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魔法百貨堂 ~魔女と魔法使いの弟子~  作者: 野村勇輔
ふたりめ

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19/21

真帆と茜のその後語り

   ***


「結局、あの香水の魔法って、本当に効果あったの?」


 帰宅途中、ヒトミのことを報告しに立ち寄った魔法堂で、あたしは真帆さんに訊ねてみた。


 真帆さんは首を傾げながら、うっすらと笑みを浮かべつつ、

「さぁ、どうでしょう?」


「……なんではっきり答えないのさ」


「かなり薄めてありましたしね~」


「いっそ恋愛の魔法をそのままくれてあげれば良かったんじゃない?」


「う~ん、わたし、その手の魔法はあんまり好きじゃないんですよねぇ」


「というと?」


「人の気持ちを無理やり変えてしまうような魔法って、何か違うような気がしませんか?」


「あ~、まぁ、それは、そうかも?」


「やっぱり、人の心はその人自身のものですから。私が今回さし上げたのは、そんな人の気持ちを後押しするものでしかありません。まさか、茜ちゃんが無理やりあのふたりを引き合わせるとは思っていませんでしたけれど、結果的にうまくいってよかったですね」


「まぁ、ヒトミもあれで自分の気持ちに踏ん切りがついたみたいで良かったよ」


「そうですね。言葉が一番の魔法ですから」


「言葉が?」


「そうです、そうです。どんな気持ちも、言葉にしなければ伝わりません。それに、自分自身もよりその気持ちを自覚することができるでしょう? そういう意味では、言葉というものはある意味で良くも悪くも人を縛る一番の魔法というわけですよ」


 ふうん、と私は納得いくような、いかないような気持で頷いてから、

「でもさ、ヒトミも、あんなに悩むくらいならどっちとも付き合ってみればよかったのに」


「ダメです」

 まさかの即答。

「二兎を追うものは一兎をも得ず、ですよ」


「あぁ、まぁ、たしかにそうかもしれないけどさ」


「そうでなくても、そういう二股とか三股とか、私は許しません」


「いや、真帆さんはそうかも知れないけど……」

 ん? と私は首を傾げる。

「じゃぁ、例えば、シモフツさんが真帆さん以外にも好きな人を――」


「あり得ません」

 またも即答。


「え? いや、もしもの話で」


「あり得ません」


「いや、だから」


「あり得ませんよ、そんなこと。もう十何年も私のことを好きでいるんですから」


「……んん? どういうこった?」


「なにがですか?」


「真帆さんにフラれ続けても、なお真帆さんのことを好きってこと?」


「はい、そうです」


「そこまで好かれてるのにシモフツさんと付き合わないってことは、真帆さん、もしかして誰か他に付き合ってる人がいるの?」


「いませんけど」


「んじゃぁ、なんでシモフツさんの告白を断っちゃうのさ」


「ん~? さぁ、なんででしょうね~?」

 真帆さんはどこか含みを含んだ笑みを浮かべながら首を傾げた。


「あ、何か隠してるでしょ」


「別に、そんなことはありませんよ?」


「じゃぁ、なんで?」


「私は我がままなんです、あの程度の愛では足りません」


「はい?」


「私が欲しいなら、もっともっと私を求めるような熱い愛を見せてもらわないと」


「なんじゃそりゃ。じゃぁ、結局両想いなんじゃん」


「両想いとも違うんですよねぇ」


「じゃぁ、どういう関係?」


「友達以上、恋人未満、夫婦以上?」


「……全然わからん」


 これはからかわれているな、と私は判断してそれ以上はもう聞かないことにした。


 どうせ深追いしたって真帆さんはその本心を見せてなんかくれないだろう。


 なにせ真帆さんは、『イジワル小悪魔年齢不詳お姉さん』なのだから。


 そのとき、店内の柱時計がぼ~ん、ぼ~ん、と静かに鳴った。


「あ! そろそろおばあちゃんのところに行かないと!」


「今日も魔法の修行ですか?」


「うん! ありがとね、真帆さん! また来るよ!」


「はい、いつでもいらしてください。お待ちしていますね」


 そういって、真帆さんはにっこりと微笑んだ。


 たぶん、この優しい微笑みだけは本物なのだと、そんな真帆さんを見てあたしは思った。




*ふたりめ、おしまい*

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