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フィルとヴィグベルト

別室での自己紹介を終え、私はこの世界の事を知った。

夢の中で見て来た事と違いはほとんど無く、フィルに確認を取ると「コウハちゃんの記憶が受け継がれてるのねえ」と柔らかく微笑んだ。

これが生まれ変わりや遺伝だとしたら、私もユウシャとして務めを果たさなければいけないのだろうかとみんなに問うと、それぞれが曖昧に首を傾げる。


「…お前の前のユウシャの、コウハが魔王ぶっ倒したからなあ」


「コウハは力を蓄える為に眠ったんだ。

それに僕らの次の旅の目的は、封印した魔王のパーツがきちんと封印されているのかなって確認する為の旅だから」


「君が今力を持っていない以上、危険な目に合わせるわけにはいかない」


最後はアリスタが私の手を取って言った。


「…アリスタ、近い」


「うん?そうだろうか?」


きりりと表情を引き締めるアリスタの手から抜け出して、私はフィルの後ろに隠れる。


「コウハちゃん?」


「どうしたんだコウハ」


「ディオルムは来ないで」


フィルの反対側から顔を出すと、目に見えてディオルムは落ち込んだ。


「だって…ディオルム、まな板って言ったもん」


「見たんか!!?」


「違えよ見えたの!」


「見たんじゃ無いか!!」


シンとアリスタがディオルムに詰め寄る。

ディオルムは反発しながら声をあげた。


「だってよコウハの奴、中々出て来ねえから様子見に行ったら…ら、」


瞬間、顔を赤くした。


「すまん、あれはまな板じゃねえ」


「思い出さなくて良いから忘れてよっ」


「くうっ、羨ましい…」


「貴様ディオルム…主人の剣である前に男として最低だぞ」


双方から疑いの目で見られるディオルムは、また頭を抱えると叫んで走り去ってしまった。


「まな板って…」


「はーいはい、大丈夫よコウハちゃん泣かないで」


フィルが笑って私の頭を撫でる。


「じゃあみんな、旅を続けて行くと言う事で良いわね?

コウハちゃんの記憶の整理と、そして私達の準備が出来次第出発……そうね、これから半年程向こうのお話しかしら?」


その言葉に頷いて、私は今後の行動などをこの国の王様に報告すべくフィルと共に王城へ行く事になる。

同行にアリスタが加わって、私達は三人で王城へと向かうのだった。



「……コウハちゃん、緊張してる?」


「し、してる…すごく、してるっ」


なんて言えば良いのかより、なんてところに行くんだろうと。


馬車の中でも手に人の文字を書きまくったし、ドキドキの心臓を抑えていると「まあまあ」とフィルが面白そうに笑ったのだ。

それを見たアリスタは心配そうに私の手を取って「私が守るよ」なんてイケメンな事を言う。


「大丈夫、コウハちゃんが目覚めだって聞いてホッとしてるはずよ」


「コウハの記憶に、奴はいるのか?」


「えっと…」


言われて、コウハの記憶を探る。

すると、綺麗な銀の髪を肩に流した男の人が出て来て頷いた。


「き、綺麗な男の人?だと思う…コウハの行動を面白いやつだって言ってた」


「そうそう、ヴィグベルト様ね。

一応報告としてコウハちゃんがコウハちゃんじゃない事を報告しなくちゃ」


言って微笑むフィルは、早速入って来た国王陛下に笑顔で先程と同様ふんわりと話し始めた。

そんな事にも慣れっこなのか、陛下の方も「そうなのか」とあまり表情を変えずに頷くだけだった。


「……なんだか、一回り小さくなったように感じるな」


「え?」


きょとんとして言われた意味を考える。

しかし答えが出るはずも無く、私はアリスタとフィルに視線を向けて助けを乞う。


「そりゃあコウハちゃんだもの。

絶対的な自信を持っていたものだから、一回り大きく見せていたのね」


「さすがコウハだ」


フィルの言葉にうんうん頷いているアリスタ。

陛下の方は私を見ていた。


「この度はうちのユウシャが迷惑を掛けてしまったようで、申し訳ない。

貴女は混乱しているかもしれないが、焦らずゆっくり自分の事を大切にしてくれると嬉しいよ」


まっすぐな銀の瞳に射抜かれて、イケメンはタチが悪いと心の中で突っ込んだ。


「……そう縮こまっていると、あのコウハには無い庇護欲の様なものが湧いてくるな」


「まあ…陛下ってばこちらのコウハちゃんにはお優しいんですね?」


「仕方無いだろう、あいつはリードを付けていてもそれを破壊して自分の道を駆け抜ける様なやつだ」


フィルと陛下はしばらく睨み合っていたが、互いに薄く笑みを浮かべて立ち上がる。


「残念ですが、わたくし達のコウハちゃんですわ。

いくら陛下であろうとも、大切なコウハちゃんを差し出したりはぜったいに、しませんわよ?」


「もちろんだとも、俺は自分の手で勝ちに行く。

個人の意見と言うものは総じて尊重されるべきだと考えるさ」


「………行こうか、コウハ」


「え?」


ぽんと肩に乗ったアリスタの手に頷くと、私はそのまま部屋を出る事になった。


ぜったい、の部分に力を込めていたフィルは「先に行っていてね」と言って扉を閉めた。


「どこに行くの?」


「陛下に挨拶はしたからな…城下町にでも出て、何か美味しいものを食べよう」


「わあ!」


それは素直に嬉しい。

しかし同時にハッとした。


「でも私、お金持ってない…」


「え?コウハは私達の誰よりも…ああ、そうか」


ぽんと手を打って、アリスタは私の手を引く。


「お金は預けてあるんだった」


「預ける?誰に??」


「銀行商のところさ、私達は多過ぎる報酬を貰う事が多いから。

そう言った場合の預ける場所の事を言うんだ」


それって銀行と変わらない気がする。


「でもそれって、コウハのお金でしょ?」


「ああ、君もコウハだろう?」


そう言ってアリスタはにやりと笑った。


みんな、イマイチ私の事を分かりすぎている気がする。

記憶の中のみんなはもっと、コウハに頼っていて、信頼していて…仲間って感じが強かった。


今は私がこんなだから、助けてもらってばかりだけど……コウハはやっぱり、強い女の子だったんだなと思い知る事になった。

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