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第1話 底辺たる所以

初執筆、初投稿の見切り発車です。

至らぬ点はございますが、なにとぞお付き合いください。


当作品本文中に自傷行為が行われますが、当該行為を助長・推奨する意図は一切ございません。

「じゃあ今日もスライム狩りしていきます」


 イマイチ感情の乗らない声は、発した当人以外に誰もいない小部屋で響く。

 左腕に巻かれた包帯がほどけないことを確認するように軽く振って見せる。

 傍らに配信用のドローンボットを浮かべ、迷わず配信開始ボタンを押していた。


『配信中……』


 ドローンボットから投影されたホログラムが、俺のダンジョン攻略のはじまりを告げる。

 

『現在閲覧者数:0人』


 配信開始直後だから……そう言い訳したいところだが、基本的に俺のダンジョン配信は底辺ビタ付きである。

 理由なんてものは自分が誰よりもわかり切っている。


「スライムは魔石を引っこ抜いたら死にます」


 ゴム手袋をはめて、近くを蠢いていたスライムに手を突っ込む。

 この時、直接触れないようにしないといけない。直に当たると肌が爛れて火傷のようになるからだ。

 半透明なスライムは、その弱点である魔石が体に浮かんでいるのも丸見え。

 最弱の魔物の名をほしいままにするその姿は、今の自分の姿に重なるものがあった。


「魔石を引き抜けば、残りの液体は無害なので放置して大丈夫です」


 ダンジョンに入ってすぐの通路脇で、ゴム手袋を嵌めた男がしゃがみ込みスライムに手を突っ込んでいる。

 このままここで顔からダイブしない限り、命の危険はない。する気もない。


「……」


 話すことが尽きた。

 そもそも誰も見ていないのに、話す必要性もない。わざわざ顔を上げて視聴者やコメントを読まなくても、誰も来ていないことなんてわかり切っている。

 だから今日も俺は下を向いてスライムの魔石を集める。

 きっと今も、後ろから蔑まれていることだろう。良いスキルを持って生まれた人たちが、ダンジョンドリームを叶えるために俺の後ろを通って更に奥へと向かうのだ。



 

 テニスボール程度の大きさがあるスライムの魔石は、嵩張るその大きさの割に非常に低品質。バケツ一杯に集めても、精々5千円程度の買取価格だ。

 ダンジョンの通路の隅を下を向いて歩き、一日かけて5千円。誰も俺と同じことをしないわけだ。


『配信終了 最大同時視聴者数:2人 コメント数:0件』


 いつの間にやら視聴者数がカウントされているが、コメントがないことから察するにすぐに抜けてしまったのだろう。

 もう慣れている。この程度で、どうにも思う事はない。

 ダンジョンを出てすぐの待合所で配信ログを眺め、俺はひとりため息を吐いた。


「次の方~」


 その声に顔を上げると、受付の上には俺の受付番号が表示されていた。

 慌ててバケツを持ち上げ、カウンターの上にゆっくりと置く。


「あ。いつもありがとうございます。計数するので、少しお待ちくださいね」

「……はい」

 

 受付嬢は眩いばかりの笑顔を向けてくる。

 いつもこのダンジョンでスライムの魔石をバケツ一杯に持ってくるのだ。スタッフの間であだ名をつけられていてもおかしくないし、こうやって覚えられているのも納得できる。

 スライムの魔石しか持ってこない俺に対してその笑顔。うーん、教育が行き届いている。

 魔石の入ったバケツはやはり重いようで、受付嬢はうんうんと踏ん張りながら計数機に流していく。


「お待たせしました、合計で5,200円の買取になります」

「カード受け取りで」

「承知しました!では、こちらの端末に攻略者証を差し込んでください」


 ダンジョン攻略に必要な攻略者証。これひとつで身分証にもなり、財布にもなり、銀行にもなる。

 攻略者証と共に返された残高明細を見て、ため息を吐きたい気持ちに駆られた。人前なので我慢したが。


 受付嬢に見送られながら扉を出て、まずため息をひとつ。

 今までひたすら夢を追いかけてきた。学生気分を捨てなければならない年齢になっても、それでも夢を見てきた。

 



 ダンジョン管理支部から家まで、徒歩2分。玄関の扉を後ろ手に閉めた俺は、その場にへたり込む。

 出てくるのは、ため息だけではなかった。こんな姿は誰にも見せたくない。

 見せることもない。二世帯が住めるほどの大きさを誇る家も、今や静かに孤独を知らせる場に過ぎないのだ。


「なんで」


 ダンジョン。ほんの半世紀前から世界を襲った未曽有の災厄にして、今や人類の存続に不可欠となった構造体。


「なんで」


 スキル。ダンジョンに立ち向かうため、人類に突如授けられた祝福。ダンジョンに巣食う魔物へ対する兵器。


「なんで、俺だけ」


 ダンジョンに挑むには、スキルが不可欠だ。銃火器は個人で携帯できないし、そもそも効きが悪い。

 

「なんで、なんで」


 このダンジョン攻略が至上とされる世界は、生まれながらにして平等ではない。

 人間が誰しも授かるスキルはしかし、宿る人間によってその効果が異なる。


「こんな、こんなスキル」


 包帯を解き、左腕を露わにする。巻いていたガーゼが床に落ち、俺の目に映ったものは、グズグズに爛れ見るに堪えない左腕。

 なんで。

 掠れた声は、喉から発されることなく消える。

 左腕を掴む。

 痛い。けど、気にならなかった。そんなの、気にすることすらできなかった。


「こんなスキルで」


 グジュ、と鈍い音が鳴る。

 健康であった柔肌が、みるみる内に煤けていく。

 水ぶくれができ、破れ、グズグズと爛れ溶けていく。


 スキル、【再現】。

 『自分が受けた攻撃スキルの効果を自分に再現する』という効果を持つ、俺が授かったスキル。

 ボタボタと垂れる血を眺め、肉が焦げるような臭いを嗅ぎながら……俺は、過去に思いを馳せていた。

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