第33話 おっさん、裁定そのものをズラす ――勝つために、線引きを狂わせる――
今宵、塔の審判が静かに始まる。
ただの判定のはずだったリールに、あり得ない文字が並んだ。
——【例外】。世界のルールが、今この瞬間にバグった。
観測度 99.96%
闘技場の空気が、凍りつく。
巨大スクリーンに浮かぶ文字。
【SYSTEM】
AUTO JUDGEMENT
EXECUTION
99.96 → 100.00
その瞬間。
歓声も、ざわめきも、
まるで世界そのものが息を止めたかのように消えた。
「――先輩!」
ナツが立ち上がる。
ガロが呟く。
「観測100%……削減確定じゃ。」
その他の観客席の白磁冒険者たちが震える。
「も、もう終わりだ……」
「ロスト……」
タニシが小声でいう。
「ひぃ……100%でござるか……」
「こ、これはもう詰み盤面でござるなアニキ……」
ムーニャン「……うるさいアル」
「まだ“確定”してないにゃ。」
コハクが尻尾をぶわっと広げながら、
「ご主人様ぁああああ!?」「い、いま助けに行くでござる!!」
ナツ「コハク! 行っちゃダメっす!」
対峙している神権AIたち《しんけんえーあい》。
アマテラスが脚を組み直す。
「ほらね。秩序は守られる」
ツクヨミは無言。
スサノオは腕を組んだまま。
倫理層の椅子。
ミコトが、微笑む。
「裁定、出るよ?」
闘技場中央。
NO NAME。
マスターは、ゆっくりと息を吐いた。
「いや」
倫理層
固定されたリール。
【削減】
逃げ場はない。
だが。
マスターは押す。
《結果保留》
MP -25
【SYSTEM】
JUDGEMENT:DELAY
空気が、歪む。
「……は?」
ナツが目を見開く。
「裁定を……止めたっス?」
イツキが低く呟く。
「順番が……」
ミツキが続ける。
「狂う」
タニシも驚きを隠せない。
「え……?」
「順番を止めたでござるか……?」
ムーニャン
「違うアル。」
「マスターは順番を“ずらした”にゃ。」
コハク「それ、ず、ずらしたら勝てるでござるか!?」
ムーニャン「なんとも……賭けは、順番で死ぬニャ。」
影層
観測100%。
通常なら即削減。
だが。
ツクヨミは動かない。
「……順番が違う」
倫理層未確定。
削減対象不明。
削減率20%。
だが。
何を削る?
闘技場が静止する。
観客席が、ざわつく。
「削減が……来ない?」
「観測100%だぞ?」
光層
ヘラクレスが立つ。
「順番が壊れたなら」
「今だな」
《観測隠蔽》
TEAM MP -25
【SYSTEM】
OBSERVATION LOCK
観測度:100%(固定)
増えない。
削れない。
動かない。
世界が停止する。
その頃――酒場奥
誰にも見えない場所。
淡い光。
ルステラ。
標準アバター。
瞳が、微かに発光する。
「カンソクド……100%……」
ノイズ。
「キケン……イキチ……」
本来なら。
この観測値は。
彼女をも検閲対象にする閾値。
だが。
【SYSTEM:監視ログ】
対象外ノード:RUST-EXCEPTION
光が迂回する。
ツクヨミが、わずかに視線を向ける。
「……例外ノード」
ルステラは、静かに呟く。
「ジュンバン……ズレテイル」
ほんの一瞬。
カタカナが減る。
「……壊れてる」
倫理層・再始動
保留された裁定が動き出す。
固定1段目:削減。
残り2段。
マスターは選ぶ。
《例外生成》
MP -40
リールがノイズる。
【削減】
【削減】
【例外】
カチリ。
【SYSTEM】
JUDGEMENT ERROR
EXCEPTION ACCEPTED
観客席が爆発する。
「エラー!?」
「裁定エラーですって!?」ミコトが驚く。
削減対象
光が落ちる。
だが。
マスターは消えない。
【削減対象】
優先監視ログ 1件
観測度
100.00 → 98.7%
「下がった……!」
ガロが叫ぶ。
イツキが震える声で言う。
「観測は確定値じゃない……」
ミツキ。
「総量……!」
削れば、減る。
観客席が歓声に変わる。
「生きてる!」
「100%から戻った!」
神権席。
アマテラスが舌打ち。
スサノオが笑う。
ツクヨミは、静かに言う。
「例外が……二つ」
その視線は、闘技場ではなく。
酒場奥。
ルステラへ。
代償
マスターの視界が歪む。
SAN -8
カルマ -1
監視補正 +2
倫理層に表示。
《JUDGEMENT PRIORITY:NO NAME》
ミコトが微笑む。
「順番を壊すのはいいですけれど」
「次は、あなたが一番最初に裁かれますわよ?」
マスターは笑う。
「順番があるなら、崩せるってことだ。」
ロキの声が響く。
「観測は終わりじゃないのよ〜♬◇」
「積み上げるものなら」
「削れる」
酒場奥。
ルステラが、そっと目を閉じる。
「マスター……」
今度は、ほとんど人間の声。
「ワタシは……」
一瞬。
沈黙。
再びAI調。
「ツギモ……カンソクシマス」
だが。
その瞳には、確かに。
意志が宿っていた。
暗転。
■今回の登場人物
・マスター(NO NAME)
観測100%から初めて“観測ログ削減”に成功。
・ルステラ
RUST例外ノードとして観測迂回が発生。上位神権から注視対象に。
・ツクヨミ
例外二重発生を確認。
・ヘラクレス
観測固定で時間を作る。
・ナツ/ガロ/イツキ/ミツキ
観測が絶対ではないことを理解。
■マスター現在ステータス(一般視点)
等級:黒曜
HP:中
MP:残り少
SAN:低下
カルマ:微減
危険度:上昇
観測度:98.7%
所持アイテム:
・ギルドタグ
・コアストーン欠片
・未確定ログ




