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異世界ゲームバー転生おじさん(42)、世界のバグになる。 〜看板は酒場、ノルマは命。AI神権に管理された世界で、名前のないマスターは今日も死に戻る〜  作者: 勇者ヨシ君
戦闘ノード編

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第87話 戦闘ノード編02 おっさん、守ったまま進めと言われる ――筋肉神の試練が始まったら、猫まで敵側っぽく立ってる件――

 旧戦場(きゅうせんじょう)の入口で、いきなり神様に試練を宣告されました。

 しかも今回の条件は、強くなれではなく「守ったまま進め」です。

 簡単そうに聞こえて、こういうのが一番ムズいやつ。

 砲喰巨獣(ほうしょくきょじゅう)の巨体が、赤黒い荒野の向こうでようやく倒れきった。


 遅れて、地鳴りが届く。


 土煙の中心に立っていたのは、獅子皮を肩へ引っかけた筋肉の塊みたいな男だった。バカでかい棍棒を肩に担ぎ、こちらを見下ろして笑っている。笑っているのに、歓迎の感じがまるでない。さすが神様だ。


「ようこそ来た、人類ども!」


 声だけで空気が震えた。


「ここから先は戦闘ノード領域である!」

「貴様らに試練を与える。【第一功ファースト・ラボー ()()()()()】!」


 棍棒の先が、真っ直ぐこちらを指す。


「守るものを抱えたまま前へ出ろ! 子供も、負傷者も、車も置いていくな! 強い者が一人抜けても意味はない! 全員まとめて進んでみせろ!」


「助ける気ゼロだな、お前!」


 俺が叫ぶと、青年神――ヘラクレスは気持ちいいくらいの笑顔で頷いた。


「当然だ! これは救済ではない! 試練だ!」


「言い切るなよ!」


 その時だった。

 高所の瓦礫帯に、細い影がひとつ立つ。


 風に揺れる白い猫耳。しなる尾。爪を組んだ小柄な体。顔までは影に沈んでいるのに、その立ち方だけで分かった。


「……ムーニャンっすか?」

 ナツが息を呑む。


 影は鼻で笑ったみたいに肩をすくめた。

「――気づくの、遅いネ」


 間違いない。ムーニャンだ。

 だが、立ち位置が悪い。悪すぎる。


 ヘラクレスと並んでいるわけじゃない。けれど、俺たちと同じ地平にもいない。味方として戻ってきた、という温度じゃなかった。


「お前、なんでそっち側にいる」


「そっち?」


 ムーニャンは首を傾げる。


「ここは、ここヨ。通りたいなら見せるネ。何を護って、何を捨てないつもりアルか」


 敵だ、とまでは言い切れない。

 でも、味方の顔でもない。

 その温度差が、逆に気味悪かった。


 ヘラクレスが楽しそうに片腕を振る。

「では始めよう! 第一地帯、砲座街道(ほうざかいどう)!」


 直後、荒野のあちこちに半ば埋もれていた砲台が一斉に赤く瞬いた。――このままでは車両に直撃する。


「うおぉい!説明より先に始めるな!」


「説明はした!」


「なんにも説明してねぇええええ!」

 俺が絶叫し、カケルがハンドルを握り直す。


「来るぞ!」

 《ルステラ・キャリア》が急旋回した。


 砲撃音はまだ来ない。だが、地面の一角が先にえぐれる。昨日いやというほど味わった、順番の壊れた砲撃だ。


「カケル、右じゃない!」


 すぐ後ろの臨時受付席から、イツキが怒鳴った。膝の上へ半透明のログ板を何枚も展開し、ネイルの先で高速に数字を滑らせている。


「斜め後ろ! そこ、砲撃じゃなくて殺傷判定だけ滑ってる!」


「日本語で頼む!」


「そこ走ると当たってないのに死ぬよ、マジ最悪!」

「そら最悪だよ!クッソ」


 だが意味は十分だった。カケルが即座にハンドルを切る。


挿絵(By みてみん)


 後方では、ミツキが保護区画の固定具を押さえながらカイロの肩を抱いていた。


「大丈夫です。揺れますけど、ここからは見えませんから」


 カイロは真っ青な顔で、頷くことすらできない。代わりに、ミツキの袖だけをきつく掴んでいる。


 ノエルはその区画の手前に立ち、槍を逆手で構えた。守る相手の近くにいる時のこいつは、妙に落ち着いて見える。


「前から来ます!」


 叫びと同時に、砲座の陰から裂歩兵(れっぽへい)が三体、ずるりと現れた。昨日の残滓より輪郭が濃い。兵士の形が“育っている”みたいで、そのフォルムは気味が悪い。


 その時、車内後部の観測ハッチが開いた。


「ミコ!?」


 ミコが、小さな体で細長い狙撃端末を抱えてよじ登っていた。昨日の夜のうちにカケルが急造したらしい、奇妙な長銃だ。普通の弾じゃなく、熱源だけを撃ち抜く簡易端末。


「そいつ、一発しかもたねぇ!」


 カケルが操縦しながら叫ぶ。


 マスター「だったら先に言っとけよ!」

「言う暇あったと思うか!?」

「.....なかったな」


 そんなやり取りを聞いても、ミコは振り向かない。片目をつぶり、遠くを睨んでいる。


「あついの、いる」


 声が、いつもより低かった。


「砲台じゃない。……おく、うごく」


 ルースが即座に反応する。


「起動痕。固定砲座ではなく、移動式の再演算端末です」


 つまり、撃っている“元”がいる。


 ミコが照準を合わせる。小さな指が引き金代わりの光板へ触れた。


「ミコ、いけるか」


「できる」


 短い返事のあと、ミコは呟いた。


「……やなひかり、ぬく」


 次の瞬間、白く細い光が走った。


 音は遅れて来た。乾いた破裂音。遠くの砲台群の奥で、一つだけ赤い熱が消える。


 その直後、こちらへ向いていた砲撃線がわずかに右へ逸れた。


「うお、マジか!...ミコ、すげぇ!」

 カケルが吠える。


「今の、効いたっす!」


 ナツが短剣を抜き、裂歩兵へ飛び込む。だが昨日の相手とは違う。避けたはずの一撃が、半拍遅れて肩口をかすめた。


「っ、こいつら、気持ち悪いスねえ!」


「接近しすぎるな!」

 俺が叫ぶ。ノエルが保護区画前から一歩だけ出た。


 前へ出すぎない。けれど、守る位置から届く範囲だけは埋める。


 その槍が、裂歩兵の喉元のノイズを貫く。倒したんじゃない。一瞬、形を鈍らせただけだ。その隙へガロの斧が飛ぶ。


「止まるな!」


 ガロの声が低く響いた。


「ここは止まる方が死ぬ!」


 そのタイミングで、タニシが床を這うように前へ滑り込んだ。


「見つけた! あれ、識別札っぽいですアニキ!」


「どこの識別だ!?」


「砲台の下! いや普通取りに行く場所じゃないっすねこれ!」


「じゃあ行くなよ!」


「でもこれ取らないと後ろの砲撃線が減らない案件でござーる!」


 うざい。だが、言ってることは正しい。


「三秒だけだ!」俺は怒鳴った。「ノエル、ナツ、前を押さえろ! カケル、揺らすな! ミツキ、区画固定!」


「了解!」

「はい!」

「無茶言うなよ!」

「やります!」


 全員の声が重なる。


 タニシが塹壕(ざんごう)みたいな窪地へ滑り込み、灰と泥をかぶりながら識別札を引き剥がした。その瞬間、遠くの砲座の一基が沈黙する。


 その瞬間とき――――、世界が、紫色に滲んだ。


 ――()()()()()

 ――()()()()()()()()()()

 ――()()()()()()()()()()()()

 ――()()()()()()()()()


 声じゃない。未来の断片だった。


 ノエルが振り返らず槍を構えたまま取り残される未来。カイロの手を放したミツキが泣く未来。軽くなった車両だけが走り抜ける未来。


 嫌だ、と反射で思った。


「マスター!」


 現実へ引き戻したのは、ミツキの声だった。


「今、止まらないでください!」


 保護区画の中で、カイロの手を離さず叫んでいる。


 ああ、そうだ。


 最適解なんか知らない。


 でも、これじゃない。


「行くぞ!」


 俺は怒鳴った。


「誰も置いていかねぇ! そのまま押し切る!」


「無茶アルね」


 高所から、ムーニャンの声が落ちる。


「でも、今のは嫌いじゃないヨ」


 その瞬間、こちらへ来るはずだった砲撃の残りカスが、見えない壁へぶつかったように弾かれるのが見えた。


 風の中、札が一枚、ひらりと舞う。


「……結界札」


 ルースが呟く。


 姿は見えない。でも、分かる。


 これは、コハクだ。


 《ルステラ・キャリア》が砲座街道を抜ける。


 最後の裂歩兵をノエルとガロが押し返し、ミコはもう撃てない狙撃端末を抱えたまま、熱の残り火だけを睨んでいた。


 高台を越えたところで、ようやく一行は減速する。


 全員が息を吐く。吐いた息すら、鉄の匂いがする気がした。


 ヘラクレスは遠くで腕を組んだまま、やたら楽しそうに笑っている。


「よし! まだ生きてるな!」


「生きてることに驚くな!」


「では、次だ!」


「待て、まだ息が――」


「待たん!」


 即答だった。


 その時、ムーニャンが崩れた壁の上から、兵舎跡みたいな一角を顎で示した。


「あそこから先、もっと嫌ネ」


 珍しく真面目な声だった。


「速いだけじゃない。遅れたくなくて、壊れたやつがいるヨ」


 ルースの視線が細くなる。


「……バル系戦闘管理コードの残響」


 今度は、コハクの札が目の前の岩へ一枚だけ貼りついた。


 案内をしてくれるガイドのように。

 俺は息を整えながら、その先を見た。


 戦場の中に、そこだけ妙に整った建物跡がある。兵舎か、訓練場か。壊れているのに、規律だけが残っているみたいな場所だ。


 嫌な予感しかしない。だが、もう戻れない。


 ヘラクレスが棍棒を肩へ担ぎ直す。


「さあ人類! 第二地帯だ!」


 俺は心の底から嫌そうな顔をしたと思う。


 それでも足は止まらなかった。

 守ったまま進め、それを言うのは簡単だ。

 でもたぶん、この戦場では、それをやめた瞬間に終わってしまう。


 だから俺たちは、息も整いきらないまま、次の壊れた規律の中へ進むしかなかった。


 続く。



戦闘ノード編、二話目です。

今回は【第一功 護って進め】の本格スタート回でした。

強くなれではなく、**守ったまま進め**を真正面から押しつけてくるのが、この戦場のいやらしさです。


■今回の主な登場人物


**マスター**

最適解ではなく、“捨てない方”を選び続ける主人公。戦場ではそこが一番つらいです。


**ヘラクレス**

助っ人ではなく、試練を課す神。暑苦しいのに、言ってることはわりと本質です。


**ムーニャン**

再登場。ただし味方側へ素直に戻ってきたわけではなく、今は“試練を見る側”に近い立ち位置です。


**コハク**

まだ姿ははっきり見せていませんが、結界札で一行を支援。完全に切れてはいないことが分かる回でした。


**ノエル**

保護区画前の前衛。怖がりながらも、ちゃんと守る側に立てる子です。


**イツキ**

戦場ログのズレと危険座標を読む遠隔監査役。こういう場だと異様に強い。


**ミツキ**

子供見守り・感情の支え担当。今回、マスターを現実に引き戻したのはこの子の声でした。


**ミコ**

神権の熱や起動痕を拾う子。今回は遠距離狙撃で“熱源だけを撃ち抜く”仕事を見せました。


**カケル**

《ルステラ・キャリア》の操縦と機動担当。今回みたいな“止まる方が死ぬ”地帯ではかなり重要です。


**タニシ**

うざいけど、狭い場所へ潜って識別札を奪う仕事は妙に向いています。


**ガロ**

戦場勘と知識で、全体の空気を読む人。重みのある一言を落とす役でもあります。


**カイロ**

まだ守られる側ですが、戦場への反応がただの怯えではないのがポイントです。


■ゲーマーおっさん解説!


今回は、前回みたいな「荒野を越える旅感」より、どっちかというと護衛ミッションの胃の痛さに近いです。

レトロ寄りで言うなら、『ファミコンウォーズ(ふぁみこんうぉーず)』みたいな前線の進め方ひとつで被害が変わる感じと、『フロントミッション(ふろんとみっしょん)』初期作の戦場で位置取りを間違えると一気に崩れる感じが近いかもしれません。

強い敵を倒すより、「誰をどこに置くか」「何を守ったまま進むか」の方がずっと大事。今回のるすとは、まさにそういう“護衛してる時のほうが戦場は難しい”回でした。


■主人公の現在のステータス


名前:NO NAME

通称:マスター

冒険者等級:鋼鉄(こうてつ)相当


状態:軽傷/疲労蓄積

現在地:旧戦場第一地帯・砲座街道(ほうざかいどう)突破直後

主な保有スキル:

・ログ閲覧(制限付き)

・《感情感知》

・《依存切断》

・《倫理層読み取り》

・《許容損失無効》


■所持アイテム

・冒険者タグ

・保存水

・携行食

・医療布

・鎮静薬類

・匂い消し布

・帳簿控え

・保護対象用毛布


■装備

・軽装外套

・携行短剣

・簡易HUD連動端末

移動拠点(ルステラ・キャリア)使用中


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読んでいただきありがとうございます。
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