第六十一話 「崖登り」
奥仙は南山の砦にて、しゃらく、ウンケイ、ブンブクの一行は、砦内の八百八狸達に歓迎され、山の幸をふんだんに使った御馳走を前に、宴が開かれている。その賑やかな広間には、子狐のコン吉の姿もあり、同じ背丈のブンブクと肩を組んで楽しそうにしている。
やがて狸達は自分の膨れ上がった腹を叩き、ポン! ポン! ポン! と狸囃子を鳴らす。しゃらくも真似をして自分の腹を叩くが、狸達のような音は全く鳴らず、それでも負けじと叩き続けている。その様子を見て一同がドッと笑っている。賑やかな笑い声と狸囃子は、南山の砦に夜通し響き続ける。
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夜が明け、狸達とコン吉に見送られながら、しゃらく一行は砦を後にする。食料を山ほど分けて貰い、大荷物になった一行は、分かりやすいように注釈が書き足された古地図を頼りに、この広大な奥仙の森を進んで行く。
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それから二晩、一行はすったもんだがありながら奥仙の森を進み、遂に巨大な森の端に辿り着く。目の前には入って来た時と同様、見上げても先が見えない巨大な崖が聳え立っている。
「これを登れば奥仙を抜ける」
巨大な崖を眺めながら、ウンケイが呟く。
「・・・つったって、こんなのどう登りゃアいいんだよ」
後ろのしゃらくとブンブクが、目を点にして口をあんぐりと開けている。
「そうだな。見た所、低くなっている場所は無さそうだ。やはり自力で登っていくしかねぇか」
ウンケイが崖の岩肌を触りながら、淡々と話す。
「おいおいウンケイ! そんなの登るだけで何日掛かんだよ!」
しゃらくが唾を飛ばす。
「何も全員が一緒に登る必要はねぇ。誰か一人が崖上に登って、狸達から貰ったこの綱を木に巻き付けりゃあいい」
「あァなるほどな! そんじゃア誰が行く?」
しゃらくとウンケイが一斉にブンブクを見る。ブンブクの尻尾がペタリと下がる。
崖下にて、ウンケイが下向きに構える大薙刀の刃の上に、頭の上にブンブクを乗せたしゃらくが乗っている。ブンブクの体には、砦の狸達から貰った長い綱が巻き付けられている。しゃらくはニヤニヤと笑っているが、対称にブンブクの方はブルブルと震えている。
「準備はいいか? いくぞ」
「おう!」
「クゥ~ン」
泣きっ面のブンブクを尻目に、ウンケイが薙刀を握る手に力が入る。そして、ブゥオォォォン!!! 勢いよくウンケイが薙刀を振り上げる。すると、しゃらくとブンブクが勢いよく上空へ飛んで行く。風を受けるしゃらくとブンブクは、顔を無茶苦茶にしながら眼前の崖上を見据える。
そして勢いが緩まって来ると、しゃらくがすかさず岩肌に鋭い爪で掴まり、勢いのまま岩肌を猛烈に登って行く。ブンブクは必死にしゃらくにしがみ付いている。しかし崖はほぼ垂直の為、しゃらくの鋭爪を持ってしても限界があり、登って行く速度が徐々に落ちていく。
「ハァハァ・・・そろそろ限界だ! 行くぜブンブク!」
しゃらくがニッと笑う。ブンブクは顔を真っ青にしている。するとしゃらくが、必死にしがみ付くブンブクを無理矢理引き剝がし、片手で持ったブンブクを振りかぶる。
「どォりゃァァァァ!!!!」
ビュゥゥン!!! 思い切り投げられたブンブクは、物凄い勢いで崖上目掛けて飛んで行く。ブンブクは風圧で目も開けられないが、目からは涙が溢れ出ている。
そして崖上間近の所になると、徐々に速度が落ちていく。するとブンブクは、懐から一枚の木の葉を取り出し、頭の上に抑えながら、もう片方の手で指を立てる。ボン! ブンブクの体が煙に包まれると、煙から一羽の鷹が飛び出す。
「ハァハァハァハァ」
ブンブクが変化した鷹は、舌をダラリと出して、羽をバタバタと羽ばたかせている。すると、ブンブクを横風が襲うが、ブンブクは必死で羽を動かす。一方のしゃらくは、爪を崖に立てて、崖の岩肌に留まっている。
「大丈夫かよあいつ! わっはっは!」
更に下にいるウンケイも、崖上を見上げている。
「・・・」
ブンブクはゆっくりではあるが、少しずつ着実に上昇して行く。そして遂に崖上に前足が届き、ブンブクが崖を登り切る。
「ヘッヘッヘッッヘ!」
変化を解いたブンブクが、舌をだらりと垂らし任務を忘れ、嬉しそうに尻尾を振ってそこら中を駆け回っている。
やがて無駄な体力を使った事により力尽きると、のそのそと近くの大きな木に近づき、木の幹に綱を巻き始める。しかしブンブクは体が小さい為、上手く巻き付けられずにいる。
「・・・あいつまだかよ?」
崖の岩肌で待つしゃらくと、崖下のウンケイが、先の見えない崖上を見上げている。
「落ちるならとっくに落ちて来る筈だよな?」
ウンケイが心配そうに崖上を見上げる。
崖上で苦戦するブンブクだが、何か思いついた様にハッとし、傍に落ちていた木の葉を頭に乗せ、指を結ぶと再び煙に包まれる。すると中から出て来たのは、なんとウンケイの姿。ウンケイに化けたブンブクが、ぐるぐると力強く綱を巻き始める。やがて巻き終えた綱を力強く結ぶと、綱の先を崖下に投げ込む。
「お! 来た来た」
人間の何倍もの聴力と視力を有するしゃらくが、投げ込まれた綱を見つける。バシッ! 崖の岩肌を駆けたしゃらくが、綱を見事捕まえ、綱の先端を崖下のウンケイに向かって投げる。そして綱の先端が、ウンケイの少し上の岩肌を叩く。
「よし登るか!」
*
日が暮れて、空に月が浮かび上がった頃、ようやく最後尾のウンケイが崖を登り終え、三人全員が崖上に寝転ぶ。
「はぁはぁはぁ。・・・少し痩せねぇとな」
仰向けに寝転ぶウンケイが、月を見ながら息を切らしている。
「あァ〜腹ァ減ったァ〜!!」
その隣に寝転ぶしゃらくは、舌をだらりと垂らしている。一方のブンブクは、夜風に吹かれて気持ち良さそうに目を瞑っている。
「はぁはぁ。・・・何はともあれ、これで奥仙を抜けた」
「次はどこだっけ?」
しゃらくが、寝たままウンケイを向く。
「おいおいお前が言い出したんだ、忘れんじゃねぇよ。子将軍を倒しに行くんだろ?」
「あァそうだった」
しゃらくがニコリと笑い、目を瞑る。
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夜が明け、しゃらく一行は町を目指して歩を進める。奥仙は抜けたが、一行の行く道は未だ森の中で、チラチラと木漏れ日を受けながら森を進む。
「お、森を抜けるぞ」
先頭を歩くウンケイの視線の先、森の木々が開けて日が射している。
「やっとかよォ~。腹減ったぜェ~」
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「おいおい噓だろ!?」
少し時が経ち、森を抜けて近くの城下町までやって来たしゃらく一行だが、目の前の景色に呆然としている。かなり大きな城下町ではあるが、そこには賑わいや活気などは無く、それどころか人の気配すら無い。立ち並ぶ店や家屋も所々が朽ちている物もあり、この町から人がいなくなって、かなり日が経っているようである。
「・・・一体何があったんだ? 戦に巻き込まれたにしては綺麗過ぎる」
ウンケイが周囲を見回す。そして一行は、周囲を気にしながら、城の方へ歩みを進める。奥に見えている立派な城は、朽ちることなく綺麗な状態である。
やがて城の近くまで来ると、道の真ん中に大きな瓦版が立っている。一行は不思議そうに瓦版を覗き込む。
「・・・徴兵令。此度、我が国を脅かす反乱者の討伐へ向け、徴兵を行う。手柄を挙げた者には報酬を遣わす・・・」
完




