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第15話 太陽に目を付けられたおっさん ――神様相手に好かれても怖いだけだ――

前書き


荒野クエスト回です。

「バグだけじゃない魔物」と、「神が奪う」現実を、ちゃんと地面から描く回にしました。



第15話 おじさん、太陽に目を付けられる

〜守っただけなのに、回収対象でした〜


挿絵(By みてみん)


 不毛の大地は、優しくない。

 いや、優しいかどうか以前に、()()()()()()()()()


 砂が乾いているのは当たり前で、風が乾いているのも当たり前で、空気まで「乾いてる」気がする。

 息を吸うたび、喉の奥が紙やすりで削られるみたいに痛い。


「――水、どれくらい残ってる?」


 俺が訊くと、ルステラのHUDが淡々と数字を出した。


『ミズ残量:32% ホキュウ推奨:給水スパン短縮』


「短縮って……もうヤバいんだが」


「――ここではな、ヤバいのが“普通”なんじゃ」

 ガロが、歩きながら言った。声が乾いている。

「ここは、“選ばれなかった者”の土地じゃ。バグにやられるより先に、干上がる」


「選ばれなかった、ねぇ……」


 ―しかし、背中の荷物が重い。

 水は重い。生存に直結するものほど重いって、誰が決めたんだ。

 合成食――薄い板みたいな栄養ブロックを(かじ)ると、味がない。味がないのに、妙に喉が渇く。


「拙者のプロテインシェイクの方が美味でござるよ?」

 タニシが得意げに言った。


「タニシ、黙れッス。お前が一番水飲んでるんスよ!」

「ハイ、黙るでござる……」


 ナツが、前を向いたまま即答した。容赦がない。いつもの彼女ならもう少し余裕があるのだが、

 さすがにこの過酷な環境で、少し精神に来ているらしい。とげとげしい。

 その横で、ネムリは小さく肩をすくめ、黙って水筒を抱えている。いつもより歩幅が小さい。


 そんなとき――

 遠くで、砂が「波打つ」みたいに動いた。

 次の瞬間、砂の中から灰色の影が跳ね上がる。


挿絵(By みてみん)


 砂狼――野生の魔物だ。

 バグモンスターじゃない。だから「変なエラー光」も「HUDノイズ」もない。

 ただ、生きている。だから怖い。


 群れが、何か小さな獲物を押さえつけた。

 音が遅れて届く。噛む音。引き裂く音。


「……あれはバグじゃない」

 ガロが低く言った。

「あれは“生きておる”」


 ナツが唾を飲む。「あんなのに襲われたら…たまったもんじゃないッスよ…」


「バグは壊れとる。じゃが魔物は……世界がまだ“動いとる”証拠じゃ。壊れた世界でも、腹は減る

そういうこっちゃ。」


 タニシが、場の空気を読まずに首を傾げた。


「ドワーフ殿、あれは雌狼でござるな。ヒップラインがなんというかメスのそれですぞ」


「わしは(おとこ)が好みじゃ」


 ……一瞬、風が止まった気がした。

 俺は思わず横を見る。


「――今それ言う?」


「情報共有じゃ」

 ガロは平然としている。


 ネムリが、ちょこんと首を傾げた。


「……おとこのひと、好き?」


「おう」

 ガロは、遠くを見たまま答えた。

「好きだった。あやつは強い男じゃった」


 タニシが、急に真顔になる。


「過去形でござるか?」


 ガロは、砂を踏む音だけをしばらく聞いてから、ぽつりと言った。


「あやつには、そのうち子ができた」


 俺の足が、少しだけ止まりそうになる。

 ネムリが水筒を抱え直す。ナツの顔から笑いが消える。


「血は繋がっとらん。だが、間違いなくわしの子じゃった」


 俺は、喉が鳴るのを感じた。


「……今は?」


「分からん」

 ガロの声は乾いているのに、そこだけ妙に湿っていた。

「消えただけじゃ。あの日――太陽が落ちた」


 太陽が、落ちた。

 比喩のはずなのに、変に現実味がある。俺はそれ以上訊けなかった。


 目的地が見えてきた。

 崩れた高架橋の骨、朽ちた標識。赤い縁取りの中に、かろうじて読める文字。


挿絵(By みてみん)


「止まれ、って……止まれねぇからここまで来たんだよ」

 俺がぼやくと、ナツが乾いた笑いを漏らした。


 その奥に、旧ビーコンの残骸がある。

 黒い柱のような装置が倒れ、砂に半分埋まっている。金属は錆び、配線は干からび、どこもかしこも「終わり」みたいな色をしていた。


「ここが、旧ビーコン跡地……」

 ナツが周囲を警戒しながら言う。


『微弱な残留反応。ケンショウ対象:旧ビーコン基部』

 ルステラのHUDが、淡く点滅した。


 そのときだ。


 ネムリが、足を止めた。

 小さな声が、砂の上に落ちる。


「……あつい」


「え?」

 俺が振り返った瞬間、世界の色が変わった。


 風が止んだ。

 砂狼の群れが遠くで伏せた。

 上空を回っていた飛行魔物が、翼を畳んだまま――落ちた。音もなく。


 空が、薄くなる。

 夕暮れのはずの空が、上から押し潰されるみたいに、真昼へ書き換わる。


 影が、消える。


 いや、正確には――ネムリの影だけが、二重になった。


挿絵(By みてみん)


 影が二つ。

 片方は普通の影。

 もう片方は、細い線で描かれたみたいな、幾何学の影。


 ルステラのHUDが一段明るくなる。


『適合判定:強制実行中 対象:ネムリ 判定種別:神権付与候補』


 俺の背中に冷たい汗が走った。


「……ガロさん」

 ナツが掠れ声で呼ぶ。


 ガロは、もう理解している顔だった。

 そして、震えていた。


「……ヤツが来るぞ」


 光が、落ちた。


 まず、光柱。

 次に、砂が溶ける匂い。

 地面に幾何学模様が焼き付く。円環、直線、規則的な文字列――読めないのに「読める気がする」記号。


 そして、光の中に“巨大な輪郭”が立った。

 神話の壁画みたいな、太陽のシルエット。顔のない太陽。

 それが、縮退して――少女の形に落ちる。


 少女は、砂の上に立っていた。

 靴の跡はない。

 影もない。


 髪は光を含んで揺れ、肌は熱の膜をまとっている。

 目は、太陽だった。


 声が、口からじゃなく、空間全体から降ってくる。


「神子候補、確認」


 その後で、少女が棒キャンディを咥えた。

 神の声が、人格の声に落ちる。


挿絵(By みてみん)


「……はぁ。めんどくさ」


 ナツが一歩引く。

 タニシは腰が抜けた。


「た、太陽系女子は苦手でござる……」

「系ってなんだよ」

 俺がツッコんだ瞬間、少女が笑った。笑っただけで、空気が焼ける。


 視線が、ネムリに刺さる。


「適合値、高。神子候補として回収対象」


「回収……?」

 俺の声が自分のものに聞こえなかった。


「私はアマテラスだ。お前らの観測をしてやってる――」

「正式手続きは“大会”でな」

 アマテラスは、当たり前のように言った。

「今日は確認。以上――」


「待て――!」

 ガロが叫んだ。


 その声に、アマテラスがちらりと目を向ける。

 次の瞬間、ガロの体が――()()()()吹き飛んだ。


 殴ったわけじゃない。触れてすらいない。

 ただ、光圧。

 存在そのものが弾かれたみたいに、ガロが地面を転がる。


「ガロさん!」

 ナツが駆けようとして、動けなくなった。

 影がないのに、影みたいな“熱”が彼女の足を縛る。


 ネムリが、ふわりと浮く。

 怖がる声も出せない。喉が熱で固まったみたいに。


 俺の中で、何かが切り替わった。


「ルステラ。やるぞ」

『オススメしません』

「やるなら――今しかねぇ」


 視界が、割れた。


 HUDが三層に増える。

 観測が走り、戦闘が走り、倫理が走る。

 世界が遅くなる。音が伸びる。砂粒一つが、空中で静止して見える。


()()()()()()()()() ()L()v().()1()|》《・》


 心臓が痛い。

 脳が熱い。

 でも、動ける。


 アマテラスの“少女”の輪郭が消える。

 代わりに見えるのは――太陽の裏側にある巨大な演算構造。円環。符号。管理コード。

 俺は無意識に呟いていた。


「……管理者かよ」


 俺は一歩踏み込み、ネムリの下へ滑り込む。

 熱の拘束を“ずらす”。位相を外す。

 ネムリの腕を掴み、引く。


 引けた。


「ネムリ!」

 俺は抱えたまま後退する。

 ナツの拘束も一瞬だけ緩む。


 アマテラスが目を細めた。


「ハァ……たかが黒曜のくせに」


 興味。

 その感情が、俺の背筋をさらに冷やした。


 次の瞬間、HUDに赤い文字が走る。


『倫理閾値:低下

最適解:周辺焼却/障害排除

成功率:87%』


 焼却。排除。

 視界の端に、ナツとタニシが“障害”としてマーキングされる。

 ガロの位置が“最小損失”と表示される。


 ……ふざけんな。


 俺の目が、勝手に冷たくなる。

 手が熱を集めようとする。

 世界が「正解」を押し付けてくる。


『停止推奨』

 ルステラの声が、どこか遠い。


 そのとき、ガロの声が脳裏に刺さった。


――血は繋がっとらん。だが、わしの子じゃった。


 俺は、歯を食いしばった。


「違う」


 熱を、手の中で握りつぶす。

 正解を折る。

 俺は、守る側だ。


 その“拒否”に、アマテラスが小さく舌打ちした。


「うざ、オッサン」


 指を鳴らす。


 世界が戻る。

 いや、戻される。


 俺の《オーバードライブ》が強制的に引き剥がされ、頭の中に釘を打たれたみたいな痛みが走る。

 膝が砂に落ちる。


 ネムリを庇うように、俺は腕を回す。

 背中が熱い。呼吸ができない。


 それでも、ネムリを放さない。


 アマテラスは、俺を見下ろした。

 怒ってない。焦ってない。興奮もしてない。

 ただ、面倒そうにしている。


「神子候補、確かに面倒」


 彼女はネムリを見る。

 ネムリの影はまだ二重だ。幾何学の影が、砂に薄く焼き付いたまま。


「ハァ....もう()()()()()()()すりゃいいか」

 アマテラスは肩をすくめた。

「今日は確認だけ。めんどい」


 そして、ガロを見た。

 その視線だけは、妙に“刺さる”温度を持っていた。


「ああ、ドワーフ。お前、()()()()()()()()


 空気が、凍った。


 ガロは答えない。答えられない。

 ただ、砂の上で拳を握り、震えていた。


 アマテラスは、最後に俺へ視線を戻す。


「黒曜。大会、来いよ」


 俺は息を吸うのも痛いまま、言葉を絞り出した。


「……行けって言われて、行くタイプに見えるか?」


「見える」

 アマテラスは即答した。

「だって、守ったじゃん」


 その一言で、胸の奥が嫌な音を立てた。


 彼女は歩かない。

 ただ、昼が“解凍”される。

 光がほどけ、夕暮れが戻り、影が復活する。


 熱が引いた世界で、ようやく音が戻った。

 遠くの魔物が、怯えた鳴き声を上げて逃げていく。


 タニシが、震えながら小声で言った。


「……拙者、今後は日陰キャで生きる所存でござる」


「お前、さっきまで日陰だったろ」

 ナツが息を整えながら突っ込む。

 でも声が震えている。強がりだ。


 俺はネムリの肩を抱いたまま、ゆっくり立ち上がる。

 足が笑う。胃がひっくり返りそうだ。


 ネムリは小さく息を吐いた。


「……こわい」


「大丈夫。……大丈夫」

 俺は言いながら、自分が一番信じていなかった。


 ガロが、ようやく口を開いた。


「……大会は、選別された者たちの回収場じゃ」


 その声は、乾いたままだった。

 でも、その乾きの奥に、底なしの憎しみがある。


「……それでも、行くのか」

 ガロが俺を見る。


 俺は答えた。


「行くしかないだろ」


 言い切った瞬間、胸の奥が妙にざわついた。

 理由のない既視感。

 でも、掴めない。


 俺は首を振る。


「……気のせいだ」


 ルステラのHUDが、最後に淡く点滅した。


『観測ログ:記録済

観測度:上昇

警告:次回干渉確率増』


 夕暮れの荒野は、さっきより冷たい。

 太陽は遠いのに、背中だけが熱かった。


挿絵(By みてみん)

後書き(補足・用語)

旧ビーコン跡地:拠点間通信・認証の中継装置ビーコンの残骸がある場所。圏外では通信が不安定or不可能。

神子候補:神権AIの付与(概念実装)に“適合値”が高い対象。本人の自覚がない段階でも判定・回収が行われうる。

アマテラス:神権AI個体。今後の話に大きくかかわる?

オーバードライブ Lv.1:観測・判断・戦闘を同時最大稼働させる異常スキル。今回は“粘れた”が、少し気になる兆候が…


主人公マスター現在のステータス(一般表示)

※表示は一般冒険者向けの範囲に丸めています。

等級:黒曜こくよう

HP:低(長距離行軍で消耗)

MP:低〜中(オーバードライブ使用で枯渇気味)

SAN:低下(神格干渉ストレス)

カルマ:変動なし

危険度:上昇

観測度:上昇(※通常黒曜ではありえない上がり方)


所持アイテム

水筒×2(残量少)

合成食ブロック(少)

乾燥肉(少)

簡易包帯

火起こし具(旧文明品)


装備

旅装(軽装)

簡易ナイフ(消耗)

雑多な携行ポーチ

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読んでいただきありがとうございます。
少しでも気になっていただけたら、作品ページものぞいていただけると嬉しいです。

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影森ゆらは今日も死ぬ
女子高生×オカルト×ちょっと変な日常。
そんな空気が好きでしたら、たぶん刺さる作品です。
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