第12話
世界は、
思ったよりも――
単純にできている。
黒い部屋。
壁には地図。
無数の印と、線。
その中央で、
男は静かに指を動かしていた。
「……紅晶は、無事に届いたか」
【結果:成功】
【損失:軽微】
【想定外要素:あり】
想定外。
男は、
その文字を見て、わずかに口角を上げた。
「また、か」
この世界では、
“想定外”は珍しくない。
だが――
質が違う。
確率攪乱。
保険として配置した駒。
本来なら、
あれで十分だった。
にもかかわらず、
結果は覆った。
「数字が、壊された……?」
いや。
違う。
男は、
別の可能性を思い浮かべる。
「……数字の外に出た、か」
それは、
彼自身がかつて辿った道。
記憶の底に、
懐かしい感覚が蘇る。
――前の世界。
確率。
統計。
期待値。
「……やはり、
同類が混じっているな」
男は、
机の上の小さな駒を一つ、
盤面に置いた。
《異常因子:一》
名も、顔も、
まだ不要だ。
重要なのは――
盤に乗ったという事実だけ。
「問題は……
どこまで“こちら側”に近いか、だ」
彼は、
ゆっくりと視線を移す。
もう一つ、
赤い印。
《紅晶関係者》
「……あの家系も、
まだ使える」
すべては、
段階だ。
急ぎすぎれば、
駒は壊れる。
ゆっくり、
だが確実に。
男は、
過去を思い出す。
「この世界は、
最初から“攻略可能”だった」
スキル。
才能。
運命。
そんなものは、
後付けだ。
重要なのは、
ルールを知っているかどうか。
彼は、
静かに目を閉じた。
「……転生とは、
やはり便利だ」
だが――
口に出すことはない。
この世界では、
“知っている”という事実そのものが、
最大のアドバンテージになる。
「焦るな」
彼は、
自分自身に言い聞かせる。
「まだ、
こちらの名前を知る段階じゃない」
異常因子は、
成長させる。
力を得させ、
仲間を集めさせ、
世界に爪痕を残させる。
その上で――
刈り取る。
それが、
最も効率がいい。
男は、
新しい駒を一つ置いた。
《観測開始》
「踊れ」
静かな声。
「運を信じる者よ。
因果を掴んだ者よ」
そして、
まだ自覚のない“同類”よ。
「この世界が、
どれほど理不尽か――
思い出させてやる」
盤の上では、
何も起きていない。
だが、
確実に――
第二章は、始まっていた。




