第11話
金貨二十枚という報酬は、
手に取るとずっしりと重かった。
重さ以上に――
その価値が、よく分かる。
【当面の生活が安定する確率:99%】
【次の大勝負に出られる確率:87%】
ギルドの中は、
紅晶の件でまだざわついていた。
「単独で攪乱持ちを突破したらしい」
「いや、魔導師の少女と組んでたって話だ」
「三人目がいたとも聞いたぞ」
噂は勝手に膨らむ。
闇カジノでも同じだ。
勝った人間の話は、必ず誇張される。
だが――
問題ない。
噂は、盾にも剣にもなる。
「……静かにしてもらおう」
低い声が響いた。
振り返ると、
ギルド長が立っている。
年季の入った鎧、
無駄のない立ち姿。
【脅威度:高】
【敵対確率:低】
【信用獲得余地:大】
……なるほど。
「今回の護衛依頼、
正式に“成功”と認定する」
その言葉で、
場の空気が引き締まった。
「そして――
君たち三人を、
特別枠として記録する」
ざわっ、と音が走る。
「特別、ですか?」
俺が聞くと、
ギルド長は頷いた。
「表に出せない依頼が、
この街にはいくつもある」
【高難度・高報酬依頼解禁確率:91%】
……来たな。
闇カジノで言えば、
VIPルームへの招待だ。
「断る理由は?」
「ない」
即答だった。
リィナは何も言わない。
だが、隣に立つその姿勢が
答えだった。
カイルは、
楽しそうに口笛を吹く。
「いやあ……
想像以上に、デカい賭けになりそうだ」
【この男の興奮度:高】
【暴走確率:低】
使える。
ギルドを出たあと、
三人で街外れの酒場に入った。
情報屋と冒険者が集まる、
少し薄暗い店だ。
「まずは自己紹介だな」
カイルが、軽く手を挙げる。
「俺はカイル。
元賭博師で、
今は“流れ”を売って生きてる」
「流れ?」
リィナが聞く。
「人の欲、焦り、
裏切りの兆し」
彼は指を鳴らした。
「そういうのが、
“匂い”で分かる」
【カイルの能力:危機察知/対人特化】
【パーティ相性:良】
……補完関係、完璧だな。
「あなたは?」
カイルが、今度はリィナを見る。
彼女は、少し迷ってから答えた。
「……私は、
魔導触媒に関わる家系」
それ以上は言わない。
【開示情報:制限あり】
【それ以上追及した場合の信頼低下率:34%】
深追いは、今じゃない。
「で、あんたは?」
カイルが俺を見る。
「俺か?」
グラスを置き、
一拍置いてから言う。
「賭けに勝ち続けたいだけの男だ」
カイルは、
にやりと笑った。
「一番信用できる答えだ」
その時――
酒場の空気が、微妙に変わった。
【敵意の視線:3】
【接触イベント発生確率:高】
来る。
三人組の男たちが、
こちらの卓に近づいてきた。
装備は揃っている。
だが、目が――
“値踏み”している目だ。
「おい」
中央の男が言う。
「最近、派手にやってるのは
お前らか?」
【挑発】
【戦闘発展確率:52%】
半々。
カイルが、
俺より先に口を開いた。
「忠告だ。
今はやめとけ」
「なんだと?」
「この卓、
“当たり”だ」
男たちは笑った。
「何言って――」
その瞬間。
【因果補正:軽度発動】
【相手の判断ミス誘発】
男の一人が、
足を引っ掛けて転んだ。
酒がこぼれ、
周囲の視線が集まる。
「……チッ」
「今日はやめだ」
男たちは、
捨て台詞を残して去っていく。
静寂。
リィナが、
小さく目を丸くした。
「今の……?」
「因果の流れを、
ほんの少し押しただけだ」
【精神負荷:軽】
使いどころを間違えなければ、
問題ない。
カイルは、
興奮した様子で笑った。
「最高だな。
運と流れと、因果操作」
彼はグラスを掲げる。
「なあ、
本気で言っていいか?」
「何だ?」
「俺たち、
この街を食える」
【成功可能性:高】
――同感だ。
だが、その時。
【異常検知】
【遠隔観測の兆候】
……誰かが、
見ている。
視線の“質”が違う。
【黒幕存在確率:82%】
【敵対勢力が動き出す可能性:高】
リィナも、
同じことを感じたのか、
表情を引き締めた。
「……始まったわね」
「何がだ?」
カイルが聞く。
「紅晶の“本当の持ち主”が、
動き出す」
俺は、静かに息を吐いた。
なるほど。
依頼完遂。
仲間加入。
評価上昇。
――全部、
盤面を整えるための前振りだったわけだ。
闇カジノでは、
こういう時に必ず言われる。
「本番は、ここからだ」
俺は立ち上がり、
二人を見る。
「賭け金は、
もう払った」
リィナが頷き、
カイルが笑う。
「なら、
最後まで付き合うぜ」
【パーティ結束率:上昇】
【次の賭けで生き残る確率:高】
――いい。
この世界は、
確率だけじゃ足りない。
因果。
流れ。
そして、信頼。
それらが揃った時、
賭けは――
必ず、面白くなる。




