表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/24

第24話 冒険の終わり

 どれだけ眠っていたのだろう? 竜也は目を覚ます。

 …いや、本当に目覚めたのか? と竜也は自分を疑う。そこは漆黒の闇。いや、天井と床の小さな窓から僅かに間接光が漏れ入ってきている。

 窓の大きさは掌ほど、窓のすぐ外には鉄板があり、光はその遥か脇から差し込んでいる。竜也から外の様子は一切見る事が出来ないが、人の話し声が聴こえる。ザワザワとかなり大勢の騒めきだ。


「おい! 何がどうなってる? そこに居るのは誰だ!」


 自分の声が反響して頭が割れそうになった。


「おや? 目が覚めたか、勇者殿。」


 窓の構造のせいで籠っているが女の声だと言う事は分かる。


「誰だ、てめえ。」


 竜也は今度は反響しない程度に声量を抑えた。


「ザックレイ砦で会っただろう? 司令をしていたローザ・ムートンだ。」


 ああ、あのオッパイのデカいオバサンか、と竜也は思い出した。


「居心地はどうだ? わたしが考案したおまえ専用の檻だ。」


「はあ?」


「おまえは<瞬間移動>が出来るだろう? だが、その範囲は視界に認識出来る範囲に限られる。だから外が一切見えない檻を特別に作ったんだ。」


「ざけんなよ、何で俺がこんな箱に閉じ込めれなきゃならねえんだよ?」


「おまえはレルシェンとの戦争を引き起こした元凶として裁きを受けるんだよ。」


「意味分かんねえよ。」


「おい! おまえのせいでわたしの可愛い部下が十一人も死んだ。本当ならこの手で八つ裂きにしてやりたい所だが、外に出した途端に<瞬間移動>で逃亡されてはかなわん。だから、これで我慢してやっているのだ。有難く思え。」


「おまえの部下の下っ端兵士など知るか。こっちは魔王討伐団十人の仲間を失っているんだ。」


 ガァン!


 壁を殴るか蹴るかしたのだろう。凄まじい打撃音が竜也の閉じ込められている箱の中で反響する。

 音が鳴り止むと竜也は再び窓に向かって口を開いた。


「おい、まだそこに居るか? 居るならエリスを連れて来い。エリスと話をさせろ。」


「エリス“元”王女なら国外逃亡して新国家とやらで女王などとふざけた事を宣っているよ。」


 何だ、それは? 全然意味が分からねえ! 俺は勇者だぞ? あれだけ魔族をブチ殺しまくった。勲章くらいくれてもいいだろうが。何でこんな扱いを受けなくちゃならねえんだよ?


「さて、おまえが目覚めた事を判事たちに教えてこなければならん。その間、<瞬間移動>を好きなだけ試せばいい。ふふ…。」


 くそったれが! <瞬間移動>! <瞬間移動>! <瞬間移動>! 発動もしない? 何でだよ? 


 竜也は忘れている。<瞬間移動>は出る先の位置が視認できて初めて発動するのだ。そこが“猟奇姫”が多用している<亜空間移動>との違いだ。<亜空間移動>は<瞬間移動>ほどの瞬発力は無いが、脳内で座標をイメージするだけで何処にでも行ける。移動制限が無い。もっとも、それは人外精度の<対象物転送>を操る様なジアッラ並みの常軌を逸した強度でギフトを受けなければ使用できない魔法だが。


 やがて判事、訴追人、弁護人が集まり、裁判が始まるが弁護人に弁護する気は無し。スピード結審の茶番劇裁判である。

 判決は終身禁固刑。当然、竜也の持つ能力を考慮して、現在入れられている箱の中で、である。

 食事は天井の窓と外壁との隙間から押し込む様に放り込まれ、用便は床の窓にすると夜に外壁との隙間から水で洗い流される。

 三日目(既に竜也の時間感覚は失われていたが)に女が話し掛けて来た。


「おまえ、そろそろ脱獄しないのか?」


「誰だ? 脱獄だぁ? どうやってだよ。」


「は?」


 話し掛けたのはジアッラだった。ジアッラは竜也が派手な脱獄ショーを起こして大騒ぎになるのを楽しみにしていたのだが、竜也の返事に失望する。


 <対象物転送>の出現位置を自分側にして壁の一部だけイメージしてぶつけるという簡単な発想も出来ないのか? 暗くて転送先位置の感覚を把握出来ないなら壁に手を当てれば壁の位置はイメージ出来るだろうが。そこに移動しない<対象物転送>、転送しない転送を撃ち込めば、空間切断されるし、おまけにおまえの練度なら二回に一回は壁を粉砕してしまうだろうが!

 駄目だ、こいつは。こいつに面白い事を期待したのが間違いだった。


「おまえはもうずっとそこに居ろ。」


 そう言い残すとジアッラは去って行き、二度と現れる事は無かった。


 二週間もすると竜也は徐々に精神崩壊を見せ始める。


 大きな動きがあったのは二年後であった。

 エリスが二年掛けて密かに王城に忍ばせていた真レハラント聖国の潜入工作部隊と深浸透決死隊が竜也と召喚水晶の強奪作戦を敢行し見事に成功させる。

 それにより真レハラント聖国は“特別な召喚水晶”を入手し、竜也は一年ぶりに箱の外に出られる事になった。

 厳重な施錠を解除して扉が開かれると、中からは凄まじい刺激臭が漂い出る。エリスを含むその場にいた全員が思わず目を瞑り、顔を背ける。中には嘔吐する者、耐え切れずに立ち去る者もいた。

 数名の兵が箱の中に決死の突入を行い、一人の男を両脇を抱えて外へ連れ出した。

 服はもう無い。伸びに伸びた髪と髯。骨と皮だけになり、針金の様になった手足。何かの病気に羅患したのだろう、全身には瘤と爛れ。掻きむしった跡は皮膚が剥げている。


 こ れ が あ の タ ツ ヤ ?


 生気のない顔、焦点の定まらない目でエリスを見た竜也は掠れる声を絞り出した。


「…ぅえ…エリ~…スぅ~…♥」


「…醜悪…。」


 久々に竜也に再会したエリスは、そう第一声を放つ。


「優秀な種馬も壊れてしまってはお終いね。処分して頂戴。」


「はっ!」


 無名の兵士の剣が竜也の脳天に振り下ろされ、脳漿を撒き散らして竜也は絶命した。

 ここに竜也の異世界冒険譚は終了を告げたのである。


 くそ、“五大災厄”との接触の機会も一つ台無しか…とエリスは歯軋りする。


 その様子を木の上から、エリスが竜也を奪還したと聞きつけて見物にやって来た全裸の美幼女が眺めていた。


 あいつが元いた世界でどんな生活をしていたのかは知らないが、こっちの世界では自分がやりたい様にやっただろう。ただし思い通りに事が運ばなかっただけで。

 ま、未来がどうなるかなんて“神様にも分からない”事だけど、最期は奴らしい終わり方だったな。


 幼女は闇の霧の中に消えていった。



同一世界線でジアッラはじめ災厄メンバー絡みの作品を他にも構想していますので、見かけたらまたよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ