第十一話:不穏な助言
東南の風が吹いた。
ヒスイと祈祷師の間を、吹き抜けていく。
風の精霊が解放され、この世界に風が戻ったようだ。
「────最初から、これが狙い⋯だったのだな」
祈祷師が、静かに言う。
すでに先ほどまでの驚きは収まっていた。
本当にこの人物は冷静だ。
「まぁな」
最初から、本命はカグヤの舞だ。
精霊を操れるのは、カグヤしかいないのだから。
ヒスイは、風の精霊が封印されているモノを発見し、楔を打ち込む役目。
「アンタの結界、少し借りたぜ」
「────してやられたよ」
祈祷師が、静かに笑った。
その笑みは、何もかもを諦めたようにも受け取れる。
「まさか、魔王を捨て駒にするとはな⋯」
「⋯⋯⋯⋯⋯その呼び名、どこで聞いた」
何故、この人物が知っているのか。
答えは一つしかない。
「あんたも、監史者か」
「“元”だけどな」
元監史者。
それならば、色々と納得出来た。こちらの戦い方を熟知しているような立ち回り。罠の仕掛け方一つ取ってもそうだ。監史者で習うことを、尽く潰されていた。
まるで、TRUSTの考え方を否定するかのように────。
「⋯⋯⋯⋯私は、TRUSTの考えが理解出来なかった。歴史は、最善が一番だと⋯正しくなくてもいいと、今でも思っている」
祈祷師の言葉は、今なお揺るぎない信念を持っていた。
「今回の作戦は⋯“孔明”か?」
「あぁ」
孔明がいなければ、出し抜かれていたのはこちらだっただろう。
それ程、こちらの動きは読まれていた。
「まさか、監史者が登場人物に接触するとはな⋯」
TRUSTでは通常、登場人物への接触は『最後の手段だと心得よ』と教わる。
だからこそ、最初から孔明に接触したヒスイたちの事が予想外だったのかもしれない。
「あの少女は、お気に入りか?」
その言葉に、ヒスイの肩がピクッと跳ねる。
この人物はTRUSTの中でとても高い地位にいたことが、その一言で察せられた。
「⋯あの少女が大切ならば、しっかり守れ」
「⋯⋯⋯」
「────誰も信頼するな、と言いたいところだがな」
祈祷師が被っていたフードを取る。現れたその顔には、大きな傷が痛々しく残っていた。
落ち着いた、不思議な雰囲気を持つ女がそこにいた。
「⋯言われなくても、守ってみせるさ」
ヒスイがニヤリと笑って言い切った。
それを見て、女はフッと口元を緩めると「そうか」とだけ呟いた。
「私を、捕まえるのだろう?」
「⋯⋯⋯“捕らえろ”」
見慣れた漆黒の鎖が、女の体を拘束する。
魔法陣に吸い込まれる瞬間、女が小さく呟いた。
「気をつけろ、TRUST内部の裏切り者に────」
不穏な言葉を最後に、女の姿が消えた。
「気をつけるよ」
ヒスイが、ポツリと呟く。
吹き抜ける風だけが、この呟きを聞いていた。
続きを出せて良かったです!




