第16話
出発前の準備は、思ったより静かだった。
王国使節団が用意した馬車の前で、
俺は装備の最終確認をしていた。
【装備状態:良好】
【想定生存率:高】
「ねえ」
声をかけてきたのは、
双子の片割れ――エルだった。
「少し、話せる?」
【単独行動提案】
【拒否した場合の情報損失:中】
【受諾時の好感度上昇率:高】
……断る理由はない。
「構わない」
エルは、
俺を馬車の陰へ誘導する。
その仕草は自然で、
警戒心を刺激しない。
「正直に言うわ」
彼女は、
声を少しだけ落とした。
「私、あなたが怖いの」
【本心:高確率】
……意外だな。
「理由は?」
「制御できないから」
即答だった。
「リゼは監視役。
私は調整役」
エルは、
軽く笑う。
「でもあなたは、
調整が効かないタイプ」
【評価:極めて正確】
「数字が壊れても進む。
因果すら踏み越える」
……よく見てる。
「それで?」
「それでね」
彼女は、
少しだけ距離を詰めた。
「だから、
味方でいてほしい」
【信頼構築イベント発生】
【拒否した場合の後悔率:高】
……国家の人間が、
こんな賭け方をするとはな。
「俺は、
賭けに勝つ側だ」
「知ってる」
エルは、
柔らかく微笑んだ。
「だから、
勝つ側に付くの」
……合理的だ。
その時。
【因果異常地帯接近】
【警告:強】
空気が、
変わった。
「来たわね」
エルの表情が、
一瞬で引き締まる。
「ここから先は、
遊びじゃない」
合流すると、
リィナとカイルも
すでに察していた。
「……嫌な匂いがする」
カイルが言う。
【直感評価:正解】
地図にない霧。
歪む地形。
【因果異常地帯:侵入】
一歩踏み込んだ瞬間、
視界が揺れた。
【成功率:算出不能】
【死亡率:算出不能】
……最悪だ。
「止まって!」
リィナが叫ぶ。
だが――
遅い。
前を歩いていた
王国護衛の一人が、
突然、消えた。
音もなく。
血もなく。
【存在消失】
【原因:不明】
「……初見殺しか」
闇カジノで言うなら、
ルール説明なしの即退場。
「動くな!」
俺は、即座に叫ぶ。
【因果補正:発動準備】
【精神負荷:上昇】
地面を見る。
踏み出した瞬間、
“死”に繋がる道筋が、
薄く見えた。
「……道が、
間違ってる」
エルが、
息を呑む。
「見えるの?」
「結果だけだ」
【最適ルート:存在】
俺は、
一歩、斜めに踏み出す。
次に、
半歩戻る。
「ここを通れ」
カイルが、
信じきった顔で従う。
「賭ける価値、
十分だ」
リィナも、
迷わず続く。
最後に、
エルが来た。
【彼女の生存率:安定】
無事、
霧を抜ける。
背後で、
空間が歪み、
元の道が消えた。
「……嘘でしょ」
エルが、
震えた声で言う。
「国家魔導庁の計算、
全部無意味だった……」
俺は、
息を吐いた。
「だから言っただろ」
「ここは――
賭け場だ」
エルは、
俺を見る。
さっきまでの観測者の目じゃない。
【感情:信頼+恐怖】
……いい変化だ。
だが――
まだ、始まったばかりだ。
【因果異常地帯:第一層突破】
【次層危険度:上昇】
この場所は、
一度成功しても、
同じ賭け方が通じない。
そういう卓だ。
俺は、
奥へと視線を向ける。
「……配当は、
これからだ」




