第13話
リィナは、眠れずにいた。
宿の天井を見つめながら、
胸の奥に引っかかる違和感を、
何度も噛み砕こうとする。
――理由は、分かっている。
紅晶。
そして、
あの戦いの最中に感じた
**“視線”**だ。
(……見られていた)
確信に近い感覚。
森の中で、
確率攪乱の男を倒した後。
あの一瞬、
世界の奥から――
こちらを値踏みする意識があった。
【危険感知:作動】
【原因特定:不能】
……それが、一番厄介だった。
「……落ち着きなさい」
小さく呟き、
リィナは目を閉じる。
記憶の奥。
決して思い出さないようにしていた、
古い光景が浮かびかける。
赤い結晶。
円陣。
大人たちの声。
『これは、世界を動かすための鍵だ』
『選ばれた家系にしか扱えない』
(……やめて)
彼女は、
無意識に胸元を押さえた。
あの力は、
誇りであると同時に、
呪いだった。
だからこそ、
彼女は一人で抱え込むつもりだった。
――あの男と出会うまでは。
(あの人……)
彼の顔を思い出す。
数字を見ているようで、
数字に縛られていない目。
運が崩れた瞬間に、
一段“深いところ”へ踏み込んだ動き。
(……同じ)
彼女は、
それを口に出すことはできなかった。
だが、
心のどこかで理解している。
あの人は、
こちら側に近い。
「……もし」
リィナは、
誰もいない部屋で、
声にならない問いを落とす。
「もし、
“あの人たち”が、
まだこの世界にいるなら……」
答えは出ない。
だが、
一つだけ確かなことがある。
――彼が、
これ以上深く踏み込めば、
いずれ“彼ら”に見つかる。
(それだけは……)
守りたい、と思った。
理由は分からない。
理屈でもない。
ただ――
彼が賭けに出る時、
そこに覚悟があるのを、
リィナは知ってしまったから。
窓の外で、
夜風が揺れる。
遠くで、
鐘の音。
【不穏因子:接近中】
彼女は、
ゆっくりと目を開けた。
第二章は、
もう“観測”の段階を越えている。
(……次は、試される)
誰が、
どこまで知っているのか。
そして――
誰が、
こちらを殺しに来るのか。
リィナは、
静かに息を整えた。
まだ、
言えないことが多すぎる。
でも――
一人で抱えるには、
この賭けは重すぎた。




