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ブランジア人魔戦記  作者: 長村
chapter,02
32/104

ep,031 黒と白の少女

 その日ショーマ達第1小隊に与えられた作戦は、市街の警備任務であった。

 騎士訓練所の訓練の中で、実戦に参加させられることになる場合もあるとは聞かされていた。それ自体はリヨールの学校でも行われたから、納得は行くのだが。……市街の警備とは。

「騎士団の基本的な仕事の1つだよ。いい加減に考えてはいけない」

「わかってるよ。……街の人が安心して暮らせるように頑張らないと、だろ」

「そうそう。……警備任務は、積極的に敵と戦うことは無い。ただ、いつ何が起きるかわからない。常に警戒を怠ってはならない。というのは、思いの外疲れるものだ。地味で退屈で楽な仕事などと思わないようにね。ショーマやセリアにはもう身をもってわかってもらっているだろうけど」

 レウスは集まっている第1小隊のメンバー全員に改めて伝えた。


   ※


 そして任務当日。第1小隊に割り当てられたのは北東区画10の2地区。繁華街の外れの方である。人通りも少なく、もしここが襲われても市民への被害は少ない。まだ見習いの騎士候補生達には、責任の小さい場所を割り当てているわけだ。

 その代わり、以前のように随伴してくれる腕利きの騎士はいない。隣の地区を担当しているのが現役騎士で、こちらに万が一のことがあっても、市街中心部への被害は防いでくれるのは確実。というのが精々である。

 注意を払うべきは魔族だけとは限らない。警備の目的は治安維持。犯罪行為を行う人間を取り締まったり、困っている人を助けるのも仕事の内である。


 とは言え。

「やっぱ暇だな」

 第1小隊の8人はほどほどに距離を取って、街の様子を見守っている。朝の0800時から警備を開始し、1400時まで休憩無しで行う予定である。昼食はその後だ。

 ……ショーマの耳にも、先日のリトーラ鉱山跡攻略作戦の噂は入っている。作戦結果自体は新聞記事にもなっていた。しかし噂で流れる、魔族が地下にトンネルを掘って、王都へ奇襲をかけようとしているかもしれない。というのは少し眉唾物だ。

 魔族を甘く見るという訳では無いが、さすがに荒唐無稽すぎやしないかと思う。リヨールからパラドラまでは、整備された道路を行っても半日前後の時間がかかるほどである。集団ならもっとだ。

 そもそも問題は移動時間ではなく、それだけかかる距離の地中を掘る、という所だ。廃棄されて結構経つ鉱山跡を隠れ蓑にしたとは言え、手間がかかりすぎる。結局存在は露呈し、恐らくは侵攻部隊だった魔族のほとんどは討伐されてしまった始末だ。

 ……魔族というのは意外と頭を使っているようで、決定的にどこか抜けている。そんな気がした。

 まあ、何にせよ魔族がこの街に奇襲を仕掛けてくる可能性があるというのは変わらない。それに備えての警護任務なのだろう。

「平和そうなんだけどな……」

 しかし街中の様子は、実に落ち着いたものだった。


 退屈と緊張の入り交じる時間は着実に過ぎていき、そろそろお腹の空く頃。今の所異常は無い。と思っていたら、

「おにいさん」

「!」

 突然の呼び掛けにショーマは振り向く。

 狭い路地にひっそりと現れた、黒いローブの人間がそこにいた。

 ……いや、それは本当に人間なのだろうか。

 その黒いローブの者からは、かつてリヨールで感じた魔導と同じ気配が感じられたのだ。

 あの襲撃者、なのだろうか。

 しかし、それにしてはどうにも敵意を感じない。むしろ親しみすら感じる。それは何となく見覚えのあるような、その全身真っ黒な姿と、……特に印象的な、背の低さによるものでは無いかと思う。

「……お腹が、空いちゃいまして」

 彼女は再び声を発する。そう。それは少女の声だった。鈴の音にも似た、可愛らしさすら感じるその声は、あの時感じた重圧とは似ても似つかない。

 ……リヨールに襲撃し、ショーマ達の前に立ちはだかった魔族『ファイアウェアウルフ』。レウスにも手痛い一撃を与えたそいつを、3体まとめて斬り捨てた黒い剣士、……名も顔も知らない、教会騎士。

 彼女が今、ショーマを付け狙っていた者と同じ魔導を纏い、再びこのパラドラの地でショーマの前に姿を現した。

「……美味しそうな匂いがすると思ったら、やっぱりあなたでした」

 ……美味しそうな、匂い。

 黒い少女のフードの下に隠れた顔を見る。どこか虚ろな、大きな紫の瞳と、その瞳にかかる真っ白な髪が覗く。

 かしゃり、と金属のかすれる音を上げて、彼女は一歩を踏み出す。ローブの下には鎧を着込んでいるようだ。あの時の大きな剣は見当たらないが、それでもナイフの1本でも仕込んであれば、ショーマを突き刺すのは簡単だろう。

 親しみの感じられる雰囲気を持ちながらも、どこか不気味な容姿と言動。どちらを信じれば良いのかわからない。

(そうだ、誰か呼ばなきゃ……)

 近くに仲間がいるはずだ。自分1人で判断出来ないなら、誰かを頼れば良い。

 しかし不思議とショーマは声を出すことが出来なかった。同じように、視線を逸らすことも出来ない。

「……ッ」

 冷や汗が背中を伝っていく。

「ちょっとだけで良いですから……、頂いちゃっても、良いですか……ってぶぎゃ!」

 少女は囁くような声量で脅迫じみたことを喋った。と思ったら突然間抜けな声を上げて、その場にすっ転んだ。がしゃりと鎧が大きな音を立てる。

「!?」

「そこまでだ」

「……バムス!」

 気配も無く少女の背後に現れたバムスが、素早く足を払い転倒させ、背中に跨がり両腕をがっちりと極めていた。

「この男に何の用がある? 頂くとはどういう意味だ?」

「あーごめんなさいごめんなさい! 実験動物にされるのはいやー!」

 バムスは騒ぎ立てる少女の被っているフードを剥ぎ取る。少し長めの白い髪が広がり、あどけない顔立ちの素顔が晒される。

「どうした! 何があった!?」

 騒ぎを聞き付けてレウス達もやって来る。

「不審人物を捕らえた。こいつに何かするつもりだったようだ」

「あひー!」

 レウスは彼女の発する気配を感じて、その正体に察しを付ける。

「その子は……」

「レウス、この子ってやっぱりもしかしてさ……」

「あん?」


 後ろ手に両手を縛られた黒い少女は、ショーマ、バムス、レウスに囲まれ事情を聞かされていた。残りの5人は戻って警備を続けている。

「うう、騎士団に突き出すのは勘弁してください……。お願いですから……」

 少女は半泣きで訴えていた。12、13歳くらいに見える少女にこんな風に泣かれたら、情に流されそうにもなる。が、

「そう言うわけにもいかないんだよ。悪いことをしたらちゃんと決められた通り罰を受けないと。そんな簡単に見逃してもらえないから、みんな真面目に生きているんだから。

 それに、実害があったわけじゃないし、詰所で聴取を受けてもすぐに帰らせてもらえるだろうからさ」

 レウスはこんこんと諭して、なだめつかせようとする。

「違うんですよお……。騎士団は困るんです……」

 少女には何か別の理由があって拒んでいるようだった。

「……君が教会の人間だから?」

「え、なんでそれを……。ってああローブか……。じゃなくて」

「くだらん。どうせあること無いこと吹聴してなんとか逃げ出すつもりだろう。さっさとしょっぴいてやれ」

「ひいっ」

「ちょっと落ち着けって。何か言い分があるみたいだし、せめて聞いてあげてからにしようぜ」

「……フン」

 バムスもそんなつもりで言ったのではなく、脅しのつもりだったのか、すぐに引いてくれた。

「あ、ありがとうございます……」

「それで、どうして騎士団に連れていかれると困るんだい?」

 それを聞かれた黒い少女は、真面目な顔つきで答えた。


「私、体の半分が魔族なんです!」


「よし、連れてくぞ」

「あー!」

「だから待てっての……」

「本当でも嘘でもこんなこと言う奴をここに置いておけるか」

「い、いや、もうちょっと……。な?

 ……は、半分って、どういう意味なんだ?」

 ショーマはバムスをなだめながら少女に問いかける。

「だから、その。私は人間の父親と、魔族の母親の間に生まれた子、なんです」

「そんなことが……」

 レウスは少々信じがたいという様子である。

「あれです、サキュバスって奴らしいです。人間の男の精を吸って生きるとか言う。私はその子供なんだって、だんちょーさんが言ってました」

「サキュバスは子供なんか産まないと聞くが……?」

「産むそうですよ。希にですけど。人間の男を愛してしまうと、子を産めるように体が変質する代わりに、ずっと若いままの体でもいられなくなるどころかすごい早さで老化するそうです。同族を裏切らないための呪いらしいですけど、詳しいことは知りません」

「……教会で習った知識かい? それは」

「はい。神父さんが私の特性に気付いて、本当は秘密なんだけどって言って開けてくれた書庫にあった本に書いてありました」

「君の特性というのは?」

「はい。……他人の魔導力の吸収、って言うのが。お腹が空いちゃうと無意識の内にやっちゃうみたいです。そのせいで教会からも追い出されちゃいまして」

「……その特性は意識して使ったり使わなかったり出来るかい?」

「ある程度は意識して我慢出来ますけど……。激しい運動の後とかは、ちょっと」

「今出来るかい?」

「出来ますけどやって良いんですか?」

「いや、困る。……僕にだけ狙いは絞れるかい?」

「……んん、手で触っていれば」

「じゃあ、ちょっとやってみてくれ」

 レウスが彼女の後ろに回り、縛られた手に触れる。

「ほんとに良いんですか?」

「君の発言に確証を持たせるためだよ」

「はあ。じゃいきますよ」

「ああ。……ッ!?」

 レウスは彼女の言葉に頷いてほんの数秒で、顔を苦痛に歪めその場に膝をついた。手もすぐに離してしまう。

「大丈夫か!」

「貴様……!」

「いや、いい、よせ。……これは、中々強烈だね」

「すいません、力加減が……。触らないで吸収する時はちょっとずつ出来るんですけど」

「ああ。よくわかった。これなら、彼女の話は真実と認めて良いかもね。……ちょっと詳しく話を聞く必要がありそうだ。とは言え、ここは良くない」

「……やっぱり騎士団に連れていかれちゃいますか私?」

「……騎士団に連れていったら、話はしないという約束を交わさないか?」

「はい?」

「僕達は君から魔族に関して有益な情報を聞き出したい。しかし君から提示された条件として、騎士団の詰所には連れていかない。という取引を交わすんだ。それなら僕達も君を無理に騎士団に連れていかなきゃいけない義務から逃れられる」

「そんなことする必要あるのか? このクソガキ、逃げるためにデタラメを言ってるんじゃないのか」

「いやまあ、実際すごく嫌がっているし。……それに彼を付け狙っていたのも気になる。例え彼女の言っていることがデタラメで、本当の狙いが彼なら、むしろこれは良い拾い物だ」

「……チッ。わかったよ。ならどこに連れていくと言うのだ?」

「僕の家には牢屋があるから、そこで良いだろう」

「牢屋!?」

 少女は単語から連想される自分の行く末を想像して顔を青ざめさせる。

「……温かい食事も毛布も出すよ。実験動物にもしない」

「……本当ですか?」

「ああ、約束しよう。その代わり君も、君の知っていることは全部話してもらう。良いね」

「……そっちのおにいさんも一緒ですか?」

「え、俺? ……ああ、一緒だけど」

「じゃあ、行きます……」

 少女は不安そうにしつつも、ショーマが同行すると知ると同意してくれた。


   ※


 他のメンバーにもかいつまんで事情を話し、ショーマとレウスの2人で少女を連行する。任務の時間は終わっていないが、事情が事情だ。

 途中で公共の馬車を拾い、ブロウブ邸に急ぐ。それにあまり人目につかないようにしたかった。座席のカーテンも閉めておく。少女は外の様子が気になっているようだが、開けてあげるわけにもいかない。

(魔族と人間の子供、か……)

 しかし、随分と唐突に変な所から変な物が出てきたものだと思う。

 ……偶然、では無いのだろうか。

 彼女の言葉で何か今後に繋がるような情報は得られるのだろうか。全てはブロウブ邸に到着してから、だろう。

「そう言えば、君、名前は?」

「……ステア、です。名字は知らないので教会から、ヴァンデナって言う姓を名乗ることを許してもらってました」


   ※


 門を抜けて、屋敷の正面玄関ではなく裏手に回り、少々古ぼけた扉を開ける。そこから階段を下っていくと、薄暗い牢屋に辿り着く。

「うえ、ここに閉じ込められちゃうんですか私」

「我慢してくれ。必要な物は用意してあげるから。……だいたい、君は暴行未遂の罪を働いたわけだからね。特別な事情があるからこうしているが、贅沢を言える立場じゃないんだよ?」

「ひいっ、すいませんすいません」

「……まったく」

 レウスは壁にかけてあった鍵を取り、そこに書かれた番号の牢にステアを連れていく。

「これで私も獄中生活ってやつです……」

「なんか余裕そうだな」

「ひどい!」

「ちょっと君、悪いけど上に行って毛布とパンを貰ってきてくれ。この子の分だ。僕は見張っているから」

「ん、俺? まあ、良いけど」

 レウスがショーマに指示を出した。

 ステアは牢の内部を見渡す。

「水道がありますけどちゃんとお水は出るんですか?」

「出るよ」

「おトイレもありますけどカーテンとかは無いんですかね?」

「他の囚人とかはいないから気にしないで使ってくれ」

「うう……」

「……君も、見てないで行ってきてくれ」

「ああ、ごめん……」


 ショーマは屋敷にいたメイドに、事情は伏せながら毛布とパンを用意してもらう。その様子に気付いたリノンが近寄って声をかけてきた。

「ショーマさん、もう任務は終わったんですか?」

「ああいや、ちょっと用事があって一時的に戻ってきただけですよ」

「そうなんですか……」

 ショーマは適当にごまかす。元教会騎士で人間と魔族の間の子の少女を、特殊な取引で牢屋に連れ込んだ。なんてどう話せと言うのか。

 そうこうしている内に毛布とパンが用意された。ショーマはそれを抱えて牢屋に戻る。

「それじゃあ、また後で」

「あ、はい。行ってらっしゃいませ」


   ※


 ステアは牢屋の中で、ショーマの持ってきた毛布を敷いてそこに大人しく座っていた。

「僕達はまだ任務があるから戻らないといけないんだが……、その前に1つだけ聞いて良いかな」

「なんでしょう?」

「なぜ彼を狙った? 今日だけじゃないよね」

 いつぞやリヨールで気配を感じたが逃げられた時。それから、魔族襲撃の日に現れた時。

「……美味しそうな、匂いがしたんです。それでつい、ふらふら……、っと」

「匂いとは、どういうものだ? 君の特性に関係あることかい?」

「ありますあります。いわゆる魔導力の匂いです。普通の人には感じられないと思うんですけど」

「彼に対してその特性を発動させるつもりだったのかい?」

「ええ、まあ。……良くないな、とは思ってたんですけど、あまりにも良い匂いなもので」

「リヨールでの時もそうなのかい?」

「あ、そうですそうです。

 ……あの夜は、教会騎士の皆でこっそり王立騎士団に見つからないように、街の様子を見てこいって話で、私も見てたんですけど……。あの美味しそうな人が危ないなーって思ってたら、つい魔族に斬りかかっちゃってて。

 で、後でめっちゃ怒られました。その時、疲れちゃったんでつい騎士の仲間からまた吸っちゃったら、今度は私のことも魔族呼ばわりし始めて」

「ん? 君の特性は仲間の間では周知だったんじゃないのか?」

「いいえ。知ってたのは神父さんと一部の騎士隊長だけです。普段一緒に訓練してる時も、我慢できずにちょっとずつ吸っちゃてたんですけど、訓練の疲労とごっちゃになって気付いてなかったみたいです。それであの日は何もしてないのにやけに疲れるなー、って話になって……」

「それで、普段から魔導エネルギーを吸収してたこともあって、魔族呼ばわりか」

「だんちょーさんもよりによって私のいる前で皆にバラして……。信じてたんですけどねーあの人のこと。

 それで皆揉めちゃって、具合悪くなったって言う人も出てきて、予定していた鉱山攻撃の話も無くなっちゃって。

 私は私で『お前ももう世間に出ても良い頃じゃないか?』なんて言われてお金だけ渡されて、着の身着のまま追い出されちゃいました。良くしてもらってたんですけど、内心ではそうでも無かったみたいですね……」

「……なんか、可哀想だな」

「思い出したらムカついてきました。ちょっと出してもらえませんかね。あいつらぶっ殺してやりたいです」

「駄目だよ」

「ですよねー」

「……その後はリヨール市街を適当にぶらついていたら、たまたま彼を見つけて、という所かな?」

「はい、そうです。あ、そう言えばあなた、あの時私のこと追いかけてきた人ですよね?」

「ああ……。今思い出したのか」

「すいません、そっちのおにいさんしか印象に残ってなくて。

 あ、その何日か後にもたまたま見つけたら、今度は王都に行く。なんて言ってたから、こっそり荷台に紛れて着いてきました。騎士に見つかったら実験動物にされるかもって怖くなったので、途中で下りて適当に逃げてましたけど」

 ショーマにとっては、行軍中に感じた気配の理由が判明した瞬間であった。

「なるほど。それで、彼の美味しそうな匂いとは、彼だけに感じる特別な物なのかい?」

「ええ……、たまに美味しそうな匂いの人はいますけど、おにいさんみたいに我慢出来ずにふらふら近付いちゃう程では無いです。半端無いです」

「わかった。ありがとう。……じゃ、そろそろ行くよ。夜には戻るから、大人しくしていてくれよ?」

「はあ。……あの、本当に私にひどいことしません?」

「ああ。気になる情報も教えてもらえたしね。君が協力してくれる限りは、保証しよう。……だいたい、騎士団はそんな非人道的なことはしないよ」

「じゃ、おとなしくしてます。……おにいさんも、また来てくれます?」

 ステアはショーマにも不安そうな顔を向けた。

「ん? ああ、また来るよ」

「ちょっとだけで良いから、やっぱりおにいさんの魔導力吸ってみたいです。待ってますね」

「ああ……、うん……」

 元教会騎士で、人間の魔導エネルギーを吸収したがる、人間と魔族の間の子の、白髪の少女。高い技量と、重そうな甲冑を纏い巨大な剣を振るう怪力を持つ。

 ステア・ヴァンデナ。

 今更ながら、面倒な子を拾ってしまったんじゃないかと思い始めるショーマであった。


   ※


 ショーマとレウスが立ち去った後。

 ステアは牢の鉄柱を掴んで、その硬さを調べていた。

「ふう……」

 問題は無さそうだと見るや彼女は手を離し、床に敷かれた毛布の上に座り込んで、彼らが持ってきてくれたパンをかじり始めた。

「……おいひい」

 静寂が包む牢の中に、ひっそりと鈴の音のような声が残響した。

2012年 03月01日

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