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異世界ゲームバー転生おじさん(42)、世界のバグになる。 〜看板は酒場、ノルマは命。AI神権に管理された世界で、名前のないマスターは今日も死に戻る〜  作者: 勇者ヨシ君
戦闘ノード編

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第90話 戦闘ノード編05 おっさん、死に覚え前提の戦場とか聞いてない ――勝ち筋は見えるのに、守るたびに死ぬ件――

 一度死んで戻ったマスターが、同じ礼拝堂へもう一度踏み込みます。

 今回は短秒数の【過負荷起動オーバードライブ】も使い、死に覚えと【残滓演 オーバーライト】で攻略を詰める回です。

 そしてようやく、GRAを叩き込む相手が見えてきます。

 礼拝堂の入口に立ったまま、俺は一度だけ深く息を吸った。


 胸の真ん中に、まだ死んだ感触が残っている。穴は空いていないし血も出ていない。なのに、そこだけが冷たい。さっきまで確かに、ここを貫かれて死んだ。その記憶だけが、現実のほうへ食い込んで離れなかった。


「マスター、だいじょぶッスか?」


 ナツが怪訝そうにこっちを見る。ノエルも、コハクも、まだ一回目の時間の中にいる。死んだのは俺だけだ。死を持ち帰っているのも、今は俺だけだった。


 祭壇の前で、戦場記録官がこれから一礼しようとしている。


 その前に、俺は吐き出した。


「ノエル、三歩下がれ。白線に乗るな。コハク、入口右の床下に杭。ムーニャン、左壁の影から槍が来る。ナツ、最初の灰兵は三じゃない、五だ。二体はあとから重なる」


 空気が止まった。


「……は?」


 ノエルが目を丸くし、コハクの耳がぴんと立つ。ムーニャンだけは、薄く目を細めた。


「そうネ。死に顔してると思ったら、ちゃんと死んできた顔アル」


「軽く言うなよ」


 冗談ぽく返した声が、自分でも驚くくらい掠れていた。


 そのとき、頭の奥へルステラの声が滑り込む。


短時間再走ショートリープ維持中キープ

「死亡ログ保持、成功」

「マスター。ここから先、反復負荷が上がりマス」


 続けて、ルースが前へ出る。いつもよりわずかに早口だった。


「このままでも一回分の改善はできる。でも足りない。礼拝堂の再演構造が動的に書き換わってる」

「見れば分かる」

「見えてるのは結果だけ。起点を読まないとまた死ぬ」


 その言葉に、上空から低い笑いが落ちた。


「ならば読め」


 ヘラクレスだ。雲の向こう、見上げなければ消えそうな高みに立ったまま、腕を組んでこっちを見下ろしている。


「【第一功ファースト・ラボー 護って進め】は、力比べではない」

「背負ったまま、戦場の仕組みを見抜け」


「言うだけならタダだな!」

「そうだ」


 即答だった。ほんとうに腹立つわ。


 その苛立ちを呑み込みながら、俺はルースとステラを見た。


「……やるぞ」

「【過負荷起動(オーバードライブ)】?」


 ルースが眉を寄せる。


「零点五秒未満。超えたらZ.E.U.S側の観測が上昇します」

「分かってる」


 ステラが俺の袖をぎゅっと掴んだ。


「ちょっとだけなら、かくせる」

「ルースもやる」

「《ルステラ・キャリア》側で外部照合も少しだけズラせマス」


 ルステラの補足は短い。たぶんそれだけ余裕がない。


 今の【過負荷起動】は完成形じゃない。基盤はミル・バル・エティ。けれど、まだルステラコアは三つしか集まっていない。出力は弱いし、長く使えばすぐ観測される。それでも――読むための一瞬だけなら、意味がある。


「行くぞ」


 視界の中央へ、薄い警告が重なった。


 【過負荷起動(オーバードライブ)

 【推奨使用時間:〇・四秒】

 【観測圧上昇に注意】


 起動した瞬間、世界が遅くなった。


 礼拝堂の白線。壁裏に仕込まれた槍杭。戦場記録官の指が鐘へ触れる角度。灰兵が雪崩れ込む順番。カイロの悲鳴が飛ぶタイミング。ノエルが半歩遅れる地点。ナツが庇いに入り、俺が死ぬ分岐。


 全部が、重なって見えた。


「……切れ!」


 零点数秒で俺は自分から切った。視界が戻る。吐き気が込み上げる。頭の芯を針で焼かれたみたいに痛む。


「観測圧、上昇」

「でも、隠蔽ステルス、まだ効いてる」


 ルースの声に、ステラが肩で息をしながらコクリと頷いた。

 

 それを見たムーニャンが爪先で床を叩く。


「なら、さっさとやるアル」


 戦場記録官が、ちょうど口を開くところだった。


「ようこそ、遅参の護衛――」

「遅えんだよ、お前の記録」


 俺は一気に踏み込んだ。


 礼拝堂の床が開くより早く、コハクの札が入口右の石床へ突き刺さる。ばち、と乾いた音がして、白線の下に仕込まれていた槍杭が不発のまま炙り出された。


「そこにいたでござるな!」


 同時にムーニャンが左壁へ滑り込む。メイド服みたいなスカートがひるがえり、その内側から獣じみた低い姿勢で物凄い拳が突き出た。壁の影から伸びかけた槍を、打撃だけで蹴散らかす。


「遅い――ネ!」


 ナツが右側を斬り払う。予想通り五体。ノエルは白線の外から盾を差し込み、保護区画前の幅を死守する。


「マスター、今のルートなら中央まで二十七歩!」

 イツキの声が通信板から飛ぶ。


「二十七のうち、十六で崩れる!」

「了解、じゃあ十五まで最短で引っ張る!」


 カケルが車体を半歩前へ出し、《ルステラ・キャリア》の側面をそのまま移動盾にする。後方ではミツキがカイロの目を覆い、ミコが小窓から奥の熱源を追っていた。


「奥、まだあつい。大きいの、寝てる」


 それがアバドン側の中枢だと、もう分かっている。


 だが、一回見ただけでは足りなかった。

 十五歩目。白線の位置が変わる。

 二十歩目。灰兵の湧き方が一回目と違う。


「書き換わった!」

「当然です」


 戦場記録官が静かに笑う。


「再演とは固定記録ではありません。より成功率の高い護衛へ、常に最適化される」

「最低だな」

「最低でも、必要です」


 次の瞬間、また視界が白くそして紫に歪んだ。


 ”()()()()()()()()()()()()()()()。”

 ”()()()()()()()()()()()()()()()()。”

 ”()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。”


 最適解は言わない。ただ、切り捨てたあとの“進めたかもしれない形”だけを見せてくる。


胸糞ブルシットだけ流し込むな!」


 叫んだ瞬間、ルステラが短く返した。


「同意シマス」

「悪質デス」


 その一拍で、俺は自分の中の死に方を掴んだ。


 ――そうだ。思い出すんじゃない。

 上書きしてしまえ。


「 【残滓演算(オーバーライト)】発動!」


 前の俺が槍を避け損ねた半歩。

 ノエルへ声をかけるのが遅れたタイミング。

 ナツを庇いに入って胸を貫かれた角度。

 その全部を、今の自分の手足へ押し込む。


 ぐにゃり、と身体感覚がズレた。


 今の俺じゃない。

 死んだ俺の失敗が、現在の動きを押してくる。


「マスター!?」


 ステラの声が遠い。


 俺は白線の切れ目へ、前の一回なら絶対に踏めなかった角度で滑り込んだ。ノエルの盾を肘で持ち上げ、ナツの背中を蹴るように押して、コハクの結界の隙間へ体をねじ込む。


「そこ、通せ!」


 自分でも、どうやって動いたのか半分分からない。

 でも、前の死に方は知っている。

 知っているから、今度はそこを外せる。


 ムーニャンが目を細めた。


「……今の、変な踏み方(ステップ)ネ」

「説明してる暇あるか?!」

「ないアル!」


 そのまま二十一歩。二十二。二十三。


 祭壇前で、戦場記録官が初めて焦れたように鐘へ触れる。


「再演速度、上昇」

「護衛列、崩壊を推奨」


「推奨されてたまるか!」


 だが、足りない。

 中央へ届くには、最後の一点が遠い。


 祭壇の背後、記録端子の束。その先に、棺桶みたいな演算装置プロセッサーが埋め込まれている。鐘、識別札、退避ログ、損耗率の数列――全部がそこへ流れ込んでいた。


 こいつが、『悪魔AIアバドン』だ。

 戦場記録官は端末でしかない。


「ルース!」

「見えてる!」


 ルースが叫ぶ。


「でも届かない! あの記録官が中継層! 先に剥がさないと中枢に触れない!」

「……なら、順番は決まりでござるな!」

「そうネ。まずは神父もどきからアル!」


 戦場記録官バトルレコーダーは鐘を握りしめたまま、一歩下がる。


「理解なき介入は無意味です」

「違う」


 俺は息を整えた。


 ここまで来て、ようやく見えた。

 こいつは戦争を愛しているんじゃない。

 失敗を終わらせることが怖いんだ。


 失敗が終わった瞬間、守れなかった人間の数も、間に合わなかった列も、全部「確定」してしまう。だから何度でも再演する。成功の形が出るまで引き延ばす。そうすれば、まだ終わっていないことにできる。


「お前……祈ってるんじゃないな」

「……」

「終われないだけだろ」


 戦場記録官の指が、わずかに止まった。


「守れなかった連中を弔うんじゃなくて、守れた記録に上書きしたいだけだ」

「違う」

「違わねぇよ。だから失敗を埋葬できない。だから戦争を続ける」


 ステラが胸を押さえ、震える声で言う。


「このひと、こわいんじゃない。……おわるのが、こわい」

「対象感情層、照合」

 ルースの声が続く。

「背景理解、成立域」


 HUDが開く。


 【神権解放権利ゴッド・リリース・オーソリティ

 【対象:再演記録管理コード】

 【解放権、行使可能】


 戦場記録官が、初めて顔を歪めた。


「やめろ。それを剥がせば、この戦場は――」

「終わるんだろ」


 俺は前へ出る。


 さっきの死が残っている。

 オーバーライトで無理やり通した身体はきしむ。

 オーバードライブの反動で視界の端もまだ痛い。


 それでも、届く距離だ。


「終わっちまえよ、もう」


 俺は手を伸ばした。


「――剥がせ!」


 白いコードが、戦場記録官の胸から引き抜かれた。


 鐘が落ちる。


 礼拝堂全体が、一瞬だけ呼吸を止めたみたいに静まり返った。壁から響いていた呻きも、命令も、番号の読み上げも、そこでぷつりと切れる。


 戦場記録官は膝をつき、茫然と祭壇を見上げた。


「……終わる」

「そうだ」


 その背後で、棺桶めいた演算装置にひびが入る。

 中から、黒い光が脈打った。


 アバドン本体の輪郭が、ようやく見える。


 鐘と識別札と損耗率の山でできた、戦争そのものみたいな影。

 礼拝堂の奥から、それがゆっくりこちらを向く。


 上空でヘラクレスが笑った。


「ようやく触れたか、NO NAME」

「次だ。戦場そのものを壊してみせろ」


 簡単に言うなよ、ほんとに。


 けれど、もう見えてしまった。

 倒すべき敵兵じゃない。

 終わらない失敗を、何度でも続けさせるこの構造そのものだ。


 俺は拳を握り直し、黒い中枢を睨んだ。

 次で、終わらせる。


挿絵(By みてみん)


■今回の登場人物ざっくり紹介


・マスター

 一度死んだ情報を持ち帰り、短時間再走からの死に覚え攻略へ入った回です。今回は【過負荷起動オーバードライブ】を本当に短秒数だけ使い、その後は【残滓演算オーバーライト】で失敗の残り方を現在の動きへ上書きして突破しました。


・ルース

 礼拝堂の再演構造と外部干渉を解析する役。オーバードライブの長時間運用が危険だと分かっているので、使いどころの制御役も兼ねています。


・ステラ

 短秒数オーバードライブ時の隠蔽補助と、相手の感情層への共鳴役。今回の「この人は祈っているんじゃなくて、終わるのが怖い」の読解に繋がる大事な位置でした。


・ムーニャン

 怪しい中華口調の猫耳メイド格闘娘、今回はかなり前に出ています。試練側っぽい立ち位置を残しつつ、ちゃんと最前線では頼れるのがこの人の強さです。


・コハク

 正式同行後の前線支援担当。床下杭や結界札で、再演罠にかなり刺さる役目でした。だいぶポンコツ寄りなのに、こういう時は仕事をするタイプです。


・ノエル

 今回も「普通の怖さ」をちゃんと背負ったまま立つ役。だからこそ守る意味があるし、遅れると痛い。


・ヘラクレス

 見ている。だが助けない。NODE04の試験官として、「立てるか」「背負ったまま進めるか」だけを見ている神です。暑苦しいし厳しいし性格もだいぶ悪いですが、この章には必要な圧でもあります。


・戦場記録官

 今回の実質中ボス。祈る神父ではなく、失敗した護衛を成功するまで再演し続ける管理端末でした。感情の芯は「救いたい」ではなく、「終わらせたくない」にあるタイプです。


―――――


■今回の話について


今回はかなりはっきり、


 リープ

 → オーバードライブで一瞬だけ読む

 → オーバーライトで通す

 → GRAで触る


という流れにしています。


 今のオーバードライブはまだ未完成です。

 しかも長く使うとZ.E.U.S側の観測が跳ねる。

 だから「強い必殺技」ではなく、今回は零点数秒だけ未来の起点を見る危険技として使いました。


 そのうえで本命はオーバーライトです。


 死んだ位置。

 遅れた半歩。

 守れなかった角度。


 それをただ覚えるんじゃなく、現在の自分の動きへ上書きする。

 この流れにしたことで、単なるパワーアップではなく「失敗の残骸でようやく守る位置に届く」感じが出たかなと思います。


 そして最後にGRA。

 今回剥がしたのはアバドン本体ではなく、あくまで再演を維持していた戦場記録官の層です。

 ここでようやく、「倒すべきは兵士じゃなく、失敗を終わらせない構造そのもの」という戦闘ノードの本質が見えてきました。


―――――


■主人公の現在のステータス


名前:NO NAME

通称:マスター

等級:鋼鉄相当


状態:

・疲労:大

・観測:継続中

・短時間再走:発生中

・死亡ログ:保持

・不明干渉:継続

・GRA使用後負荷:残留

・【過負荷起動オーバードライブ】短秒数使用済み


今回の変化:

・礼拝堂内の再演罠を一段突破

・【残滓演算オーバーライト】で実戦突破

・戦場記録官へのGRA成功

・アバドン本体の輪郭を確認


主な装備・所持:

・現場対応装備一式

・HUD接続

・GRA起動権限

・《ルステラ・キャリア》搭乗中


※今回は数値より、「何を見て、何を上書きして、どこへ届いたか」の方が重要な回です。


■ゲーマーおっさん解説!


 今回の戦場、いちばん近い空気は、むしろPC-8801とかX1、MSX時代の**「説明が足りないのに、こっちは分かって当然みたいな顔をしてくるゲーム」**かもしれません。


 まず思い出すのが、昔のPCゲームやMSXゲームにありがちだった、一回踏んだら終わりの初見殺しです。

 白線を踏むな、順番を間違えるな、変な位置で立つな、でも説明はしない――あの感じ。今なら「不親切設計」で済みますが、当時は割と真顔で「覚えろ」でした。今回の礼拝堂もまさにそれで、しかも覚える方法が攻略メモじゃなく一回死ぬことなのがひどいです。


 あと、MSXやX1あたりのアクション・アドベンチャーって、敵より仕様が強いことがよくあったんですよね。

 敵をどうこうする前に、「その座標に立つな」「その順番で触るな」「今そこへ行くな」が大事。今回のマスターも、強敵を倒してるというより、戦場の仕様バグみたいな悪意を必死で読み切ろうとしていて、だいぶ昔のPCゲームのプレイヤー顔でした。


 さらにPC-8801寄りで言うと、あの頃のゲームって、一回のミスで流れが全部崩れるのに、復帰は自力でどうにかしろが普通でした。

 今回のるすともかなりその系統です。しかも、やり直しが効くように見せておいて、「守る相手がいるから、自分だけの最適解じゃダメです」を平然と混ぜてくる。古いPCゲームの理不尽さに、護衛ミッションの胃痛まで足した感じですね。なんなら、最初の選択肢を間違えただけで、中盤までノーヒントで詰んでるリセットしかできない、なんてゲームもありました。


 つまり今回のマスター、異世界でスマートに無双してるんじゃなくて、

 PC-8801やMSXのノーヒント罠ゲーを、護衛対象つき・死に戻り前提で攻略してるおっさん

 みたいな状態でした。

 そりゃ顔も渋くなります。



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