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夜会での重大発表

 今夜の夜会は重大な発表があると周知され、思い当たる者は期待に満ち溢れ、わからない者は首を傾げて夜会の開催を待っておりました。

 季節は夏を過ぎて秋に入り、まだ多少の暑さは残るとはいえ、朝晩は冷え込み大分過ごしやすくなってきた季節でございますので、わたくしも最近では大分体調の良くなった体に、新しく用意いたしましたドレスを着用して参加することになります。

 ただ、いつもと違うのは、わたくしがいつも使っている一般の貴族が出入りする出入り口ではなく、王族が使用する出入り口からの入場となるという事でございます。

 ルツァンド様にエスコートされて会場に入った瞬間、予想のできている者はやはりという顔をしておりました。

 待機部屋が別でございましたので「なんでお姉様が」などと呟かれましたが聞き流すことに致しました。

 わたくしは本日は重大な役目があるのでございます。

 わたくしとミリアは叔父様の斜め横、すなわちお婆様と並んで一段高い位置に座っております。

 マレウス様達はそれよりも二段ほど下に座っておりまして、今回の重大発表に思うところがあるのかマレウス様は先ほどから無表情でございます。

 叔父様が会場内を見渡して、視線が集中し、ある程度静かになったところで、よく響く声で夜会の開始を告げるとともに重大発表があると告げました。

 そしてわたくしとミリアの名前が呼ばれましたので、わたくしとミリアは立ち上がり簡易な礼を取ります。


「すでに気が付いている者もいるやもしれぬが、第一王子妃であるミリアと、王位第三継承権を持つシシリアが懐妊をした。シシリアは自らが矢面となることでミリアの懐妊を秘匿することに協力してくれたこと、ありがたく思う」

「勿体ないお言葉でございます」


 本当は、わたくしの方が懐妊初期症状が重くつわりも激しかったため、自然とそうなってしまったのですが、叔父様はそう言う事にしてくださったようでございます。


「そしてここに宣言する。サフィールの子供とシシリアの子供を番とし、次期王位継承者とする」


 流石にその言葉にはザワリと会場内から声が漏れます。

 わたくしとミリアの懐妊に気が付くことが出来たとしても、一世代飛ばして王位を継承させるという変則的な事を宣言されるとは思わなかったのでしょう。


「もちろん、シシリアとサフィールの子供が異性であることが条件になるが、異性として生まれた時点で、それぞれの持つ王位継承権は子供に移行するものとする。これについてはすでに王閣議で決められた事である、反論は聞かぬ」


 最後に力を籠めて言えば、多くの貴族が、というよりも会場にいる貴族が頭を垂れ忠誠を誓うようにしております。

 けれども、強い視線を感じてそちらを向けば、憎悪のこもった視線が向けられており、わたくしは思わずクスリと口の端を持ち上げて笑ってしまいました。

 現在懐妊している貴族の夫婦はタイミングの良さに喜び、懐妊していない若い夫婦は懐妊するように努力しなければと決意を新たにしているようです。

 叔父様の挨拶が終わり、わたくしとミリアが席に戻って座ると、入れ代わり立ち代わり貴族の方々が短くではありますが挨拶に来てくださいます。

 それに挨拶を返しながら一通りの挨拶が終わったかと息を吐いていると、不意にわたくしの前に影が差しました。


「お姉様」

「あら、なにかしら?」

「懐妊したなら、どうしていってくれなかったんですか」

「お前にわざわざ教える必要があるかしら?」

「私達姉妹じゃないですかっ」

「今回は国家事業に関わる事でしたので、安定期に入るまで秘匿とすると叔父様がおっしゃったのですよ」

「それです!」

「なんです?」

「お姉様とサフィール様の子供が次代の王になるなんてありえないわ。マレウス様が国王になるはずでしょう!」

「そんな事、いつ決まりましたの?」

「だって、サフィール様は病弱で国王が出来るわけがないし、優秀で健康体のマレウス様が国王になるのが当たり前じゃないですか」

「おバカが国王になってしまっては国が傾いてしまいますわ」

「はっ!? マレウス様が馬鹿だっていうんですか!?」

「ええ、そう言いましたわよ」

「何の権利があってそんな風にマレウス様を馬鹿にするんですか!」

「権利というよりも事実を述べただけですわ。お前は第二王子妃ではなく王妃にでもなるつもりだったのかしら? 土台無理な話なのに?」

「なんでですか! 私は公爵家の娘ですよ!」

「半分が平民の血だからですわ」

「な……」

「講義が足りていないようですわね。王族の正室になるには、少なくとも両親ともに貴族籍のものでなければなりませんのよ」

「そんなの知らないわ!」

「何度も講義されているはずなのですけれどもね」

「嘘よ! お姉様は嘘をついているんだわ!」


 そう言って掴みかかってこようとしたのをわたくしを護衛している衛兵によって止められます。

 この夜会にて帯剣を許されている彼らを前に、流石のこの子でも臆したようで、ギロリとわたくしを睨んで立ち去って行きました。


「散々講義しているはずなのじゃが、身についていないのでは意味ないの」

「そうですわね」


 会話を聞いていたお婆様がため息を吐くのでわたくしは苦笑して返します。

 あの子はわたくしが言った意味を理解しましたでしょうか?

 『王族の』正室になるには少なくとも両親ともに貴族籍である事が条件だ、といった言葉を。

 もとより、第二王子妃になどなれるわけがないという事を、ちゃんと理解したでしょうか?

 まあ、していないでしょうね。


「シシリア様」

「まあ、オベロン様」

「驚きました、シシリア様は懐妊しているかもしれないとは思っておりましたが、まさかミリア様まで懐妊しているとは」

「ふふ、わたくしたち仲がいいでしょう」

「シシリアはわかりやすかったものね」

「仕方がありませんわ。こればかりはどうしようもないのですから」


 同じ妊婦でも懐妊初期の体調が良いときや悪いときがあると聞きますし、本当に読めませんわよね。


「しかしながら、もし生まれた子供が同性であったらどうするおつもりですか?」

「また子供を産みますわね」

「そうですか」


 そう言った瞬間オベロン様の瞳がきらりと光りました。

 何が言いたいかはわかっておりますので、わたくしは扇子を広げてクスリと笑いました。


「わたくしは最初は男の子がいいのですが、こればかりは神のみぞ知るという所ですものね」

「然様ですね」


 我が国は別に他国にあるような男系の子供しか国王になれないという事は無く、女王があった時代もございましたので実際にどちらを産んでも問題はありませんのよね。

 一応サフィール様の方が王位継承権は高いので、サフィール様の子供に合わせた性別の子供が伴侶となるでしょうけれども、その場合最初の子供は男の子が欲しいわたくしとしては、ミリアには女の子を産んでいただかないといけないのでしょうか?

 まあ、深く考えても仕方がないですわね。

 生まれる時期はほとんど同じですが、ミリアの方が若干早いので、わたくしが同性を産んでしまったら落胆の声が出るかもしれませんが、また子供を作ればいいだけですので、そんな声は気にもなりませんわね。

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