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ジンダイ  作者: 吉田 将
第四章 万神アラハバキ
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難所越え

 川の中から顔を出す岩々……それが意味することは川底に大岩があるということ。

 そして、同時に岩の頭が割く川の流れはその部分が急な流れと化す。

 つまり、流れに引き寄せられずに岩にぶつからず、通過する必要がある。

 けれども、コウの目先にある岩々は乱雑に散らばっており、一列に並んでいるような規則正しいものは一つも無かった。


「……よし!」


 コウは気合いを入れて両手を叩き、決意の柏手かしわでを行うと突き進む岩の正面に回り、回転する黒岩を制するように両手を触れた。

 そして、後方の顔を出す岩の位置を確認しながら、岩を押さえる力を加減する。

 川面から出る岩の傍を通る時は力を入れてゆっくりと、過ぎた時は流れに呑まれないよう緩めて素早く……しかし、油断はせず慎重に岩を誘導する。

 そうして、ようやく岩の軍を抜けた後……コウは一つ息を吐いて、静かに黒岩から手を離した。

 一つの山場を抜け、黒岩はゆっくりと進む。

 だが、その身は半分水に浸かっていた。


「……休む間もないな」


 呟くコウも川底を踏みしめながら何かを確認するようにゆっくり進む。

 岩が半分水に浸かったのは削れたからではなく、川の水が深くなった為であった。

 その為、コウも先程までは膝下ほど水に浸かっていたが、今は腰ほどまでに浸かっている。

 だが、コウよりも大きい黒岩がなぜ彼よりも広く水に浸かっているのか……その原因は水の底にあった。

 さっきまでは川底には細かい石などがあり、そこそこの固さがあったのだが、今の川底はそのような石がほとんどなくほとんど砂と泥に近い状態であった。

 そうなると重い黒岩は当然のようにその身を底にめり込ませる。

 川は瀬からふちへと難所を変えたのだ。

 けれども、コウは魚の神……川はおろか湖沼や河口のそういった特性は熟知していた。

 瀬から淵へ移動する時、その深みにはまり溺れることも少なくない。ましてや、底にはまり抜け出せなくなることも然りだ。

 だが、そんな淵でも利点はある。

 それは水の力で物を運ぶことが出来る所だ。

 うまく使えば重いものだって容易く運ぶことが出来る。

 現在、岩はゆっくりと底の砂泥を掴みながら順調に進んでいた。

 だが、そんな中……岩の少し先を進んでいたコウの足が突如として深く底に沈み、水は胸元まで浸かる。


「もう来たか! ネネ、大丈夫か!?」


「は、はい!」


 神衣の袖に隠れていたネネはコウの腕を伝い、肩から頭の上まで何とか上ってくる。

 コウはネネの無事を確認しつつ、岩の前に移動すると眼の色を蒼く変えて紡糸を両手から出し、黒岩にくくりつけて川底から僅かに浮かせる。

 そして、黒岩を引っ張るようにし泳ぎ始めた。

 底にいささかついてしまう分は仕方ない。

 問題は完全に黒岩が底に呑まれることであった。

 コウの身体が急に深く沈んだ場所は砂泥ではなく、ほとんどが泥の箇所であった。

 砂と泥が入り交じる底はまだ石なども混じる為、そんなに沈まない。

 しかし川の流れの都合上、必ず泥のみや砂のみが溜まる箇所がある。

 二つ目の難所はここであった。

 けれども、こういう箇所は一箇所に集中している場合が多く、そこまで広範囲ではない。

 実際、コウも運んでいる黒岩が三つほどの距離を泳いだだけでその泥の底は終わった。

 そんな淵越えをなんとかこなし、暫く泳いでいるとコウは急に引っ張っている黒岩が重くなるのを感じた。

 背後の黒岩に目を凝らすと岩は川底についている。

 再び浅くなってきたようだ。

 そうして、気がつくとコウは見覚えのある景色に辿りついた。


「天安河原……なんとか辿り着くことが出来たな」


 ホッと息を吐き、水中で紡糸を引っ張りながら黒岩を浅瀬に誘導する。

 そうして、黒岩が動かなくほど弱い流れに差し掛かったところでコウは眼を蒼から黒へ戻し、紡糸を消して近くの河原の石に座り込んだ。

 一休みしながら空を見上げる。

 アマテラスから頼まれ、イシコリドメから頼まれ、川を上り、タマノオヤに出会い、金床となる岩と翡翠の原石を見つけ、岩を天安河原まで運ぶ。

 ここまでで一日の半分以上を使っている。

 使いを頼んだ筈のアマテラスは恐らくなぜここまで遅いのか、と不思議に思っているに違いない。

 何とか、日が暮れる前にイシコリドメにこの岩を渡し、早くアマテラスの所に戻らなくてはならない。


「……なかなか忙しいな」


「大丈夫ですか?」


「あぁ、大丈夫だ」


「アラハバキさ~ん!」


 心配するネネを安心させるように応えるコウの耳にタマノオヤの声が聞こえてきた。

 彼は両手で翡翠の原石を持ち、ヨタヨタと歩いてくる。

 そんな彼に対し、コウは手を振って無言で応えた。


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