学園生活と書いて戦いと読みますわ
十五歳になった貴族の子供は学園に通う事が義務付けられております。
そして、その一カ月前には顔合わせを兼ねた入学予定者と在校生のパーティーが行われるのです。
これは大人はあまり口を出さず、将来を担う若者たちの実力を確認するための大切な行事でもございます。
「あら、あの口紅のお色、随分派手ですわね。似合わないのではなくて?」
「けれどもドレスは随分子供っぽいものをお召しですわよ」
「まあ、本当に」
会場の中央付近、わたくしの周囲には数名の令嬢が集まり、地方からやってきた令嬢の観察をしております。
「少しはシシリア様を見習ってはどうかしら?」
「駄目ですわよ、シシリア様だからお似合いなんですもの。ちょっと真似たぐらいではねえ」
「そうですわね」
わたくしはそんなヒソヒソとした話を聞くだけで、ミリアやシャリーア様と優雅にお茶を飲んでいます。
ヒソヒソと話を続けている令嬢達の観察対象がどんどんと変わっていき、わたくしたち以外に大きな集団を形成しているマレウス様のほうまで行きついたらしく、若干声が高くなりました。
「そういえば、先ほどからマレウス様の周囲にいらっしゃる方々、素行が悪いという噂ですわ」
「そうそう、先日此方にいらしたばかりの辺境伯のご子息と派手に喧嘩をなさったんですってね」
「ほら、あちらの」
令嬢達がそう言って扇子で示したのでわたくしも視線を向けると幾人かで集まっている中の一人と目があいました。
黙礼すると笑みを返され、自然に目が反らされます。
東の辺境伯とその従兄弟だったかと思っていると、令嬢達はまたヒソヒソと会話を再開します。
「勝てない相手に喧嘩を売るなんて、中央貴族として恥ずかしいですわ。そんな方がマレウス様の傍に居るなんて、情けない事ですわ」
「サフィール様もまた欠席なのでしょう? この国の先が思いやられますわ」
「しっ。滅多な事を言ってはいけませんわ」
流石に口が過ぎると令嬢達が揃って黙ってしまうと、タイミングを見計らっていたのか、数名の子息が笑みを浮かべてわたくし達に近づいてきました。
「ご令嬢方。飲み物は如何ですか?」
「まあ、いただきますわ」
「取ってこさせましょう」
中央貴族の中でも有望株と言われている伯爵家の子息、まあ、わたくしの幼馴染でダンスの練習相手なのですが、わたくしのすぐそばに近づいてきます。
そこでやっとわたくしは扇子を広げて口元を隠すと、幼馴染のティムリー様を見て口を開きました。
「マレウス様のところに行かなくてもよろしいの?」
「挨拶は済んでいますよ。諸先輩方にもね」
「然様ですの」
「なによりも、同級生になる麗しいご令嬢方とお話ししたいと馳せ参じたんですよ」
「あら、そうでしたの。ああ、ありがとうございます」
わたくしは給仕が持ってきたグラスを手に取って、すっとその手を持ち上げました。
倣うように周囲の子女がグラスを持ち上げたのを確認して、「乾杯」と言ってからグラスに口を付けます。
「そういえば、シシリア様の異母妹の姿が見えないようだけれど?」
「先ほど中庭の方に出て行ったようですよ」
「まあ、今日は小雨が降っておりますのに、わざわざ中庭に?」
その会話に、全員が信じられないとため息を吐き出しました。
「こういっては何だけれど、彼女は四歳にはレイバール公爵家に引き取られたのですよね?」
「ええ、わたくしの記憶が正しければ同じ家庭教師が付いていたはずですわね」
「それにしてはなんというか、まだ男爵令嬢の方がわきまえていると言うか、あれで公爵家の令嬢とは言えないのでは?」
「そうですわね。我が異母妹ながら頭の痛い事ですわ」
「あれでは我が家に仕えているメイドの方が余程マナーがありそうだ」
からかうように言われた言葉に同調するようにクスクスと笑い声が起きます。
そんな中、ティムリー様がふと顔を上げて声を出しました。
「おや」
「どうしました?」
「噂をすれば。マレウス様とティアンカ様がお揃いのようですよ」
その言葉に中庭に続く扉を見れば、マレウス様に手を引かれたティアンカの姿がありました。
小雨とはいえ雨に濡れたせいで髪型や化粧は崩れ、ドレスも雨の染みが付いており、裾には泥が付いています。
所々にある葉っぱは何だというのでしょうか。
その光景は会場にいる者の注目を集め、談笑が止み、視線が二人に集まります。
眉をしかめる者、好奇の目を向ける者など様々ですが、しん、とした会場にふとわたくしの声が響きます。
「みすぼらしい」
その声はティアンカやマレウス様にも届いたのでしょう。
ティアンカは泣きそうな顔で俯き、マレウス様はギロリとわたくしを睨んでいらっしゃいました。




