女子トーク
現在の学園の女王が誰かと聞かれれば、多くの人がわたくしの名前を上げるでしょう。
王姪姫であり、モストロム侯爵子息夫人として正式に社交界に出入りする淑女。
けれどもそれを快く思わない者がいるのも確かな事で、隙あらばその地位を陥れようとするのも、また貴族の在り方だとわたくしは受け入れております。
「妹さん、随分と好きにしておりますのね。姉として少しは教えて差し上げてはいかが?」
「まあ! 貴女はお花と会話が成立しますの? いえ、植物に話しかけるというのは良いと聞きますけれど、貴女もそう言うご趣味がございますの?」
「本当のお花のように動かず、話さずにいればよろしいのに、ピーチクパーチク、あれでは小うるさい鳥ではありません事?」
「囀るしか能のない小鳥なんて見逃して差し上げるのも淑女のたしなみではございませんかしら?」
「まあお優しい、流石はシシリア様ですわ。私は繊細でどうしても気になってしまいますの」
「それはお気の毒ですわね。そんなに繊細な心をお持ちでは、正室として夫を支えるのはさぞかし大変でしょうね。ご婚約が調ったとお聞きしましたのに、今からさぞかし不安でしょうね」
わたくしはそう言ってわざとらしいほど優雅な仕草でカップを持ち上げ、中に入っている紅茶を一口飲みます。
「ご心配には及びませんわ。婚約者との仲は良好ですもの。シシリア様こそ幼い頃に嫁がれて、随分と年の離れた御夫君に不安でございますわよね」
相手の令嬢も負けじと優雅にカップを持って紅茶を一口飲みました。
「お心遣い感謝いたしますわ。けれどわたくしがそのような苦労をするわけがありませんわ。旦那様はわたくしのお願いをよく聞いてくださいますのよ」
「おねだりのし過ぎは少々はしたないのではございませんか?」
口元に手を当ててクスリと笑う令嬢に、わたくしは扇子を畳んだまま口元にあててにっこりと笑みを浮かべます。
「面白い事をおっしゃいますのね。このわたくしの望みが叶わないなんてありえませんわ」
「まあ、流石の自信ですわね。けれどもご夫君は女性のもとに通っているという噂も聞きますわ。気丈なのはよろしいけれど、本当はお辛いのではございませんか?」
「いつの話をなさっているのかしら? それに高位貴族の者が援助の必要な者を囲うのはある意味義務でもありますわよ。それを理解できない方を妻に迎える男性はご苦労なさいますわね」
そう言ってわずかに首を傾げると、令嬢は顎を持ち上げて口の端を持ち上げて笑みの形を作りました。
「それで不純な血の子供のしつけがなっていないのでしたら、居ない方がいいのではないかしら」
「高貴な血と、そうでない者の血と言うのはどうしようもない差があるものですわ。それを受け入れるのも高貴な血を持つ者の役目と言うものではないでしょうか」
「だからと言って野放しにしていいものではありませんわ」
「そうですわよねえ、わたくしもそうおもいますわ。けれどもマレウス様が気にかけているような花ですのよ、貴女はそれを無碍に捨ててしまうおつもりなのかしら?」
「ではマレウス様に忠言なさったら如何かしら。いつまでも道端にしか咲くことのできない花など気にしないようにと」
「ご自分でおっしゃればよろしいのではありませんか? ああ、ごめんなさい。そんな事を言えるような身分をお持ちではないのでしたね」
クスクスと笑うわたくしに令嬢は一瞬顔をしかめましたが、すぐにすました顔を作りました。
「私は自分の立場をわきまえておりますの」
「なら、どうしてこのわたくしが貴女の戯言を聞いているのでしょうか? 国王陛下の姪であり、次期侯爵夫人であるこのわたくしに、ただの子爵令嬢であり、伯爵家嫡男の婚約者でしかない貴女が、気安く話しかけるなんて、どうしてでしょうねえ」
「それは、この学園の先輩として」
「ええ、もちろんわかっておりますわ。ですからちゃんとお話を聞いて差し上げておりますでしょう? それで?」
「なんでしょうか」
「感謝の言葉はございませんの? 異母妹に対する話のようでしたから時間をとって差し上げておりますのよ。いつまでこのわたくしの時間を無駄に浪費させるおつもりなのでしょうか」
顎を少し持ち上げて見下すように言うわたくしに、令嬢は悔しそうに口を歪めると、それでも令嬢として叩き込まれたマナーを蔑にするわけにもいかず口を開きました。
「っ……。お時間を頂きありがとうございました。私はこれで失礼します」
去っていく令嬢の後姿を見ながらわたくしは満足そうに笑うと、それまで黙って話を聞いていた友人達に向かって口を開きました。
「次のお茶会に彼女を招待いたしますわ」
「まあ、あのような方をですか?」
「ええ、そうですわ。よろしいでしょう?」
「シシリア様がそうおっしゃるのでしたら私共に否やはございません」
「あの方、お気の毒ね」
ミリアが肩をすくめてそんな事を言ったので、わたくしはきょとんと眼を瞬かせてシャリーア様を見ます。
「このわたくしのお茶会に参加できるなんて光栄、の間違いですわよね?」
「ええ、もちろんでございます」




