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第七十六話 「昔のよしみ」

 「くも(はち)様! お伝えします!」

 アドウの三側近の一人、軍師のくも八の元に、伝令兵が駆けて来る。くも八は、まさかと言ったように広場の方へ目を向ける。

 「弓兵隊隊長のカゲ斗弓(とき)様が、たった今、・・・何者かによって討たれました!」

 伝令兵の言葉を聞いたくも八の額を、たらりと汗が伝う。その後ろでは大将のアドウが、先程までとは打って変わって険しい表情になり、眉を(しか)めている。

 


 「ハァハァハァ・・・」

 広場の戦場の中、肩で息をするシカの周囲を、兵達が囲んでいる。後ろでは、完全に気を失っているカゲ斗弓を、兵達が本陣へ向かって運んでいる。

 「ハァハァ・・・。やったよ。父ちゃん、母ちゃん」

 シカが微かに微笑む。

 すると周囲を囲んでいた兵達が、一斉にシカに襲い掛かる。シカは再び白魚(しらうお)拍子(ひょうし)の構えを取る。



 ガキィン! ガキィン! 広場の正門付近の城壁では、しゃらく一行が町人を囲み兵達を()ぎ払いながら、正門の方へと歩を進めている。

 「ハァハァ! あと少しだァ!」

 牙王(がおう)の姿のしゃらくが鋭爪を振り回し、周囲の敵兵達を一掃する。その間に後方にいたウンケイが、しゃらくと入れ替わり先頭に立つ。

 「ハァハァ。あと少しだ! 踏ん張れよお前ら!」

 ウンケイが後ろに隠れる町人達を見る。町人達は首が取れそうな程、首を縦に振っている。

 「よし!」

 ウンケイはニヤリと笑い、大薙刀(おおなぎなた)を振り回し兵達を薙ぎ倒して行く。ウンケイとしゃらくが先頭と殿(しんがり)を交互に代わりながら進む中、その脇腹の防衛を担当しているのが、巨大な赤鬼に変化したブンブクである。ブンブクは変化した風貌(ふうぼう)とは裏腹に、両の目を力一杯(つぶ)ったまま、金棒を振り回している。しかし変化の力は見せかけだけではなく、兵達が次々と吹き飛んでいく程の怪力を有している。

 「おいブンブク! おれ達に当てんじゃねェぞォ!?」

 しゃらくの声も聞こえていないブンブクは、無我夢中で金棒を振り回す。

 「いいぞブンブク! その調子だ!」

 一方のウンケイはニッと笑いながら、ブンブクを褒める。

 「それに、思わぬ助っ人もな。何だか知らねぇが頼むぜ皆!」



 そんなしゃらく一行の後方の壁付近では、盗賊のリキ(まる)が二対の大刀を振り回し、兵達を薙ぎ払っている。

 「・・・こ、こいつ何て怪力だ!」

 「怯むな! こっちには数がいる!」

 兵達が次々にリキ丸に向かって行くが、その巨体から放たれる怪力の一撃に怯んでいる。

 「なんだ侍ぃ! こんなもんかぁ!?」

 するとリキ丸が両の大刀を構える。

 「“()()し”ぃ!!」

 ドドドドドォッ!!! リキ丸が両の刀を交互に振り回し、周囲の兵達が次々に吹き飛ばされて行く。

 「次ぃ!!」

 リキ丸が唾を飛ばす。



 一方広場の中央では、カゲ斗弓同様アドウ三側近の一人であるガマ比古(ひこ)と、盗賊の駄エ門(だえもん)が睨み合っている。二人は、共に見上げる程の大男で、周囲の兵達がまるで子どもに見える程の迫力である。

 「クックック。どうした? ガマ比古さん。かかって来いよ」

 駄エ門が前に出した手の指を動かし、ガマ比古を挑発する。

 「くっ・・・! 生意気な口効きやがって!」

 顔を真っ赤にしたガマ比古が、駄エ門に刀を振りかぶる。

 「望み通り真っ二つにしてやる!!」

 ガキン!!! ガマ比古の振るう刀を、駄エ門の大刀が弾き返す。

 「な・・・何!?」

 「おいおい何だそりゃあ? 歩兵隊長さんよぉ」

 ニヤリと笑った駄エ門が、片腕で大刀を振りかぶる。ガマ比古が目を見開く。

 「次は俺の番だ」

 ガギィィン!!! 駄エ門が片腕で振るった一撃を、ガマ比古が刀で防ぐもその力は凄まじく、ガマ比古の巨体が吹き飛ぶ。

 「ハァハァ…」

 ガマ比古の額を大量の汗が伝う。目を丸くしたガマ比古の刀を握る手に、ビリビリとした痛みが走る。その様子に、周囲の兵達も目を見開いている。

 「・・・ガマ比古様が吹き飛ばされるなんて・・・。あの大男、一体何者なんだ?」

 皆の視線の先、駄エ門が大刀を片手で持ち上げ、肩に乗せる。

 「何だ、興覚(きょうざ)めだぜ。・・・ちったぁ力の差が縮まってると思ったのによ」

 眉を(ひそ)めた駄エ門が首を(かし)げている。

 「くっ! てめぇ! なに寝言言ってやがる!? 力の差だと!? まるでてめぇが昔から、俺より強かったみてぇな言い草だなぁ!?」

 顔を真っ赤にしたガマ比古が、腰を落とし刀を構える。

 「そう言ったんだぜ?」

 駄エ門がニヤリと笑う。

 するとガマ比古が、尻が地面に付きそうな程腰を落とし、袴がビリビリと裂けるほど(もも)膨張(ぼうちょう)する。

 「“蝦蟇(がま)()び”!」

 ダァンッ!! 地面が(えぐ)れるほどの勢いで、ガマ比古が地面を蹴る。そのまま目にも止まらぬ速さで、駄エ門に突っ込む。ガンッ!! しかし駄エ門は、ガマ比古の刀を大刀で受け止める。

 「くっくっく。効かねぇなぁ」

 駄エ門がニヤリと笑う。

 「これならどうだ?」

 するとガマ比古が再び腰を落とし、右の腿が膨張する。ダン!! 再び物凄い勢いで駄エ門に突っ込む。ガンッ!! 駄エ門も再び大刀で防ぐが、間髪入れず今度はガマ比古の左の腿が膨張し、突っ込んで来る。ガン! ガン! ガン! そのまま交互の脚で、ガマ比古が幾度も突進して来る。

 「“蝦蟇飛(がまと)輪唱(りんしょう)”!」

 ガン! ガン! ガン! ガン! 終わりない攻撃に駄エ門も付いていくが、防戦一方になっている。

 「はははぁ! さっきまでの威勢はどうしたぁ!?」

 ガマ比古が唾を飛ばす。しかし駄エ門は相変わらずニヤニヤと笑みを浮かべている。

 「おらぁ!」

 ブオン! 駄エ門が隙を見て大刀を振るが、ガマ比古は素早く後方へ跳んでそれを(かわ)す。

 「はっはっは! 言ったろ!? もう前までの俺とは違ぇんだよ! 俺はアドウ様と出会い、全てを手に入れた!」

 ガマ比古がニッと笑う。

 「それから俺には新たな野望が出来た! このまま向かって来る奴全員を叩きのめして、俺はアドウ様に天下を獲らせる! はっはっは! 野盗の頃じゃあ考えつきもしなかった野望さ!」

 ガマ比古が両手を広げ、鼻息を荒くする。

 「・・・昔のよしみだ。最後にもう一片だけ聞いてやる。駄エ門お前、俺の兵になれよ! 俺と一緒に天下を獲ろう!」

 ガマ比古が手を差し出す。

 「・・・クックック。相変わらずてめぇは馬鹿だな。そんな馬鹿なてめぇの大将は、更にどうしようもねぇ馬鹿らしい。お似合いで良かったじゃねぇか」

 駄エ門がガマ比古を嘲笑(ちょうしょう)する。ガマ比古は顔を真っ赤にする。

 「てめぇ! アドウ様を侮辱(ぶじょく)するな!! ぶっ殺してやる!!」

 するとガマ比古は刀を放り、地べたに四つん()いになる。その様相は異様で、ガマ比古の両腿は更に膨張し、そして蝦蟇の様に(のど)を膨らませている。その様子に駄エ門がニヤリと笑う。

 「“蝦蟇(がま)・・・”」

 刹那(せつな)、駄エ門が姿を消す。ガマ比古が目を見開く。

 「・・・クックック。これしきで天下だと? 面白ぇ。てめぇはまさに井の中の(かわず)だぜ」

 いつの間にか、ガマ比古の背後に回った駄エ門が笑っている。駄エ門が肩に(かつ)ぐ大刀には、真っ赤な血が(したた)っている。

 「・・・な、・・・アドウ・・・さ・・・ま・・・!!」

 バタン! 笑う駄エ門の背後で、ガマ比古が崩れ落ちる。ガマ比古の体は、腰から真っ二つに斬られており、その体から大量の血がドクドクと流れ出る。

 「あばよ。ガマ比古さん」


 完

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