたっ!」
小脇に何かを抱えているテストパイロットの姿だった。
「えーと。どうして帰ってきたんでしょうか?」
すかさず近づき質問するアナウンサーにパイロットは声高らかに応えた。
「きゃははは。エンジンが何者かに爆破され暴走したので、出現座標を当初の予定から変えて生還致しました。まさか虚数座標を入力したら時間跳躍になるとは思わなかったけど」
「はい? なんの意味です?」
「だから全ての空間軸座標に直交する虚数座標を出現座標の代わりに入力したのよ。意識の力でっ! そしてら時間跳躍になったというわけっ! 時間軸振動方向に実数を入力した場合は失敗続きだったけど、結局というか結果として空間軸座標に虚数を入力すれば時間跳躍になるってコト。それは……」
一般人には理解不能な説明を続けようとするパイロットの言葉を遮るようにアナウンサーは尋ねた。
「所で……小脇に抱えている縫いぐるみは? なんの意味でしょう?」
「なんて事を言うの? これは縫いぐるみじゃなくて……って! あれ? ラプラスっ! 何処に逃げたっ! 許さないわよっ! 出てらっしゃいっ!」
テストパイロットが叫ぶ映像を流していたTVモニターに微笑んで部屋の主が呟いた。
「そっか。ラプラスに出遭ったのか。あの子も……」
レザースーツを肩にかけて周りを取り巻く……黒のドレス姿のアンティークアンドロイド達に声をかけた。
「さて。そろそろ出かけるわ。今度は……そうね。ナンバー91。アタシに付き合って」
呼ばれたアンドロイドが部屋の片隅に立てかけてある黒のレースの日傘を持ち、従った。
「後のは……いつも通り。留守の間、部屋のメンテを頼むわね。あ、ナンバー1729。悪いけどTV消しといて」
部屋の主が出て行った後……呼ばれたアンドロイドがTVのリモコンを取り、TVに向けて電源ボタンを押した。
直後にテストパイロットが叫ぶ映像が消え、リモコンを操作したアンドロイドの姿を鏡のように映し出した。
消えたTVに向かって悪戯っ子ぽく、片目を瞑って小さく舌を出すアンティークアンドロイドの姿を。
そしてアンドロイドは……機械らしい無表情に戻り、自分の仕事をしに部屋の奥へと消えていった。
読んで頂いてありがとうございます。
「ラプラスの魔女」としては全ての話の「続編」的な作となります。
キャラは「101人の瑠璃」の中から1人使ってます。
トンデモな物質名は、元々は「アコライト・ソフィア」の杖の材質として考えていたモノです




