幼い頃に馴染みがあった人 3/6
なんやかんや千野と楽しくおしゃべりをしながら登校し、学校に到着して、席に着く。
俺が座る席は一番窓際の一番後ろ。
青春アリーナ席のようだが、座る人間が違えば勿論条件は変わる。
俺はいわゆる普通の男子高校生とは違って、誰とも話すわけでもないから、はっきり言って朝礼までの時間はただ暇な時間でしかない。
言い忘れていたが、凛と俺は同じクラス。
といっても、会話はゼロ。
おまけに、視線すら合わせない始末なので、この浅葱野高校の全生徒が、おそらく俺らが幼馴染だってことは一ミリも知らないはずだ。
だから、お互いに知らない人同士を演じているわけだが、今日はやたらと凛が俺を睨みつけてくる。
朝から正直気分が悪いし、その圧がしんどい。
無視を決め込んで窓から外を眺めていると、急に肩を叩かれた。
俺がけだるそうに振り向くと、そこにいたのは短髪がよく似合う、とても爽やかな青年だった。
ザ・青春を身にまとう彼が、俺の事を呼んだらしい。
「なぁ! 君ってあの美沙ちゃんにブチギレてた奴だよな⁉ まさか同じクラスだったとは!」
こいつもあの現場見てやがったのか、クソ野郎。
こういう奴とは絶対に仲良くなれない。
俺の経験則だが。
「あぁ…、お前も見てたのか。見世物じゃなかったんだけどな」
けだるそうに窓に視線を戻して、俺は言った。
そんな俺の表情を窺う様子もなく、そいつは続けた。
「一年生の間で一番人気の美沙ちゃんにあれだけの罵声浴びせられるってすげぇよ! その度胸どこで手に入れたんだよ⁉」
あぁもうなんか誉め言葉なのか皮肉なのか分からん。
鬱陶しくなって、早く会話を終わらせようと思った。
「話はそんだけ? 俺窓の外見るので忙しいんだけど」
すると、彼は笑いながらこんな事を言い出した。
「いや、いっつも暇そうにしてんじゃんか! 窓の外見たってなんもねぇって!」
とことん腹立つな、こいつ。
「別に何だっていいだろうが。話しかけんなって」
こういう奴と話すととにかく疲れる。
「お前ホント面白いな(笑) 俺と友達になってくれよ!」
パーソナリティスペースに土足どころかわざわざ汚してきた足で踏み込んだ挙句、玄関マット踏み躙ってくるような野郎と仲良くなんてできるかよ。
といいつつも、なんか久しぶりに男友達と話してるような気がして、なんやかんやで楽しかった。
これって矛盾、だよな。
「名前何てぇの? 俺有松一誠!」
親指を自分の方向に向けて、自己紹介をしてくる。
「…春日優」
机に突っ伏して、俺も自己紹介した。
「へへっ、よろしくな!」
と、有松の声が聞こえた。
俺は何も返さずに、相変わらず机に突っ伏したままだ。
高校生活が二年目に突入して、まさか話せる奴が二人も増えるとは思ってもみなかった。
しかも、俺からではなく彼、彼女から話しかけてくるとは、マジで何事なんだ?
そんな事を相変わらず机に突っ伏しながら考えていると、朝礼開始の予鈴がなった。
初老のヒョロガリ眼鏡の担任が、しゃがれた声で席に就けと催促する。
すると、ひと呼吸入れたところで担任が話し始めた。
「えー、今日から、転校生がこのクラスに入る事になりました。みなさん仲良くしてあげてください。じゃあ深瀬さん、入って」
そう教室に通されたのは、眼鏡をかけたとても地味な女の子だった。
言い方は悪いが、高校生にもなってオシャレなんかにも無頓着そうで、どこか垢抜けない雰囲気の女の子だった。
ずっと下を向いていて、あまり顔を見る事はできなかったが、見るからに地味で根暗な感じがする。
俺に近いけど違う、別のダークさを抱える人物だった。
「深瀬瑞希です…よろしく…お願いします…」
か細い微かな声で自己紹介をしていたが、耳を澄まさないとほとんど聞き取れなかった。
彼女は廊下側から二番目の一番後ろの席に座ると、どこか落ち着かない様子だった。
転校生というだけあって、周りから矢継ぎ早に話しかけられていたが、正直かなり戸惑っている様子で、見るに堪えなかった。
授業と授業の合間の休憩時間にも、彼女の元に多くの生徒が集っては話しかけていたが、彼女はほとんど対応しきれていなかった。
その中には、あの有松もいた。
いやあいつコミュ力おばけだな、マジで。
まぁ気の毒だけど、深瀬さんとは今後関わる事はないだろうし、俺は話しかけようとは思えなかった。
そんなことよりも、自分の事で正直手一杯だし。
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