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ブランジア人魔戦記  作者: 長村
chapter,02
31/104

ep,030 リトーラ鉱山跡攻略作戦

 リトーラ鉱山跡攻略作戦は続く。

 ブロウブ大隊では、ロックス・バネン中隊長が、自らの率いる第1小隊と、ダイノ・マクザス率いる第2小隊で共闘し、5番坑道を進んでいた。

 道中で既にかなりの数の魔族と交戦していた。……これは『当たり』かもしれない。

「……あれですかね」

「ですな」

 坑道の途中、あちこちに伸びていた樹の根のようなものを辿っていった先に、ようやく本体を発見する。……魔族、『ウインドウッド』。

 地面に根を伸ばし養分を吸収、花粉に変換してばらまくことで周囲の生き物に分け与える精霊、『サプライウッド』が魔族と化したものである。

 壁に沿うように、小規模ながら樹が生えている。陽の差さない場所であっても『ウインドウッド』は根を伸ばし、幹を太らせ、花を咲かせていた。

 ロックス達に気付いた『ウインドウッド』は、花を揺らし、周囲に花粉を漂わせる。そして魔力で風を起こし、それを飛ばしてきた。

「防御魔法を!」

 指示に合わせ、ロックスの小隊の白魔導師が風を防ぐために防御魔法を展開する。坑道は狭くこのような攻撃は回避がほぼ不可能だが、坑道をまるごと塞ぐように結界を展開すれば、防御は簡単である。

「続いて浄化!」

 今度は毒の浄化魔法を発動する。魔族と化した『サプライウッド』の花粉は、養分を分け与えるのではなく、有害な毒を撒き散らすのだ。

 情報は無かったが、危険を感じたロックスは勘に任せて指示を出し、それを的中させた。

「っし。じゃ今度は俺が!」

「あ! ちょ……!」

 毒の浄化を確認して、ダイノが戦斧を手に結界を駆け抜け、すれ違い様に幹を叩き斬る。

 養分の補給口を断たれて、『ウインドウッド』はみるみる内に腐り果てていくのだった。


「無茶しないでくださいよ……!」

「いや、さっき浄化したじゃないっすか」

「確認取ってなかったですよ!」

「こりゃ失敬」

 ダイノは一応目上の存在であるロックスにも軽い調子で接する。

「……はあ。残った花粉を採取して、調査を」

「はい」

 ロックスは自分の小隊の薬師術師に命令する。

 ダイノの小隊員は近接戦の腕こそ立つが、騎士の称号を持たない徴兵により集められた者ばかり。……平たく言えば学の無い体力バカばかりなので、魔法や薬師術の心得はまるで無い。そういう所は別の隊に任せる必要があるのだ。

「やはり毒のようです。効果は低い物のようですが、この狭い空間では十分に危険となり得ます」

「そうか、ありがとう」

「……中隊長さんよ。こりゃ大隊長に連絡した方が良い。通信石を使おう」

「……そうですね。他の部隊が気付かずに浴びたら危険だ」

 ロックスは懐から青色に光る小石を2個取り出した。『通信石』と名付けられたその石は、あらかじめ魔力を流し込んだ上でそれを2つに割り、その片方の石に同じ魔力を込めながら喋ると、もう片方の石からその声が発せられるという魔法道具だ。

 便利な代物だが、数回で効力を無くしただの石になってしまうこと。精製に時間がかかるので数を作れないこと。それでいて2つに割った石はそれぞれが送信、受信に対応するため、双方向通信を行うには石が2セット必要になること等、デメリットも多いことから実際に使われることは少ない。

「ブロウブ大隊長。こちらはバネン中隊所属第1、第2小隊です」

『……どうした』

 ロックスが魔力を石に込めながら話すと、もう片方の石から大隊長ブレアスの声が聞こえてくる。

「ブレアス。俺だ。毒を撒いてくる魔族がいる。他の隊にも注意するよう伝えてくれ」

「あ、ちょ……!」

『了解した。耐毒効果のある装備を持った隊と、防御魔法を使える者がいる隊以外は後退させ、装備を整えた隊を侵入させる』

「おう、頼むぜい」

『では、接続を切る。武運を』

「あ、ちょ、大隊長!? ……ああもう」

 勝手に横から割り込まれて話を進められ、結局自分は何も言わずに接続を切られるという散々な目に遭い、ロックスはため息を吐く。

「マクザスさん、あなたがブレアス大隊長と『親友』とまで呼ばれるようなご関係であることは知っていますが……、その、もうちょっと言葉遣いをですね……。あと自分のことも無視しないでいただけると。中隊長だし、騎士だし」

「はっはっは。こりゃ失礼をば」

 ロックスの苦言をダイノは笑い飛ばした。

(反省してねえなこれ……)


 先の戦争において、まだブレアスが中隊長であった頃。ダイノ・マクザスは彼の指揮する小隊で活躍していた。

 若くして隊長を務める名家出身の騎士であるブレアスと、15も年上の部下である平民出身のダイノはお互いに反発しあっていた。

 だが共に戦場を駆ける内に、2人の間には友情が芽生えていった。家柄も年齢も越えて対等な親友となった2人は、ブレアスが出世し、ダイノの直接の上司で無くなって、顔を会わせることも少なくなった今でもその関係は続いていた。

 多くの艱難辛苦を共に乗り越えた者達であったが、それはまた別のお話である。


「じゃ、そろそろ進みましょうや」

「第1小隊が前を進みます。良いですね」

「はっはは。お任せしましょう」

「……。皆、行くよ」

 ロックスは色々と言いたいことを我慢して、自分の小隊を率いて坑道をさらに進む。

 ダイノがこういう大雑把な性格なのは、大隊長との縁があるからではなく、たぶん元々こうなのだろう。そう思わないとやっていられなかった。

「おーし。俺らは中隊長殿の後ろをお守りするぞ」

「オオッ!」

 第2小隊は呑気に声を上げて、しっかりと後方に気を払いながら第1小隊に続いていく。


   ※


 ルーシェは自らの小隊を率いて、魔族を蹴散らしながら坑道を進んでいく。その後ろには緊張感の無さそうなアルテーナが続いていた。口笛まで吹いている。

 先程ブレアスから通信があったように、毒をばらまく魔族とも出くわしたが、これは隊員の防御魔法で問題無く対処できた。

 そのまま調子良く進んでいくと、やがて大きな開けた空間にたどり着いた。

「ここは……?」

 どうも坑道を開発して出来た場所には見えない。天井も明かりが届かないほどに高く、人間が掘った穴とは思えない。自然にこの場所は出来ていたのだろうか。

「……警戒は怠るな」

「了解です!」

 周囲の気配を探ってみるが、この近くからは何も感じない。

 ……3つもの大隊、リヨールの警護に残した人員を引けば2と3分の1大隊を動員した総攻撃作戦。それにしてはこれまで遭遇した敵の数は少ない。どこかにまだ隠れているはずなのだ。それも相当な数が。

 魔族の基本習性から考えればおかしくはないが、そろそろその隠れ潜んでいる連中に当たっても良い頃だ。

 周囲を歩き回りながら考えていると、足元に若干の違和感を覚えた。

「……?」

 土の感触が若干柔らかい。まさかこれは。

「おい、ちょっとここの地面を見てくれ」

「はい!」

 薬師術師を呼んで調べさせようとする。だが調べるまでもなく軽く土を触っただけで確信できたようだ。

「1度掘って埋め直した土ですね。それも比較的最近。……残存魔力反応、ありです。ちょっと掘り返して見ましょうか」

「ああ、頼む」

 と、手を着けようとしたその時、地面の下から地響きが鳴った。

「!」

 ルーシェは素早く危険を察知し、その薬師術師を抱えてその場から飛び去る。

「ひゃ、たいちょ……!」

「……!」

 先程まで立っていた柔らかい土が、渦を巻いて沈んでいく。そのままどんどん土は沈んでいき、やがて大きな穴が開いた。

「……来るぞ!」

 穴の下から大きな魔力の気配を感じる。それはどんどんと上ってくる。次第に地響きも大きくなり、その正体を現した。

「こいつは……!?」

 大穴から突き出るように頭を出したそれは、一見すればモグラのようであった。しかしこんなに巨大なモグラ等は存在しないはずだ。


 この戦いの後に、『ギガンティックモール』と名付けられたその巨大モグラは、今までは魔族が魔導エネルギーを魔法に近い形で発現させていたのに対し、『ギガンティックモール』は自身の肉体を変質、巨大化させるという方向に転化させたものであった。

 ……また新たに今までに無いタイプの魔族が確認された事例である。


 警戒するルーシェの横をアルテーナが駆け抜けていく。

「!?」

 『ギガンティックモール』が反応する間も無く剣を抜き、閃光ひらめく無数の斬撃を一瞬の内に与える。

 聖剣技、『閃光斬撃陣』。光の発する熱を伴った斬撃を四方八方から浴びせる技だ。

 身体中に、次々に深い傷を受け大量出血した『ギガンティックモール』は、顔を出してから何かをする間もなく、悶絶しやがて絶命した。

「……ごめん。あまりにも気持ち悪かったもので、つい」

 剣を納めたアルテーナは、本当に嫌そうな、真剣な面持ちでぼそりと呟いた。

 ルーシェの目算ではあの巨大モグラは、巨大化したことによる体毛と分厚い肉の鎧でろくに攻撃は届かないだろうと思っていた。狙うならば比較的防御が甘い目だろうか等と作戦を考えていた所に、これである。

 ……大隊長アルテーナ。これほどとは。

「あ、」

 絶命した『ギガンティックモール』は体から魔導エネルギーを失って、元の姿、普通の大きさのモグラに戻っていく。大きい時は丁度穴にはまるサイズだったが、小さくなったことで穴から落ちてしまった。

 アルテーナはその穴を覗き込む。ルーシェとその隊員もそれに倣った。

「この奥からいっぱい魔族の気配を感じるねえ。どうしようか」

「恐らく鉱山内に確認された魔族は、ほとんどこの中にいるのでしょう。……問題は、この穴がどこに続いているか」

「街の地下だったら笑えないな」

「……ですね」

 その時、この空間に別の人間の気配が近付いてきた。

「おー? なんだこりゃ」

 5番坑道を進んできた、ロックス、マクザス小隊だった。

「親玉がいると思ったんだがなあ、はずれか?」

「あ、ルーシェ殿。……それに、エルメティオ大隊長。こんな所で会うとは」

「君か。……別の坑道からもここに繋がっていたのか」

 どうやらこの空間は複数の坑道から到達できる場所らしい。

 ロックスは軽く周辺を見渡して質問する。

「この広場について、何かわかってます?」

「いや。……地下からこの穴を開けて魔族が現れたくらいだ。中にも結構な数の気配がある」

「はあ、ここから……」

 ロックス達も穴の中を覗き込んだ。

「よし。潜るか」

 と、アルテーナが提案した。

「危険ですよ。何があるかわかりません」

「危険が怖くて騎士団は務まらないよ。もちろん最低限の支度はするさ。その辺にしっかり杭を打ち付けて、命綱の準備をお願い。あと発光魔法を穴の中に打ち込んでくれる?」

「……言う通りにしてくれ」

「あ、はい!」

 アルテーナは勝手にルーシェの部下に指示を出す。ルーシェも逆らうのは諦め、言う通りにさせる。

「中隊長さんよ。我々も行こうぜ」

「うーん……。そうですね、皆で行った方が良いでしょう」

 ロックスの小隊も穴に潜る準備を進めるのだった。


   ※


 発光魔法で穴の中を照らして深さを測る。それに合わせて縄を用意。体と杭を結び付けて、穴の壁を伝いながらどんどん降りて行く。アルテーナ以外に、3つの小隊から隊長を含め4人ずつ。計13人が穴の中に降り、残り12人は穴の上で待機する。

 10メートルほど降りると、穴は垂直から水平に曲がり、トンネルを歩いて進めるようになる。カンテラに火を灯して周囲を照らし様子を見る。ここからあちこちに大小様々な大きさの穴が開けられトンネルが続いている。

 その中の1つ、もっとも大きい穴の方向から獣の足音が響いた。灯りを向けると、こちらに駆けてくる魔族の姿が見えた。

「!」

 アルテーナは突然の襲撃にも動じず、早足でと前進しながら素早く剣を抜き、これを斬り捨てた。ダイノがその鮮やかな動作に口笛を鳴らす。

「こりゃ結構来そうだねえ。ちょっときつそうだけど、みんな大丈夫かな?」

 更なる雄叫びと足音が遠くから反響して響いてくる。無数の魔族がこの狭いトンネルの向こうから襲いかかってくるのだ。

「まあ、なんとかしますよ。……魔法隊、トンネルを崩さないよう、使う魔法は選べよ」

「了解!」

 ルーシェとその隊員が冷静に対応する。

「どうにもならなかったら、その時はその時っすな! ……じゃ行くぞお前らッ!」

「オオッ!」

 ダイノとその隊員が叫び、武器を掲げる。

「僕達は……、ほどほどに頑張ろうか」

「……そうですね」

 ロックスとその隊員は落ち着いた様子で待ち構える。

 いずれも様子は違えど、目の前の敵に立ち向かう心は同じに、彼らは武器を構えた。


   ※


 そして夕暮れの時間。作戦を終了させた3大隊は、リトーラ鉱山跡近くに設置された夜営場で休憩を行っていた。

「あーちかれた」

 気だるそうに呟いたアルテーナを含む、大隊長の3人が同じテントに集っていた。

 今日の作戦で鉱山外部から観測出来た魔導反応の内、およそ9割弱を討伐出来た。あくまで観測出来た物の内なので、隠れている魔族はもっと多いかもしれない。そのためにまた翌日、鉱山内部の詳細調査を兼ねて掃討作戦を行うことになっていた。

 特に問題なのは鉱山地下から北西方向に伸びていたトンネルだった。ざっと見ただけでもかなりの距離がありそうで、最悪、リヨールどころか王都の地下まで通じてしまっている可能性がある。そうなれば市民の暮らす都市の真下から魔族が襲撃してくる危険があることになる。それは避けなければならない。

 現在はその詳細調査を行うために、少数で部隊を編成し先行して簡易調査を行わせている。その間に他の隊はじっくり休憩を取っている所だ。

「で、実際に見て、あれの様子はどうだった?」

 ブレアスは頼まれていた通り、部下のルーシェをアルテーナの大隊に組み込ませた。そして実際にアルテーナはルーシェのすぐそばで行動し、彼女の様子を観察した。ついでに好き放題暴れまわり、本日の魔族の討伐数でも最大の数値を記録していた。

 トンネルの向こうから襲いかかってくる魔族に対し、アルテーナやルーシェ達は果敢に戦いを挑み、次々に討ち倒していった。アルテーナ以外はあまりの物量に苦戦していたが、なんとか全員無事に帰還している。

「うん。なかなか根性のある子だった。やっぱりうちに欲しいよ。そうなったらまずあの飾り気も糞もないフルアーマーをなんとかさせたいね。赤いのは派手で良いけどメリハリが無いし……」

「お前みたいにチャラチャラしてないからな、あいつは」

「なんだとーう?」

「それに、俺の部下にいることを心地良く感じてしまっているようでな。……いつまでもそうはいかないというのに」

「……ま、なんとか口説いてみるよ」

「ああ」

 そんなブレアスとアルテーナの話を黙って聞いていたグルアーが、イライラしたような口調で聞く。

「それより先行調査隊はまだなのかい? 急いであのトンネルが王都に繋がっていないか調べなければ」

「しつっこいなおまえー。もう5回目だぞそれ」

 しかしアルテーナはそれをばっさりと切り捨てた。何度も聞いてきてさすがにちょっとウザいと思っていた所なのだ。

「む……」

「気持ちはわかるがなグルアー。今日は兵も疲れている。たいして出番の無かったお前と違ってな。念のため王都へ使者も飛ばしている」

「……わかった。私はもう眠る! 明日朝一番に私の隊から調査隊を出させてもらうからな!」

 そう言い放って、グルアーはテントを出ていった。

「自分が出向している間に王都が襲われるかもしれないってのが、我慢ならないんだな」

「……まあ、そんな所だろうな」

 ブレアスとアルテーナは苦笑しあった。

「そろそろお前も休んでおけ」

「いや、その前にもうちょっとルーシェ嬢を口説いてくるよ」

「……熱心だな」

「ぬはは」


   ※


 翌日の詳細調査で、件のトンネルはあの大穴以外にも、鉱山内のあちこちから繋がっていたことがわかった。というか、あそこはかなり特殊なルートで、他の場所からはもっとなだらかな斜面で歩いて侵入出来た。

 やはり鉱山内部に集まった魔族達はこのトンネルを通って、北西へと行こうとしていたらしい。そこにあるのは、王都パラドラ。ブランジア王国の中枢だ。魔族は直接そこを叩こうと言うのか。

 距離があるため、トンネルの出口がどこかはまだ正確には掴めていない。途中で方向が変わる可能性もある。

 大隊長達は会議を行い、地下トンネルはアルテーナ大隊の精鋭部隊に当たらせ、地上からはトンネルのある周辺を残りの部隊とグルアーの大隊で調査し、ブレアスの大隊はリヨールの警護に戻ることに決めた。王都の警護に関しては詳細な報告書を送り、王都に滞在している部隊に任せておくことにする。


 魔族の大規模な行動。それもこちらの裏をかくような真似。

 ブレアスは得体の知れない不安を感じずにはいられなかった。


   ※


 そしてその一方、ショーマ達は、また新たな面倒に巻き込まれることになっていたのだった。

2012年 03月01日

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