第二話:歪みの兆し
「適当に座ってくれ」
転移先は、キリュウの執務室。
カグヤは、部屋の中を見渡す。前に来た時とは雰囲気が変わっていた。
「雰囲気変えたんですね」
「こっちの方が落ち着くだろ?」
「そうですね」
本部内の各部屋は、それぞれの持ち主によって様変わりする。
キリュウの以前の部屋は殺風景で事務的な部屋だったが、今は和風と洋風が融合した感じだ。
大きな窓の向こうには和風な庭園が見える。
「和モダンっていうらしいぞ」
「らしいって⋯」
「おれがやった訳じゃないからな」
TRUST本部は、進化する。
部屋の持ち主が「こんな感じ」とイメージを伝えると、勝手に作り替えてくれるのだ。
しかも、ゴミなどは一切出ない。粘土のように別のものへと変形するのだから何とも不思議な現象だ。
「さて、今回の任務の話だが────」
先ほどまでのほのぼのとした雑談からは想像できないほどの厳しい顔をしたキリュウ。一瞬で切り替えられる能力は素晴らしい。
キリュウが手元の端末を操作すると、空中に画像や文章データが投影される。
「今回の任務は、三国志世界に現れた“歪み”の特定だ」
「────歪み?」
「あぁ、正規のルートでは死ぬはずの将軍が生き残った」
「⋯⋯⋯⋯⋯」
死ぬはずの人間が生き残る。
それは、本来なら有り得ないことだった。
「その後、別の場所で死んだがな」
それは、強制力が働いたのだろう。
だが死ぬ時期がズレれたことにより、その間の歴史が変わってしまった。
一人生き残っただけかもしれないが、それによって死ぬはずのない人間が死んだり、死なないにしても怪我を負ったり。果ては滅びるはずのない国が滅びたり⋯。影響は計り知れない。
「今回の目的は何ですか?」
侵入者には、目的が存在する。
中には愉快犯もいるのかもしれないが、圧倒的に多いのは自分の理想的な思想を持った者たちだ。
「まだ不明だ」
毎度不明な気がするが、賢明にも口を閉ざした自分を褒めてあげたい。
「キリュウさん、今回の舞台は?」
やっとドーナツを食べ終わったヒスイが口を開く。
ヒスイが聞いているのは、三国志のどの辺に入るのかという意味だ。物語に潜入するにしても、時代は特定されないと話にならない。闇雲に探したら途方もない時間がかかる。
「今回の舞台は────赤壁だ」
赤壁。
それは、三国志史上もっとも有名といっても過言では無い戦いだ。
「あの戦いには色々な国や人物が関わっていますよね? どこの将軍ですか?」
曹操軍と劉備・孫権率いる合同軍。
歴史が改変されたのは、どこの勢力なのだろうか。
「⋯合同軍だ」
キリュウには珍しく、言葉に詰まったように見えた。
一瞬だったので、気の所為かもしれないが。
あの戦いは、奇跡が起きて勝ったとも言われている。つまり、もし少しでもズレれば勝てない可能性もあるということだ。
「カグヤ、他に聞きたいことは?」
「ないよ」
今までの経験上、聞いたところで返ってくるのは『不明』や『調査中』だろうことは予想できる。
もし必要な情報ならキリュウが伝えているはずだ。
「了解。じゃあキリュウさん、行ってきます」
「いつも面倒な任務ですまないな」
キリュウの言葉や態度から本当にそう思っているだろうことが察せられた。
カグヤはヒスイと視線を合わせた後、ニッコリ笑う。
「今度何か奢ってくださいね〜」
そんな軽口にキリュウの口元が少し緩んだ。
それも一瞬だ。すぐに顔を引き締める。
「頼んだぞ」
二人は頷きを返す。
ザウルスが転移門を起動する。
「“発動”」
魔法陣の光が収まり、キリュウの前から二人の姿が消えた。
それを見届け、キリュウは椅子に腰掛ける。
深く息を吐き出す。
「────頼んだぞ⋯カグヤ、ヒスイ」
何とか続き出せました!
バタバタしていたので誤字があったらごめんなさい⋯。




