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幕間 監視と回収、そのどちらでもないもの

前書き


今回は幕間です。


本編ではあまり正面から触れていませんが、

この世界の裏側――

「生きる」「死ぬ」がどう扱われているかを、

あえて会話と帳簿だけで描いています。


派手な戦闘も、感情的な悲鳴もありません。

ただ、数字と処理だけが淡々と並ぶ。


ですが、

それこそがこの世界の“普通”です。


この幕間は、

これから始まる修行編、

そして「死」がより身近になる展開への、

小さな助走だと思って読んでいただければと思います。

監視と回収、そのどちらでもないもの


 受付の裏は、表より静かだ。

 人の声も、ゲームの音も、ここまでは届かない。


 イツキは帳簿を開いていた。

 いつものように、軽い指の動きでページをめくる。


 ――ぱら、ぱら。


 数字。

 記号。

 淡々と並ぶ処理の記録。


 ミツキは、その横に立っている。

 紙面を、真正面からは見ない。


挿絵(By みてみん)


 「……今日、多いですね」


 ぽつりと、ミツキが言った。


 「んー?」

 イツキは気のない声で返し、指を止めない。


 「そうでもないよ」

 「昨日よりは少ない」


 その言い方に、意味があることを、ミツキは知っている。


 イツキの指が、一行で止まった。


 《()()():三》

 《()()()()


 その下に、二つの行。


 《()()()()()()

 《()()()()()()()()()()()


 ミツキは、思わず息を飲んだ。


 「……二つ、あるんですね」


 イツキは肩をすくめる。


 「あるよ」

 「前から」


 「回収、って……」


 ミツキが言葉を探している間に、

 背後から、別の声が割り込んだ。


 「()()ってのは、使えるってことじゃ」


 フー子だった。

 いつの間にか、煙管をくわえて立っている。

挿絵(By みてみん)

 「使()()()

 「それは、便利って意味じゃな」


 ミツキは、そっとフー子を見る。


 「……使えない、は?」


 フー子は、少しだけ笑った。


 「()()。あるいは、()()

 「回収する手間すら、惜しいとな」


 イツキが、軽く言う。


 「ま、簡単に言えば」

 「身体ごと持ってかれるか」

 「身体ごと、置いてかれるか」


 「……どちらが」


 ミツキの声は、小さかった。


 「どちらが、いいんですか?」


 一瞬だけ、帳簿をめくる音が止まる。


 イツキは、ほんの一拍考えてから答えた。


 「どっちも、()()じゃ()()()


 フー子が、煙を吐く。


 「回収されりゃ、もう人じゃない」

 「残されりゃ、誰にも拾われん」


 「選べると思うかえ?」


 ミツキは、首を振った。


 「……選べません」


 イツキは、帳簿を閉じる。


 ぱたん、という音が、やけに大きく響いた。


 「だからさ」

 「ここでは、数字だけ見る」


 「顔、思い出したら」

 「仕事、できなくなるから」


 その言葉は、軽い。

 いつもと同じ、イツキの口調。


 けれどミツキは知っている。


 この帳簿の一行一行が、

 昨日まで酒を飲んで、笑って、

 「また明日な」と言っていた誰かの、()()()


 帳簿の端で、表示がひとつ消えた。


 《()()()()


 どこかで、何かが“使われる”。


 それだけのことのように、

 世界は、静かに回っていた。

後書き

――この世界における「生」と「死」について


ここで一度、

この世界の生死の扱いを整理しておきます。


本作の世界では、

「死」はひとつではありません。


■ ダイブ中の生死


ダイブ中に起きる死亡は、

一般的なゲーム的感覚では「失敗」や「リトライ」に近く見えます。


しかし実際には、


ダイブの深度


個体の適合度


管理側から見た価値


によって、扱いが分岐します。


浅いダイブであれば、

意識ログの切断=生還、というケースもあります。


ですが、

深層ダイブ・高負荷状態では、


肉体が戻らない


意識ログが破損する


そもそも「戻す対象」として認識されない


といったことが、普通に起こります。


■ 外(ダイブ外)での死


一方、

ダイブ外――現実に限りなく近い環境での死は、

ほぼ取り返しがつきません。


不毛の大地。

バグ化した存在。

環境そのものが敵となる世界。


ここでの死は、


事故


戦闘


判定ズレ


といった形で、

あっけなく訪れます。


そして多くの場合、

誰もそれを「特別な出来事」とは扱いません。


■ 管理による死(回収/残置)


さらにその上にあるのが、

管理側の判断による死です。


この世界では、


「使える」と判断された個体は回収される


「使えない」と判断された個体は残される


という、二つの結末があります。


回収された場合、

それは「救済」ではありません。


人格や感情を削られ、

AIボディや捨て駒として再利用される可能性があります。


一方、

残された場合は、

ただその場に置き去りにされるだけです。


誰にも拾われず、

誰にも記録されず、

静かに消えていく。


どちらが幸せか――

選べる者はいません。


■ 現実とゲームが、限りなく近いという恐怖


この世界が最も恐ろしいのは、

見た目はゲームなのに、結果は現実であることです。


HUDがあり、

レベルがあり、

クエストがある。


だからこそ、

人は錯覚します。


「これはゲームだ」

「失敗しても、やり直せる」


けれど実際には、

この世界は現実とほとんど同じ重さで、

命を消費します。


ゲームの顔をした現実。

現実の皮をかぶった管理システム。


その狭間で、

人は今日も、

数字として生き、

数字として死んでいます。


この感覚を、

これからマスターは修行を通して、

嫌というほど思い知らされることになります。


次回から、

その「知識」ではなく、

実感としての死が、物語に入り込んできます。


引き続き、お付き合いいただければ幸いです。

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