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第1話 いらっしゃい異世界! 俺、マスター扱いです ――看板は酒場、でも名前はNo Nameだった件――

前書き(第1話)

※本作は「異世界×ゲーム×ギルド酒場」な、ほのぼのコメディ寄りの物語です。

ただし世界観の都合で、たまに不穏な単語ノルマとかペナルティとかが出てきます。安心してください、基本は楽しく冒険ゲームします。


それでは――

異世界ギルド酒場『るすと』へ、ようこそ。


この小説は愛知県安城市に実在するギルド酒場るすと ゲームxCBDシーシャカフェバーとのクロスオーバー作品です。

店舗URL https://bar-rust.com

第1話 いらっしゃい異世界! 俺、マスター扱いです ――看板は酒場、でも名前はN()O() ()N()A()M()E()だった件――


その日も俺は、現実を放置してゲームをしていた。


 平日の昼間。

 カーテンは閉め切り。

 六畳一間を照らしているのは、テレビ画面の青白い光だけだ。


「……よし、次で出る。出てくれ、頼む」


 画面の中では勇者が魔王を倒して世界を救った。

 このゲームもすでに十周目くらいで、今は超低確率のレアドロップ狙いをしている。

 現実の俺は、四十二歳。無職。

 いわゆるニートっぽい中年である。


 コントローラーを握る指だけが、やけに元気だった。

 ……脂ぎっているけど。


 ――ぐぅ。


 腹が鳴った。


「……飯か」


 時計を見る。

 冷蔵庫の中身と、口座残高が脳内で同時に点滅する。


 結論。

 コンビニ。


 パーカーを羽織り、財布とスマホだけ持って外へ出た。

 夜風が妙に冷たい。


 弁当、カップ麺、缶コーヒー。

 最低限を買って、袋をぶら下げて帰る。


「よし、帰ったら続きを――」


 その時だった。


「きゃっ――!」


 交差点の向こう。

 スマホを見たまま横断歩道を渡る()()()()()

 その隣で足を止めた()()()()()


 赤信号を無視するように、大型トラックが突っ込んでくる。


「――危ないッ!」


 考えるより先に、体が動いた。


 二人を抱えるようにして横へ突き飛ばす。

 袋が宙を舞い、弁当が回転する。


 次の瞬間。


 轟音。

 衝撃。

 体が浮いた。


 ――あ、これ。


 俺、()()


 そんな感覚と同時に、世界が壊れた。


 真っ暗になる――はずがない。


 視界が白く割れ、その隙間に

 ()()()()()()が挟まった。


 道路も空も消えた。

 上下も前後も曖昧で、時間だけが止まっている。


《警告:致命的損傷を検知》

《意識の消失まで 0.9秒》


「……は?」


 視界の隅に、半透明の枠が浮かび上がる。


《緊急処理を開始します》

《空間維持プロセス:起動》


 文字が乱れる。

 一部が欠け、ノイズが混じる。


《維持率 68%》

《61%》

《54%》


「いや待て、俺、今まさに――」


 表示が一瞬ブラックアウトした。


 次の瞬間。


 画面が復帰する――が、

 数値や警告のさらに奥に、本来あるはずのないものが映り込んだ。


 人影。


 輪郭が合っていない。

 ピントがずれている。

 壊れた映像に、別のフレームが一瞬だけ混ざったみたいな存在。


「……今の、人?」


《表示エラーを検知》

《不要な情報を排除します》


 人影がぶれて、崩れる。


 ――だが、完全に消える前。


 それが、こちらを見た。


 感情は読み取れない。

 だが、確かに認識された感覚。


「……間ニ合わナい……?」


 声。


 音ではない。

 直接、思考に触れる感覚。


《警告:権限外情報の混入》

《当該データを遮断》


「あナたの意識を……

 こノまマ……」


 言葉が途中で削れる。


 画面が激しく乱れ、

 人影は光の粒子みたいに分解されていく。


《エラー修正中》

《視覚情報を簡略化します》


 最後に。


 ほんの一瞬だけ、

 彼女の輪郭が()を結んだ。


 サイバーパンクな、不思議な髪色。

 淡く光る瞳。


「……またスグニおあイしましょう、マスター」


《空間維持率 19%》

《強制転送を実行します》

挿絵(By みてみん)


 視界が裏返った。


 目を覚ました瞬間、俺は思った。


――あ、これ()()()だ。


 天井がやたら高い。

 木製の(はり)がむき出しで、ランタンが()るされている。


 ……なのに。


 壁の一角だけ、どう見ても()()()()()が光っていた。


《GUILD RUST》


 その下に、達筆な日本語。


「異世界ギルド酒場 るすと」


「……さっきまでコンビニだったんだが」


 木の香り。

 酒と肉の匂い。

 それに、甘くて重たい香――シーシャっぽい。


挿絵(By みてみん)


【起動確認。意識レベル、安定】


《接続先:中間層(ちゅうかんそう)〈るすと〉》

《プレイヤー識別:未登録》

《状態:正常》

《推奨行動:受付へ移動》


「HUD……完全にゲームじゃん」


《ここは地球ではありません》

《あなたは異世界へ転移しました》


「説明が雑すぎる」


()()です】


 俺は、改めて酒場の中を見渡した。


 ……にぎやかだ。


 鎧姿の冒険者。

 ローブを着た魔法使い。

 エルフ耳の少年。


 そんないわゆる中世ファンタジー風の世界を見ていると、

視界の端に、文字が一瞬だけ走った。

回収(かいしゅう)判定(はんてい)保留(ほりゅう)

すぐに消える。意味は分からない。なのに、背筋だけが冷えた。


 ここまでは、まあ()()


 だが。


 一番目立つテーブルに、赤い帽子をかぶった小柄な男がいた。

 青い服。

 立派な口ひげ。

 ジョッキを片手に、陽気に笑っている。


「ハハハ! 今日は調子いいな! ヒアウィゴー!」


 ――いや。


 どう見ても、マリ●だ。


 その近く。


 金髪で筋肉質、革の装備に身を包んだ長身の男が、壁にもたれて腕を組んでいる。

 肩には、鞭。

 表情は険しく、近寄りがたい。


 闇と城とムチの匂いしかしない。


 ――悪魔城のシモ●じゃねぇか。


 さらにカウンター席。


 青いヘルメットを被った少年が、無言でフライドポテトを食べていた。

 片腕は、どう見ても()()


 ……ロックマ●。


「……本人?」


【はい】


 即答だった。


 この酒場――

 思っていた以上に、()()()()


 その時。


「ようこそ冒険者よ!」


 エプロン姿の男が手を振った。


「私がこのギルドのギルドマスター。

 まあ、ギルドのやつらには、ギルマスとか、ヨシ君って呼ばれてる」

挿絵(By みてみん)


と、そこまで聞いて違和感を覚えた。

あれ……?

……俺、名前……あったよな? なぜ思い出せない…?まあとりあえずは状況の把握だな。


考えていて、ふと目を先にやると目の前には巨大な掲示板。


『クエスト』


 視界にHUD表示が浮かぶ。


《名前:NO NAME》

《個人ノルマ:3》

《期限:本日24:00》

《未達成時:ペナルティ》


「……ペナルティって?」


「最初は軽い」


「軽い?」


「ちょこーっと怪我したり」


「それ軽くない!」


「後半は」


「後半は?」


 ヨシ君は笑顔で言った。


「死ぬ」


「死ぬ!?」


「正確には、寝たきりになったり死んだりするだけだな」


 雑すぎる命の扱い。


 「この紙おっさんが貼ってるのか」

 「貼ってない。毎日勝手に補充される」

 「なんだそれ」


 そんな話をしていると 足音が二つ。


 褐色肌のガングロコギャルが現れ、俺を見下ろす。


「はいはい、新人?」


「なんかいろいろと複雑なカンジってやつ? オッサン、見た目も中身もどう考えてもアウトなんだけど」


「まだ来たばっかで、ひどい言われようだな!」


 隣に、清楚な少女。


「はじめまして。ミツキです」

「大丈夫ですよ。最初は混乱しますから」

「……でも、死んで転移される方は珍しいですけど」


「やめて! 死体蹴りしないで!」

挿絵(By みてみん)


 彼女らと話しながら 掲示板を前に立った、その瞬間だった。


 視界の端が、わずかに歪む。

 一瞬だけ()()()


【起動条件、確認】


 頭の奥に、聞き覚えのある()()()な声が響いた。


【ギルド所属処理を開始します】

【個体識別:仮登録】

【初期補正を付与します】


「ちょ、待て。説明が――」


 円形の表示。

 完全に()()()()()


《付与候補》


《スキル:解析》

《スキル:身体強化》

《スキル:危機感知》

《スキル:運営》

《加護:幸運》

《加護:不運》


《付与確定》


《加護:()()()(軽)》

《スキル:()()()()(制限付き)》


「……不均衡?」


【説明は後ほど】


 視界の奥に、ノイズ。

 ぼやけた()()


「……無理は、しないで」

 次の瞬間。


《表示を正常化します》

《スキル付与処理:完了》


 酒場の音が、どっと戻ってくる。


「お、新人。今、スキル付いたな」  

 いつの間にか隣に立っていたギルマスが、  軽い口調で言った。


 「初期付与だ。まあ当たり外れはある」

 「外れを引いた気しかしないんですが」

 「気のせいだ。だいたい皆そう言う」


 ギルマスの背後。

 少し離れた場所で、先ほどのガングロの女――イツキが、じっとこちらを見ていた。


 面白いものを見つけた。

 そんな目で。


「……へえ」


 小さく、楽しそうに呟く。


「その構成、珍しいね」


 隣で、ミツキが心配そうに首を傾げた。


「大丈夫ですか? 頭、痛くなったりしてません?」


「頭というか、人生が」


「それは……もともと、では?」


 優しい声で、容赦ない。


 俺は深く息を吐いた。


 さっき見えた人影。

 あの声。


 あれは――

 偶然、じゃない。


 だが確かめる前に、視界の端に新しい表示が浮かび上がった。


《クエスト受注可能》


 考える暇は、与えてくれないらしい。

 HUDに、どうやらクエストらしき表示が続けて現れる。


《はじめての冒険》

《内容:スライム討伐(EASY)》


 それを見た瞬間、視界が強制ブラックアウト。


 刹那、ギルマスの声が聞こえた。


「はじめてのダイブクエスト、頑張れよー」


 完全に他人事だった。


 そして――白光。


 次に目を開けた時。


 そこは、やけに()()()()()()世界だった。


 低解像度気味に、どこまでも広がる青空。

 くっきりと区切られた草原。

 遠くには、角ばった形の森と、なだらかな山。


 色はやや原色寄り。

 影は簡略化され、奥行きはあるのに、どこか平面的。


 ()()()()ってやつだな。


 ――ああ、これ。


 俺は一瞬で理解した。


《ステージ:スライム草原(EASY)》


 視界の端に、緑色のゲージ。

 数字で表示されるHP。


 BGMは、やたら勇ましくて、耳に残る旋律。


 完全に。


 ()()()()()


「……いや、隠す気ある?」


 手元を見ると、いつの間にか()()を握っていた。

 どう見ても初期装備。


 その目の前で――


 ぷるん。


 青い、半透明の物体が跳ねた。


 丸い。

 目がついている。

 にっこり笑っている。


 スライムだ。


 HPバー付き。


 しかも、こっちに向かって、のそのそ近づいてくる。


「……待て待て待て」


 一歩、後ずさる。


「四十二歳で」


 もう一歩。


「無職で」


 さらに一歩。


「コンビニ帰りにトラックに轢かれて」


 スライムが、ぴょん、と跳ねた。


「異世界来て」


 剣を握る手が震える。


「なんで最初がドラク●なんだよ!!」


 その瞬間。


 ♪テレレレッ♪


 軽快で聞き覚えのある戦闘開始音。


 スライムが、体当たりの予備動作に入った。


「いや、著作権! 大丈夫!?」


 誰にともなく叫びながら、俺は剣を構える。


 ――こうして。


 四十二歳。

 中年。

 無職。


 異世界のゲームバーを拠点に、

 なぜか()()()()()の世界から始まる、


 命が軽くて、理不尽で、

 それでも逃げ場のない冒険が、


 今、ここから始まった。


 つづく。

後書き(第1話)


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


第1話は「主人公が異世界ギルド酒場『るすと』に転移し、世界の《仕様》を知らされる回」でした。

今回出てきた要素を、軽く補足します。


■場所:異世界ギルド酒場『るすと』


地球とゲーム世界の“中間層”に位置する、ギルド兼酒場。

飲んで食べて遊べる一方で、掲示板に自動生成されるクエストを一定量こなさないと、個人にもギルドにもペナルティが発生します。

笑ってる場合じゃないのに、店の空気は妙に明るい――そんな場所です。


■用語:クエスト/ノルマ/ペナルティ


クエスト:ギルド掲示板に勝手に増える依頼。内容は“冒険ゲーム”として消化できる形式。


ノルマ:プレイヤー(冒険者)ごとに毎日課される最低消化数。第1話では主人公は「3」。


ペナルティ:未達成時に段階的に重くなる代償。初期は軽い痛みや不調だが、進行すると生活不能~最悪の結末まで。


■用語:神権AIしんけんエーアイ加護かご/スキル


この世界の「神」は人格神ではなく、上位の管理AI群。

登録時にランダム(あるいは最適化)で 加護 と スキル が付与されます。

主人公に付いたのは――


加護:不均衡(軽)

スキル:ログ閲覧(制限付き)

……いきなり嫌な匂いがするやつです。


■登場人物:ギルドマスター(ヨシ君)


『るすと』のギルドマスター。軽いノリで説明してくるが、重要な話はさらっと刺してくるタイプ。

「見えないもの」が見える人間がいることも知っている様子。


■登場人物:管理インターフェイス

主人公の頭の中に響く案内役(HUD/音声ガイド)。

第1話終盤で“本来立てないはず”なのに一瞬だけ実体化し、名前を名乗ろうとするもノイズで途切れます。

最後に残した言葉は――

「またすぐお会いしましょう、マスター」


この「一瞬の実体化」は偶然なのか、世界の不具合なのか、あるいは……。


■今回の伏線メモ(読み返し用)


クエストは誰が貼っている?(ギルドマスターですら「知らん」)

なぜ主人公のスキルが「ログ閲覧」なのか

管理インターフェイスが“立てないはずの場所に立てた”理由

「見えた人は面倒なことになる」とは何か

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