第17話
第一層を抜けた直後、
空気が変わった。
霧は薄くなったはずなのに、
視界はむしろ悪い。
【因果異常地帯:第二層】
【法則:変動】
【再現性:なし】
……嫌な卓だ。
「……ここ、
さっきと同じじゃない」
エルが呟く。
正しい。
同じ賭け方が通じない。
闇カジノで一番危険なのは、
“勝ちパターンを信じたまま座り続けること”だ。
「止まれ」
俺は、全員を制止した。
【因果補正:作動】
【警告:成功ルートが分岐中】
道が――
複数ある。
だが、
どれも“完全な正解”じゃない。
「……厄介ね」
前に出たのは、
双子のもう一人――リゼだった。
今まで一歩引いていた彼女が、
初めて剣に手をかける。
「この層、
“選択そのもの”が罠」
【分析能力:高】
【戦場理解度:極めて高】
……なるほど。
「踏み出した理由で、
結果が変わる」
「つまり?」
カイルが聞く。
リゼは、
淡々と答えた。
「迷った瞬間に、死ぬ」
……シンプルで最悪。
その時。
後方で、
短い悲鳴。
王国護衛の一人が、
突然膝をついた。
「っ……!」
【存在:不安定】
【回復不能】
次の瞬間、
その男は――
“いなかった”。
血も、音も、
痕跡すら残らない。
【脱落者:1】
【因果確定】
エルが、
顔を青くする。
「……国家が用意した、
精鋭よ……」
「ここでは関係ない」
リゼが、即座に言った。
「肩書きも、
訓練も」
【正論:100%】
……ここは、
生き方の差が出る場所だ。
「俺が前に出る」
俺が言うと、
リゼが首を横に振る。
「一人じゃ無理」
【因果補正:単独行動リスク高】
「この層は、
“視点”が複数必要」
彼女は、
一歩前に出る。
「私が判断を分ける」
……覚悟、決まってるな。
「リィナ」
「分かってる」
リィナは、
魔力を最小限に抑え、
“干渉しない支援”に切り替えた。
【魔力暴走確率:低下】
カイルが、
舌打ちする。
「クソ……
運も流れも、
全部バラバラだ」
「だからだ」
俺は、
深く息を吸う。
【因果補正:強制発動】
【精神負荷:急上昇】
世界が、
一段“重く”なる。
数字は、
もう見えない。
だが――
“結末だけ”が、
ぼんやりと見える。
「……左だ」
「理由は?」
エルが聞く。
「説明する時間がない」
【判断信頼度:賭け】
リゼが、
即座に決断した。
「左に行く」
迷いがない。
それが、
この層で唯一の正解だ。
進む。
地面が歪む。
空間が、
一瞬だけ反転する。
だが――
消えない。
「……生きてる」
エルの声が、震える。
【第二層:通過判定】
その直後。
【王国側通信:強制接続】
空気が、
震えた。
「……こちら、
魔導庁本部」
低い声。
【国家介入レベル:引き上げ】
「想定以上の損耗を確認」
つまり――
本気になったということだ。
「以後、
あなたたちの判断を最優先する」
エルが、
唇を噛む。
「……国家が、
指揮権を手放した」
それが、
何を意味するか。
カイルが、
乾いた笑いを漏らした。
「賭け金、
跳ね上がりすぎだろ」
俺は、
前を見据える。
【因果異常地帯:第三層予兆】
【生存率:未確定】
……だが。
ここまで来たら、
引く選択肢はない。
「行くぞ」
リゼが、
静かに頷く。
エルは、
一瞬だけ目を閉じ、
覚悟を決めた顔で開いた。
リィナは、
何も言わない。
だが――
背中が、語っている。
第二章は、
もう“探索”じゃない。
生き残った者だけが、
真実に近づく段階に入った。
そして俺は、
確信していた。
この卓を設計した“誰か”は、
まだ――
こちらを試しているだけだと。




