深瀬瑞希 6/6
教室に戻ると、有松がまたニヤニヤしながら話しかけてきた。
「いやぁ、春日さん。美沙ちゃんという彼女がいながら西野さんと浮気だなんて頂けませんなぁ~」
相変わらず鬱陶しいが、それもまた嫌いではなかった。
「うっせぇ。良いだろ、俺が誰と話してようが。ってか千野ちゃんは彼女じゃねぇよ」
そんな俺にまたも不可解な笑みを浮かべて有松は言った。
「で、お前美沙ちゃんと西野さんどっちが本命なの?」
俺は噴き出すと、慌てて有松に言った。
「べ、別に好きとかじゃねぇよ! 少しは黙れこの恋愛脳!」
すると二限のチャイムが教室に鳴り響いた。
全員が席に就き、授業が始まった。
また俺は考えを巡らせて、深瀬さんに話しかける術を探っていた。
そして思いついた作戦がこれ。
名付けて「とりあえず名前呼んで話しかける作戦」。
この一見頭の悪そうな作戦は、何を隠そう秘密兵器が搭載されている。
最悪、何かトラブルがあった際には、凛という後ろ盾があるということだ。
すなわち、一切俺の策略等は含まれていない。
もうほとんどゴリ押しに近いこの作戦で行く外なかった。
話しかけさえすれば、どうにかこうにか会話に発展するんじゃないかと、足りない俺の脳みそが言ってた。
授業時間五十分で決意を固め切った俺は、二限終わりの十五分休憩を狙って深瀬さんに話しかけようと思った。
二限終了のチャイムが鳴る。
すると深瀬さんは何をしに行くのか、教室から出ようとした。
出て行かれるともうチャンスは無くなってしまう。
咄嗟に俺も駆け出し追いかける。
深瀬さんが廊下を歩いていく所に、俺は教室を出たそばから声をかけた。
「あ、あの! 深瀬さん!」
すると深瀬さんは振り向く事もなく応えた。
「……何?」
冷たい声でそう言った深瀬さんに、俺は少し怯みつつも力強く言った。
「あのさ、またゆっくり話でもしてみない? 俺も色々聞きたいし!」
どう話しかけるべきか分からずに、とりあえず頭に浮かんだ言葉をそのまま伝えた。
すると深瀬さんは低く冷酷な声で、相変わらず俺には顔を向けずに言った。
「……君に話す事なんて何もないよ。二度と話しかけないで」
何を言われても受け入れる覚悟だった。
どんな言葉も分かってあげられるつもりでいた。
だがそれは俺の、俺自身への過信に過ぎなかった。
何も理解できなかった。
何故なのか理解できなかった。
唯一理解できるのは俺だけだって自負していたのに、唯一俺が理解できなかった。
そうして遠ざかっていく深瀬さんの背中を、ただ遠巻きに眺める事しかできなかった。
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