第21話
街道をニ頭立ての馬車を中心に武装した人間たちが進んでいる。
徒歩の者もいれば、馬を引いている者もいた。
我らは木の影からその様子をじっと眺めていた。
偵察に行った者の言っていた通りの人数のようだ。親父殿から四頭で行けと言われたが大袈裟だ。こんなものは俺だけで十分だ。
早く片付けて、合流しないと我々の遊ぶ分がなくなってしまう。
悲鳴を上げながら無様に逃げ惑う姿を見るのが好きなのだ。
無抵抗な人間どもを蹂躙するのは愉快で仕方がない。
少し気になることがある。人間どもが妙に急いでいる。
何かに追われて逃げているようにも見えない。むしろ、どこかへ急いで向かっているようだった。
日暮も近い。人間どもの考えることなど知れたものではない。どうせ寝床を急いでいるだけだろう。
どうでもいいことだ。
奴らはただの前菜だ。
楽しもうではないかと、同胞の三頭に声をかけようとした時だった。
ヒュッ
不意に風を裂く音が聞こえた。
三本の矢が木々の合間を抜け、我らに向かって飛来した。
一本を俺が掴む。
残る二本も同胞が容易く受け止めた。
愚かにも、人間どもから仕掛けてきたらしい。
「グルルルル……」
同胞の一頭が牙を剥いていた。
鼻息は荒く、顔は怒りで紅潮している。
そうだな。
舐めたことをしてくれた。
これはお返ししないといけなかろう。
俺は掴んだ矢を人間どもに投げ返すと同時に駆け出した。
人間どもにこちらの位置は割れている。
ならば隠れる必要はない。
堂々と正面から蹂躙してやろう。
投げ返した矢が何か金属で防がれた音がした。できる人間がいるらしい。
それと同時に人間どもの正面に躍り出る。
馬が甲高く嘶いた。
それを引いていた人間は腰を抜かしたように、近くの人間に縋っている。
なんとも情けない。
同胞たちが人間どもを囲む。
数十歩の距離など一息だ。
激昂した同胞が二、三歩で弓兵へ肉薄した。
同胞の腕が肩から地面に落ちた。
一瞬、理解が追いつかなかった。
何が起こった。
視界の端で鈍く銀色の何かが閃く。
それは馬車の幌を切り裂き、外へ突き出ていた。
鈍く銀色に光る、異様に幅広い刃だった。
「グギャギャギャ……!」
遅れて同胞の絶叫が響く。
人間ごときが、我らを傷つけるなどあってはならない。
ましてや腕を断ち切るなど。
何をした。
これは何だ。
馬車の幌を破り、一つの影が現れた。
その手にはおかしな形をした大剣が握られている。
頭には角のような物が見える。
……人間か?
そう思った矢先、奴は大きく大剣を薙ぎ払った。
腕を切られた同胞は体勢を崩した。その隙を逃さず、大剣が再び閃き首が宙を舞う。
どちゃり。
鈍い音を立てて、何が起きたかわらぬという顔のまま同胞の頭が地面へ転がった。
おのれ、おのれ、おのれ!
人間風情が!
大剣の人間の近くにいた同胞が襲いかかるが、盾を持った人間によって阻まれ、両手斧の人間の一撃が同胞の首を裂く。
「グギャッ」
また一頭か——!
即死は免れたようだが、首から胸元まで深々と切り裂かれている。並々と血が滴り落ち、長くはなかろう。
「……硬いな」
両手斧の人間がつぶやいた。
「マジかよ、一刀両断だと思ったんだが……
まぁ、これだけ入れば十分だ!イケるぜリュウ!」
我らを前にして怯まず、笑いよった。
その間に弓兵から矢が放たれる。
鬱陶しいことこの上ない。
矢を避け、両手斧と盾持ちの攻撃をいなす度に、一歩、また一歩と馬車から遠ざけられていく。
胸の奥に、今まで感じたことのない嫌な予感が芽生えた。




