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イタ告から始まる恋を信じてもいいのか?  作者: 二狐
大きくなったら
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大きくなったら 2/9

小学校に入学して知ったことがある。

引っ越しするとは言ったものの、その公園からもそれほど遠くはない、同じ市内での引っ越しだった。

小学校の校区で言うなら隣の校区だったため、自転車で行けなくもない距離だった。

両親は当時の私にかなり深刻そうに伝えてきたから、どんな遠くの町に引っ越すのかと気になっていたが、結局今まで住んでいた最寄り駅の隣にあったあさぎ野駅の近くに住む事になった。

それから私は、あの子にまた再び会えるのではないかと期待に胸を膨らませ、毎日その公園に通い詰めた。

しかし、案の定彼がそこにいるはずなど無かった。

私は約一年間くらいその公園に通い詰めたと思うが、一度も見かける事は無かった。

彼はきっともう私の事など忘れてしまったのだと、悲観的に考える事しか出来なかった。


小学校六年間はとても惨めだった。

誰一人仲良くなれない日々が続いた。

休み時間はずっとドリルとにらめっこ。

勉強することでしか、時間を潰す事は出来なかった。

私は大抵、先生が出してくるであろう宿題をその日の休み時間中に終えてしまっていた。

家に帰って宿題をした事など、おそらく数えるほどしか無かったように思う。

あの時の楽しかった日々はどこまでも遠く、尚且つくすんで見えなくなっていた。

私にとって友達はあの時の彼一人だけだった。


中学入学後も相変わらずそれは続いた。

何一つ変わらない日常、ずっと惨めで哀れな毎日。

しかし、私にとって一つ決定的に違ったのは、中学に入ってから始まった“いじめ”だった。

いじめで苦しい思いをしていた男子生徒が、同じクラスにいたのだ。

思春期の私たちにとって、いじめが恒常的に起こる事など今にして思えば何一つおかしくない話だ。

しかし当時の私はそれが全く理解できなかった。

何故虐げられる人間が出てしまうのか。

誰だって必要最低限の権利は与えられて然るべきだ。

学ぶ権利、生きる権利、嫌と言う権利、それぞれ全員平等に与えられるべきなのに、私の通う中学にそれは無かった。

そんな事に疑問を呈し、そのいじめられていた男子生徒を救いたいと思った。

今にして思えば、柄でもないような事をしようとしてバカだなと。

しかしその当時は、自分も救われた身だと何故か手を差し伸べたかったのだと思う。

そうすることで、幼い時に私を助けてくれた彼に少しでも近づけるような気がしたから。

正義感くらいしか取り柄の無い私が、唯一出る幕だと思った。


そうして助け舟を出した私は結局そのまま転覆。

今までそれほど目立たずに密かに生活してきたのに、私はそれからというもの、クラスで浮いた存在になってしまった。

未だに、この時の私の行為が間違っていたとは思わない。

勿論他のやり方だってあったのかもしれないが、その当時の私にとってはあれが精一杯だった。

あの時、あの男子生徒がああやって反論したのも頷ける。

あんなの憐れんでるようにしか見えないよね。

結局は私の自己満足だった。

私はあの時の彼ほど器用じゃないし、強くも無かった。


脆すぎる私の心を抉り取るかのように、それ以降の中学生活は凄惨なものになっていった。

毎日が苦痛で仕方なかった。

それでも私は一生懸命生きようと決めていた。

あの時出逢った彼に、笑顔で再会を果たす為に。


高校受験は今までに無いくらい勉強に励んだ。

元々勉強自体は苦痛では無かったし、勉強している間の方が自分だけの時間を過ごせて楽だった。

毎日何時間、十何時間勉強していたのか分からないが、時計を見る暇も無くずっと勉強していたのは確かだ。

私は誰よりも勉強に励んで、あの時の彼に顔向けできる自分になるんだと決意した。

そしてその勉学が功を奏して、私立の名門校に入学を果たした。

県内トップの学力を誇る、随一の進学校への切符を手にしたのだ。

私は嬉しかった。

やっとここまで辿り着けた。

何一つ無い私が、やっと勉強という手段で手にした彼への道筋の入り口。

努力が報われたと、その時までは思っていた。


その高校には、中学時代にあの男子生徒をいじめ抜き、かつ私にも攻撃を幾度となく加えてきた“掛川凌”という男子生徒も入学していた。

私はとんでもない誤算をしていたようだった。

私は進学校に行けば、いじめは無くなると信じていた。

しかし実際はそんな事など全く無く、頭の善し悪しや校風程度で変わるはずなど無かったのだ。

私の考えは間違いなく甘かった。

よりによって掛川とは同じクラスだった。

一年間彼にありもしない噂話を学年中に吹き込んで回られ、私はまたしても孤立した。

高校デビューをするつもりは微塵も無かったが、せめてここで今までの清算をしたかった。

これまであの子との約束を何一つ守れずに、生きてきた人生の清算を。

友達百人だなんて、今思えばきっとただの比喩表現でしかないのに、私は今もずっとそれを真に受け、未だゼロ人の状態をずっと後ろめたく感じていた。


結局、卒業が先か私の心が潰れてしまうのが先かという所で、私はいよいよ体調を崩してしまった。

平日は毎日熱が出た。

身体が重たく、朝目が覚めても体が起き上がらない。

毎日慢性的な吐き気に襲われていた。

食欲は次第に減衰し、所謂摂食障害の状態に陥っていた。

学校に行こうとすると、涙が止まらなかった。

いよいよ私の精神は崩壊していたのだと思う。


そんな私を見兼ねて、両親は二年生に上がったばかりの私を転校させる事を決めた。

結局転校先は良い学校が見つからず、公立の県立浅葱野高校に入学。

その学校は決して頭が良いとは言えない学校だった。

進学率も六割程度で、以前通っていた進学校と比べても大幅に見劣りするレベルだった。

私は自分自身が情けなかった。

あれだけ息巻いて手にした彼の元へと続く道標を、下らないいじめで無理矢理手放さなければならなかったという事が悔しくて仕方なかった。

結局転校先でもこのザマ。

物珍しい転校生の私を見世物みたいに思って話しかけてくる人は多くいたが、強がっていた私に誰一人友達なんて出来ずにいた。


そしてこの学校でも一つ懸念点があった。

それは中学時代にいじめられ、最後には不登校になってしまった、私が手を差し伸べた男子生徒、“春日優”が在籍していたのだ。

私は彼が憎かった。

私の助け舟を打ち壊し、あろうことか私まで被害を被る事になった全ての元凶。

私は彼が当時余裕が無かった事も、憐れむような私の態度に腹が立った事も全て分かっていた。

しかしそれでも、今の彼を見ているとムカついた。

彼は今、私より幸せそうで、何不自由なく学校生活を送っているように見えた。

昨日今日で見た感じでは恋人まで作っている様子で、昼休みなんかは一緒にご飯を食べていた。

沈んでいた彼に私は手を差し伸べたのに、それを棒に振って私を沈めた挙句、彼だけが今サルベージされたような感じ。

私だけが沈んでしまった沈没船のようだった。

私が不幸なのはさておき、彼が幸せなのは許せなかった。

私がした事は、きっと間違いではなかったはずなのに。

憂鬱になる今日。

明日に希望など見出せるはずも無かった。


あれからかれこれ十年以上経過したが、私は果たして明るくなれただろうか。

百人でおにぎりを食べられるほど沢山の友達を引き連れて、彼に顔向けできるだろうか。

あの日交わした約束を、私は何一つ守れたとは思えない。

今やもう名前さえ忘れてしまった彼に会う資格など、この私には無い。

もはやこんな私の事など、彼も覚えているはずがない。

そんな風に、今日もまた自己嫌悪に陥る。

読んで頂きありがとうございました!


次回投稿までしばらくお待ちください!

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