救えない人、掬えない意図 5/6
もう涙目の凛と、思考停止中の俺に声を掛けてきた男がいた。
「あれ!? 春日君! 美沙ちゃんというコがいながら西野さんとこんなとこで堂々と喋っちゃって~! バレたら美沙ちゃんに怒られちゃうぞ~!?」
有松だった。
今日は割と塩らしくしてたと思ったら、まさかこんなところで絡まれると思っていなかった。
でも、やっぱりこうやって話しかけてもらえると嬉しいもんなんだよな。
深瀬さんもそうだったらいいのにな…。
「ねぇ優! 美沙ちゃんって誰よ! どういう関係!?」
怖い顔で俺を問い詰めてきたのは凛だった。
「…いや、ただの知り合いっつーか…なんつーか…」
千野との関係を説明するとなると、結構難しいものがある。
そもそも友達と言えるほど親しいかというとまだそんな感じじゃないし、メシ友というのもまだ一日しか一緒に食べてないし、挙句今日俺約束すっぽかしてるし、知り合いっていうのも何か違うというか…。
「カノジョだよ! な?春日!」
俺が言葉を濁している隙に有松が余計な口を挟んできやがった。
「えーっ! そんなの聞いてない! 何で言わなかったの!! あたし認めないかんね!!!」
「いや!違うって!…有松覚えてろよ…馬鹿にしやがって…!」
「ははは! ホント面白いよな、春日(笑) 修羅場じゃん!」
「てめぇが造り出した修羅場だろうが! てめぇが説明しろや!」
「で、どうなの!? 優! 美沙ちゃんって何なの!? もしかしていつも優の周りチラつき回ってるあのコ!?」
「そーそー! そのコだよ西野さん! 学年一の美少女って名高いコでさ~!」
「どうせそのコに鼻の下伸ばしてんでしょ! バッカみたい!!!」
「あぁもう死にてぇ…、カオスだ…」
でもこんな会話、いつぶりにしたんだろ…?
三人で話すのなんて正直家族で晩御飯囲んでる時か三者面談の時くらいだったし、こうして同級生三人でこんな和気あいあいと話すのなんて本当に久しぶりの出来事だった。
複数人で会話を楽しむだなんて、もう一生出来ないとまで思っていたくらいだった。
それがなんかとても楽しくて、嬉しくて、俺には勿体無すぎるんじゃないかってくらいで、喜んで良いのか分からなかった。
そんな所で、有松が急に言い出した。
「今から二人で帰んの? 俺も混ぜてくんない? 今からバイトで駅前まで行くからさ。西野さん、家そっち方面だったよね?」
凛がその発言を聞いて顔が引きつる。
「…え、なんで私が駅の近くに住んでるの知ってるわけ?」
すると気色悪い微笑を浮かべて冗談まじりに有松が言った。
「俺いっつも西野さんストーカーしてるから知ってるんだよねぇ(笑)」
流石の俺でもこの発言には寒気がしたし、冗談でもキメェなって純粋に思った。
「あー、キモいやめて信じらんない」
凛はジトッとした目を向けて冷酷に言った。
これでも優しい対応だと俺は思う。
「ま、ホントは西野さんが欠席した日にプリント届けてくれって担任に言われて、住所聞いたから知ってるんだけどね(笑) だからマジで勘違いしないで!」
「あー、はいはい」
「ドン引いちゃって全然信用してくれてないじゃん!…春日からも何か言ってやってくれって! 俺そんな奴じゃねぇだろ?」
「ごめん、弁明の余地無しだわ」
「ひでぇって春日…! 俺ら友達だろ!?」
「千野の件訂正するまでは弁明しねぇよ、バーカ」
こんな下らない会話に可笑しくなってしまうのなんていつぶりだったかな。
三人は不思議と笑顔になっていた。
さっきまで胸が締め付けられるような苦しみがあったにも関わらず、その苦しみが消し飛ぶほどに、こんな下らない会話があまりにも楽しかった。
有松は俺を『友達』と言った。
確かにあいつは俺にやたら絡んで来ていたが、それは友達だったからなのか?
仲良くなりたかったからだろうか?
いずれにせよ、有松が俺をそう呼んでくれるのなら、俺たちは友達で良いのだろう。
「で、千野さんは何者なの!? 優!」
そう再び質問してくる凛に、俺は確信を持って言えた。
相手がどう思ってるかは知らない。
俺は人を見る目がないから、きっと俺の考えなんてアテにならない。
だから俺は少なくとも、こういう関係であって欲しいなと思う。
そしてこういう関係だって千野も思っていて欲しいと感じた。
「"友達"だよ、あいつは」
そう答えた俺に、相変わらず不服そうな表情を向けてくる凛だったが、それから特に詳しく詮索はしては来なかった。
「帰ろうぜ、腹減ったし(笑)」
俺のそんな提案に、二人は快く応じてくれた。
なんか分からないけど、これが青春だったら良いなって思った。
もしこれが青春ではなかったとしたら、青春なんて俺は必要ないなって思えてしまうほど、今が楽しかった。
人生半分諦めかけてた曇天下にいた俺に、やっとほんの少し晴れ間から青い空が覗くような彩りが与えられたような気分だった。
真っ黒い春の日、ほんの少し差し込んだ青い光に、俺は感謝するものだ。
三人揃って、下らない話と共に俺たちは家路についた。
そんな光景を遠巻きに眺めていた少女がいた。
彼女は優たちが仲良く会話している姿を見て、嫉妬の炎を燃やしていた。
彼女は優が自分よりも幸せでいる事が気に食わなかった。
そんな彼女は、今日も一人ぼっちで帰路に就くのであった。
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