第二部 第3話 授業参観
結子が6年生になり新学期が始まってしばらくした頃。
「パパ、ママ」
結子が夕食後に真面目な声で切り出した。
「どうしたの?」
新凪が尋ねると。
「来月、授業参観があるの」
そう言って、新凪と真人の顔をかわるがわる見比べるようにして。
「パパとママ、来れそう?」
結子はおずおずと尋ねた。
「行けるわよ」
新凪は笑顔で答えた。
真人と暮らし始める前、結子と二人で暮らしていた頃は生活に余裕がなくて、授業参観に行ってあげることができなかった。
それを思い出して、胸が痛んだ。
「私も行きますよ」
真人も優しく微笑んで答えた。
「新凪さん一人だと心配ですから」
真人が真顔でいうが。
「そこかーい!」
結子はすかさずツッコんだ。
参観日当日。
教室の後ろに保護者が並んで立っている。
子どもたちが後ろを伺いながらざわざわしている。
「ねえ、結子のママどの人?」
再び同じクラスになった美穂が聞いてきた。
「あの白いブラウスと小豆色のスカートの」
結子がちらっと見ながら答えた。
「それじゃ、隣で結子のお母さんをしきりに気にしてる人が真人さん?」
美穂が興味津々で尋ねた。
「そう、パパ」
結子は答えて、ちらっと真人を見た。
二人は教室で一際注目を集めていた。
新凪は早くに結子を産んでいるので、他の母親よりも5歳ぐらいは若い。そして、真人はそれよりも7歳も年下。
「ずいぶん若いお父さんね」
保護者の間でひそひそ声が聞こえる。
真人は居心地悪そうにしている。
悪意のない、ただの感想。
だけど。
それでなくても、母親が圧倒的に多い参観に加えて。
結子の実の父ではないと言う事実が居心地の悪さを増幅する。
注目を集めたのは保護者の視線だけではなかった。
「あの人、綺麗じゃね?」
「誰のお母さんだろう?」
男子が新凪を見てコソコソ話している。
でも、新凪は気にしている様子はない。
「はい、席について」
担任の声で授業が始まった。
10分ほどした頃。
「新凪さん、立ちっぱなしですけど大丈夫ですか?」
真人が耳元で囁くように聞いた。
「はい、大丈夫ですよ」
新凪も小声で答える。
「心配性ですね」
クスッと笑って言った。
「だって」
そう言いかけた時、担任がこちらを見ているのに気づいた。
どうやら聞こえていたらしい。
二人は小さく肩をすくめた。
しかし、聞いていたのは担任だけではなかった。
一番前にいる担任に聞こえてたんだから、教室中に聞こえていたんだろう。
「あの人、授業より奥さんの方ばかり気にしてる」
その声にクスクス笑い声が上がる。
「でも優しそう」
「それにしても若いよね」
「結子ちゃんのパパだって」
そんな声とともに。
今度は真人が女子の注目を集める番だった。
そんな中で、結子は得意げな笑みを浮かべていた。
そして。
隣を見ると、なぜか新凪まで鼻高々な表情を浮かべていた。
「はい!みんな、静かにして」
先生は浮ついた空気をピシャリと締めるように。
「授業を続けるわよ」
「パパ、ちゃんと私を見てくれてた?」
帰り道。
口を窄めた結子に追求される。
「うん、ちゃんと見てたよ」
真人は答えたが。
「嘘、ママばっかり見てたくせに」
結子はニヤッと笑った。




