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黒緋の勾玉が血に染まるとき  作者: 弍口 いく
第3章 運命の人

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第4話 妖狼の指輪 その13

「あたしも行くわ!」

 話の脈絡は理解していないものの、狼の里へ向かうことだけはしっかり聞こえた八栄は食いついた。


「兄さんとあたしはそのためにここまで来たんだから、一緒に行くわ、ね」

 学斗に同意を求めた。

「え、ああ」


 学斗はずっとフリーズ状態で霞たちの話を黙って聞いていた。彼女たちの強い妖気をヒシヒシと感じて体の芯まで凍え切っていた。遥も以前とは格段に霊力が上がっている、故に、凡庸な自分が場違いで委縮していた。


「バカか? この娘は」

 霞はしらけた顔を向けた。

「あの程度の妖気に当てられて気絶するような霊力の低い者が、里に入れるわけないだろ」


「みくびらないで、あたしは綾小路家のハンターよ、さっきは不意打ちだったから不覚を取ったのよ!」

 八栄はムキになって虚勢を張った。


「ほんとにバカなだ、不意打ちだろうがなんだろうが霊力の低さは変わりない」

「バカバカ言わないでよ、アンタこそなによ、偉そうに」

 八栄は威嚇するように腕組みをして、椅子に座っている霞を見下ろした。しかし、霞が見上げた眼光に射抜かれて、すぐさま勢いをなくした。


「霞は偉いんやで、白蛇神やし、それすら見えてへんのやろ」

 向かいに座っていた重賢が静かに言った。

「え……」

 驚きの目を向ける八栄に、霞は美しい黒髪をかき上げながらツンと顎を上げた。


「えらく俗っぽい神ね」

「どこまでも無礼な奴だな」

「それにあたしの力を見誤ってるし、兄さんは知ってるでしょ、あたしすごく鍛錬を積んできたんだから、きっと力になれるわ」

 八栄は自信満々に食い下がった。


 そんな彼女に、霞はいきなり毒液を吹きかけた。

 紫の霧に包まれた八栄は、一瞬で目を閉じた。


 気を失って敢え無くその場に崩れ落ちた八栄を、霞は嘲る目で見下した。

「バカには話が通じん、眠らせておくのがいいだろ」

「短気やな、霞は」

 重賢は呆れ返った。


「ちょうどいい、八栄は置いていくつもりでしたから」

 学斗は床に横たわる八栄を見下ろし、無邪気に寝息を立てていたので安心した。


「だいたい、無理やり俺についてきた目的は遥君との再会だったんだから、最初から祭を救出する手助けをするつもりなんかなかったんですよ、我が妹ながら自分勝手な奴でお恥ずかしい」


「お前さんは行くつもりなんか?」

 重賢が学斗に尋ねた。

「もちろんです、皆さんが仁南さんって方を救出に向かうなら丁度いい、俺も一緒に祭を取り戻します。お願いします、俺が迎えに行ってやらなきゃならないんです!」


 切羽詰まって叫ぶ学斗を見て、霞は目を細めた。

 その目になにが映っているのか重賢にはわからなかったが、学斗の様子が尋常ではなかったので、狼の里へ連れて行くのは無理だと思ったのだが、

「お前は……連れていったほうがよさそうだな」

 霞の言葉は予想外だった。


「この小娘よりかはマシだな、妖気にも耐えられそうだし」

 霞は自分自身でなにか納得したように頷いた。


「では、貉婆むじなばあを呼ぼうか」

「貉婆?」

妖世あやしよの道に精通しておる、狼の里まで最短で行けるぞ」

「そんな妖怪が……」

 学斗は重賢に視線を流した。


「ここは不思議な場所なんですね」

「なんかなぁ、いつの間にかけったいなあやかしが出入りするようになってしもてな」





 貉婆を待つ間に、遥はダイニングの床に倒れた八栄をリビングのソファーに運んだ。

 重賢は手伝うふりをして、遥に耳打ちした。


「仁南となにがあったんや?」

「ちょっとね」

「ちょっとってなんや」

「あいつがなにを考えてるのかわからない」


「まあ確かにな、思ってることをハッキリ言わへん子やけど」

「八栄みたいにわかりやすけりゃいいんだけど」

 それはそれで面倒臭いのだが、なにもわからないのはもっと厄介だ。


「けどそれはお互い様(ちゃ)うか? お前も素直じゃないしな、自分の気持ちをちゃんと伝えてるんか?」

「そんなの言わなくてもわかるだろ、みんな気付いてるじゃん」


「仁南は、ハルは自分の霊力だけが必要なんやって思てるんや、そやし勘違いしたらアカンのやって」

「まだそんな風に思ってるのか」

「今までは黙ってても女のほうから寄って来たんやろうけど、仁南は違うで、仁南みたいな子にはズバッと言わな伝わらへんで」


「呼んだか?」

 その時、遥の足元から貉婆がヌ~ッと頭を出した。

 遥はギョッとして飛び退いた。

「なんでこっち?」

ちごたか?」


「貉婆、こっちだ」

 その様子を見て霞がダイニングから声をかけた。

「お前は若い男が好きだのう」

「そらぁそうですよ、いちばん美味いし」

 ニヤニヤしながら貉婆は霞の元へ行った。


 その丸まった背中を見ながら、遥はこんな奴に案内を頼んで大丈夫なのかと不安になった。


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